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スマホ壊れかけのため、書いてあった分を出しています。この前に1話投稿しています。
見当違いな感情を向けられている椿が舞香に興味を持つはずがなく、彼女は温和な椿に嫌われた正真正銘のやべーヤツとして春宮から徹底的に避けられるようになった。当然である。信用度が違った。
舞香が現れるとどこからともなく警備員がやってくる。そして親元に連絡も行った。舞香は歯噛みしたが、他校の周囲を彷徨く小学生は普通に誘拐される可能性も出てくるので見つけた警備員が連絡するのはある種当然だし、両親には安全のためにまっすぐ帰ってきて欲しいと懇願された。
「はは、そんなわけでお目付役に選ばれたんだけどもうそれだけで超迷惑だから大人しくしてろよ。いとこちゃん」
笑顔で毒を吐かれた舞香はその少年を睨みつけた。
焦げ茶の髪に同じ色の瞳。笑顔が似合うその少年は有栖川兎月。舞香の父、郁人の弟の子だ。
非常に残念なことに、郁人は先だってのパーティーの件で両親含む家族から説教を受けていた。
「自分が引き取った娘の教育すらできないのか」
そう言われればぐうの音も出ない。春宮を敵に回してまで離婚するのだから、覚悟はあるのかと問われ続けた結果であったからだ。
桜子は最終的に何かに思い当たったらしく、「良いわ。離婚してあげる。……ただし後悔はしないことね」と不遜な態度で言い切った。最後まで子どもの話はしなかったが、結果的に春宮で生活している。
そうして、躾を持て余した郁人とその妻は我が子の教育も一応しながら、お目付役を探した。
しかし、舞香は両親には天真爛漫な可愛い我が子であっても、彼女の周囲の人たちにとっては我が儘で自分勝手な屁理屈ばかり言う女の子だった。当然、そんな子に自分の子どもを友人として差し出す親は見つからない。春宮に喧嘩を売った件で距離を置かれていたから余計にである。
それをみかねた郁人の弟は、同い年の息子を連れてきた。もちろん、「ダメだと思ったらすぐに辞めていい」と言われている。どういう意味だと怒る兄に、「兄貴は薫子だけでなく、その娘の行動にも興味がないのか?」と呆れたように告げた。
そんなわけで、彼は舞香のやることなす事ほとんどに文句をつけている。
渋々ながらも舞香が行動を正しているのにも理由があった。
──兎月は隠しキャラを出すためのキーパーソンであった。
薫子はそういう人がいる、ということしか知らないが、しききみに於いて追加DLCにて選べるようになる隠しキャラ。白銀の髪に赤い瞳を持つ、人間離れしたとびきりの美形。
舞香の最推しの青年と出会う為に彼の評価を上げておく必要があった。
しききみにはミニゲームパートがある。
その中で学力・運動・教養・美容のゲームをハード以上で行い、全てをSランククリアした場合にその青年が出てくる。
兎月の気遣いによってそれの難易度が微妙に優しくなる場合がある。なので、彼の好感度を上げておく必要があった。
いとこの兎月は本来そういった行動を取る舞香のお助けキャラだ。非攻略キャラクターではあったものの、時折り飛び出る攻略キャラクターへの辛辣なセリフと、気遣いのできるその態度から一定数のファンの人気を誇る。
舞香に対しては常に優しく気遣ってくれるはずの少年は、しかし舞香に対して非常に厳しかった。
それも薫子が有栖川に対して特に嫌がらせをしていない事、舞香が本来のヒロインのような清い態度でない事が原因であったりする。
しききみでは、幼少時唯一の心の支えであった父親を奪われた薫子は春宮の権力の一部を使って有栖川を倒産寸前まで追い込むなどしていた。だからこそ有栖川舞香は令嬢でありながら、奨学生として白峰学園に入学する事となる。
その不憫かつ、彼女の努力だけではどうにもならない逆境があったからこそしききみにおける兎月は優しく舞香を導く青年であった。
ところが、である。
今世の薫子は有栖川に何もしていないので、兎月に憎まれる要素がない。むしろ、何もしていないからこそ兎月の中で彼女への好感度が知らない間にゴンゴン上がっていたりする。ゲームシステム上うっかり隠しキャラが会いにくるレベルまで上がっている。
そして、今世の舞香は兎月の目にはこの年齢から男漁りをするドン引き必至の少女だった。何もしてこない、何も知らないだろう相手に対して飲み物をかけようとしたあたりで好感度はすでにマイナスであったりする。多少擁護するべき点があると両親には聞いていたが、今の言動でバッチリ自分の所感が正しいと察してしまい「やっぱり嫌い」という気持ちが大きい。
そんなわけで、彼女に迷惑をかけないようにとお稽古事に舞香を容赦なく放り込み、学校帰りには即座に捕獲して車に押し込む容赦のないお目付役は、ギャンギャン喚くいとこに冷めた目を送りながら溜息を吐いた。
「私は愛されて当然なの!!椿だってそうに決まっているんだから勝手なことしないで!」
「あー、はいはい。夢の中で生きられるヒトって幸せでいいよな」
全く信用していない声音である。
もし彼女が、それこそゲームのままの有栖川舞香であれば、兎月はきっと薫子にとっての椿のようになっていただろう。だが、そうではないので彼は今日も容赦なくいとこへの好感度を急転直下の勢いで下げていた。




