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円と出会った翌日、薫子は熱を出した。その間に、諒太の誕生日が来てしまったので、薫子は布団の中から「選んだプレゼントをメッセージカードをつけて送って欲しい」と清子に頼んで送ってもらった。
中々引かない熱にやきもきしながらも、三日後には座って話ができるまでに回復していた。一層過保護度が増した祖父母に世話を焼かれながら、薫子はそれが嬉しくて少し泣きたくなった。
前世では余り縁がなかったものだし、現世でも薫子が薫子のままであれば手に入らなかったものだ。
それにしても、と薫子はあの時出会った、とても怖い少年を思い出して身震いした。
細身で可愛らしい容貌をしていたが、中身までそうでないのはすぐにわかった。薫子が怯える様に悦んでいた。
(お母様は、本当に望んで嫁がれたのかしら)
環は桜子の名を口にする時、恍惚とした表情をしていた。その時の表情が円と少し被る。
言い知れぬ不安感を抱きながらも部屋にいると、控えめに戸を叩く音がする。
「はい」
それに返事をすると、カラカラと音を立てながらゆっくりと戸が開いて左右から椿と諾子がひょっこりと顔を見せた。
二人の顔を見た薫子はほっとしたように笑う。
「薫ちゃん、もう元気?大丈夫?」
「ええ。熱はもう下がっているの」
不安そうに尋ねてくる諾子にそう返すと、諾子はパァっと明るい表情を見せた。近寄ってきた諾子に「お見舞いに来てくれたのね。ありがとう」と微笑む薫子の隣に、椿は静かに座った。その顔はまだ心配そうである。
薫子はそっと寄り添うように側にいる椿の頭を撫でると、少しだけびっくりしてそれから、照れるように俯いた。
「椿さんも来てくださってありがとう」
「いえ…俺も、会えなくて寂しかったので」
寂しい、なんて普段口に出す彼ではなかったので薫子は「まぁ…」と口に手を当てて驚いた後に、少し照れてしまった。
「私も薫ちゃんが一緒じゃなくって寂しかった!!もっと元気になったら一緒に遊ぼ!!」
そう言ってニカっと笑う諾子に薫子は頷いて、それから少し救われたような心地になる。
「ええ。ぜひ誘ってね」
明るく笑って手を引いてくれる諾子が薫子には眩しく思えた。そして、諾子は静かに微笑む薫子の優しい温かさが好きだ。
そんな二人を見ながら、椿は仕方がないなぁという顔をした。
「二人とも、無理だけはしてはいけませんよ」
「大丈夫だもん!椿がいるし」
三人でそうやって笑い合う。
薫子はずっと怖い気持ちを抱えていたのが楽になったのを感じていた。
そして椿は会えなかった時間とストレスですり減らした心を埋めるように薫子から離れず、帰る時に両親に引き摺られて帰っていった。諾子は不思議がる薫子に「色々あったんだよ」と言って苦笑した。




