18
夏休みに入って一週間の後、とある日曜日。
薫子はミントグリーンのドレスを、諾子はレモンイエローのドレスを。そして、葉月はサーモンピンクのドレスを身に纏っていた。
クールビューティーの薫子、スポーティーで愛嬌のある諾子、大人しく可憐な葉月という三人組はすごく目立った。
その側には、穏やかで優しげな風貌の椿、生意気そうな顔立ちの中に気品を感じさせる雪哉、明るく爽やかな笑みを浮かべる諒太の三人が居た。この三人組もひたすら目立った。
柏木夫婦はそんな娘の様子をドレスが綺麗なうちに写真に収めようと必死だし、黒崎夫婦も娘が友人と過ごす様子を記録しようと常時ビデオカメラを所持していたりする。彼らは互いに見つめあった後、握手と名刺交換をした。後に写真と動画を交換し合うためである。一瞬にしてわかり合ってしまったあたり、彼らは子煩悩である。
美樹は行きたいと駄々をこねていたが、黒崎家の当主が「次は何をいうか分からんやつを連れて行けるか」と切り捨てた。理人と美樹の両親も何故だか行けると思っていたらしく、顔を青くしていた。
いくら薫子が覚えていなくとも、言った事の事実は残っているし、いくら春宮が桜子を実質勘当したとはいえ、そもそも既婚者を狙うなんてもってのほかである。美樹には反省の欠片もなかったし、理人に「ズルい!!私がお義姉さんの振りをすればいいんじゃないかしら!」とか言い出したので最終的に理人は彼女をホテルの部屋に閉じ込め、ホテルに頼んで扉に南京錠をかけてから出かけてきた。
(何が「ズルい」だ。甘やかされて育ってきたお前の方がよっぽどだろうに)
思い出してウンザリとした顔をしていた理人の袖を、少し怒ったような顔で彼の妻の皐月が引っ張った。
「娘の友人が見ているかもしれないのですよ。もう少ししゃんとしてくださいな」
「そうだね。ありがとう、皐月さん」
お礼を言って微笑んだ理人に皐月は満足そうに笑った。そんな両親を見て葉月もほっとしたような顔になる。葉月は両親が大好きだった。とはいえ、彼女が嫌いなのは虐めてくる絵梨花や人の話を全く聞かない美樹のような人物くらいのものであったりする。
「夏休みの宿題、ちょっと多くない?」
げんなりとしたような諾子の声に苦笑しながら、薫子は「そうかしら」と返す。葉月は課題が発表された時からちまちま家でやっていたのでもう半分ほど終えている。そのため、彼女もどちらかといえば不思議そうな顔をしていた。
「後は朝顔の観察と絵日記くらいのものだからそうでもないと思うけれど」
薫子の言葉に諾子は頬を膨らませた。
薫子は残しておいたらすぐ出来ることに慢心して面倒になってしまう自分を察してしまったので、早めに終わらせた。そうしたら喜んだ祖父母に問題集もさらに増やされてしまったので意外と暇でもなかったりする。祖父母はうちの孫お勉強好きなの偉いと思っているだけである。薫子は祖父母が嬉しそうなのでまぁいいかなぁと呑気に手をつけはじめている。
「薫子様、すごく早いですね」
「ふふ、私めんどくさがりなだけなのよ?早く終わらせたら、いっぱい遊べるじゃない」
悪戯っぽくそう言った薫子に、諾子は「本当だ!!」と納得した。葉月は(宿題ってそれで早く終わるものなのかなぁ)と少しだけ首を傾げた。
その後ろで聞いている椿も薫子と同じ進捗状況だし、雪哉と諒太も8割がた終わっていたりする。
椿は薫子と一緒に居たいがために、稽古事と睡眠時間以外をひたすら宿題に費やした。おかげでここ二日ほど独り占めである。自慢せずに黙っているからそんな状況だと思っている同級生はいない。椿はここ数日こっそり上機嫌だった。
六人が飲食をしていると、夜空に大輪の花が咲いた。
薫子は(こういう時って浴衣の方がいいのかしら)とちょっとだけ思ったりもしたが、嬉しそうな声の諾子と葉月を見て、まぁいいかと思い直す。
「綺麗ですね」
いつの間にか薫子の側にいた椿は微笑む。夏の花に照らされながら、「ええ、本当に」と見つめ合う二人は映画のワンシーンのようだった。




