20
祖父母と散策をしたり、美術館・博物館等を見て回ったりして穏やかな休日を楽しんでいた薫子は、テラスでゆっくりとバラを見ていた。
すると、「薫ちゃーーーん!!」という大きな声と共に足音が聞こえてくる。
薫子は「まぁまぁ…」と言いながらも嬉しげに頬を緩めた。
「薫ちゃん!!」
バラのアーチの向こうから諾子が嬉しそうに走り寄って来る。そのまま薫子に飛びつくと、驚いた薫子は尻餅をついた。
「……ふふ、お久しぶり。驚いてしまうから飛びついてきてはダメよ?」
「えへへ、ごめんね」
追いかけてきた椿は溜息を一つ吐き、諾子が飛びついた時に落ちた薫子の帽子を拾う。「驚く、よりもお二人とも怪我をしてしまうのでいけませんよ」と苦笑した。砂を払っている間に諾子が慌てて立ち上がったので、椿は薫子に手を差し伸べた。
「ありがとう。椿さん」
「いえ、当然のことです」
そのまま帽子を手渡すと、駆けつけてきた清子が薫子を回収していった。服が汚れてしまったので着替えのためである。
早速連れて行かれてしまった薫子を見てしょんぼりした諾子を見ながら、椿は(犬かよ)と思った。諾子も椿のことを犬だと思っている節があるのでお互い様である。
着替えをしている間に桃子にお説教されている諾子をよそに、そわそわと薫子の泊まっている部屋の方面を見る椿。椿の両親は微笑ましそうに息子を見ていた。椿は基本的に感情の表出が少なめであるが、薫子が関わると途端に感情豊かになる。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって」
セーラー風のワンピースに着替えた薫子が帰ってきて、諾子は「かおちゃん、そっちの服も可愛いよ!!」と笑って「もう少しだけお淑やかになさいな」と桃子に窘められる。
「藤孝さん、花梨さん。薫子さんと諾子さんをよろしくお願いしますね」
今日は椿の両親が引率をする予定になっているので桃子はそう頼む。二人は顔を見合わせて頷き、「はい」と微笑んだ。
椿はすでに薫子の隣を陣取っていた。「楽しみですね」とにこにこしている。椿は薫子が自分たちに甘いのを知っているので距離感を容赦なくなくすし、さりげなく行きたい場所を伝えたりしている。なお、行きたいところの基準は「薫子が喜ぶ場所」であったりするのでそこまで害はない。
諾子の準備も終わったところで彼らは藤孝と花梨と一緒に車に乗り込んだ。
ちなみにこっそりとカメラマンと警護を雇っているあたり、薫子の祖父母は孫が好きで心配性だった。
「薫ちゃん!私、お友達と旅行初めて!!」
そう言われて、薫子も少し思い出す。前世も含めて友達と旅行なんていうのは修学旅行くらいだった。
「私も初めて」
照れたように薫子は笑った。




