16
白峰学園は高校からは進学校として知られているが、その初等部中等部は超セレブ校としてのイメージが強い。
実際、通う多くの子供は良い家柄や経済的に優れている家庭の子供が多い。
そんな学校であるからか、プールは室内だし、運動は基本的にドームのようなところで行っている。
芸能活動をしている子も少なくない為、日焼け等してしまうと保護者から大きなクレームが出ることもあるからだ。
薫子は正直、「そんな我が儘な……」と思ったけれど、祖母や椿の母が「薫子ちゃんの綺麗な肌が焼けたら、寄付金を少なくしなければ」とか言っていたので迷惑をかけないように必死に日焼け止めを塗っている。
可愛がられるのは嬉しいが、モンスターペアレンツ化はやめて欲しいと考える薫子だった。
そんな訳で、外に出るときの薫子は基本的に日傘をさしている。しかも、だいたい傘を持っているのは椿だ。自分で持っているとすぐに駆け寄ってくるので、薫子は非力扱いされる事が増えてきた。薫子は甘やかされているだけで別段、病弱でも非力でもない。椿は満足そうなのだが、体裁が悪いなとか思ったりもする。
何度か取り返しもしたが、とてもショックを受けた顔をするので返してしまった。
薫子は結構幼馴染に甘かった。
薫子がそんな状況にも関わらず、諾子は結構勝手に走り回ったりしている。
小麦色に焼けた肌も彼女の活発さを際立たせている。愛らしいが、両親的にはお嬢様としてはどうかと思っているので諾子の父母はちょっと悲しんでいたりもする。
肝心の諾子は薫子が「あらあら、日に焼けても可愛いけれど、お手入れはちゃんとなさいね。日焼けって軽度の火傷だっていうから」と言うので「かおちゃんが可愛いって言うからいっか!」と思っていたりする。
肌のお手入れは薫子のところに行ったらせっせとやってくれたりするので父母は胃を押さえているが、諾子的には満足している。諾子は薫子に甘やかされるのが好きである。
そんな諾子に「春宮様と椿様を振り回すなんて!」という人たちもたまに出てきたが、それを見た薫子が「諾子さん、おいで」と手招きした後。
「あのね、私のお友達に何か御用かしら?」
とちょっと怒り気味に言ったら居なくなった。名も知らぬ人より諾子が健全に育つ方が薫子にとっては重要なのだ。
やっぱり薫子は幼馴染に甘かった。
「最近、様付けで呼ばれるの。やっぱり、この学園特有なのかしら?」
「学園は小さな社交場の意味もあると、母も言っていましたし、春宮は格が高い家柄ですからね」
小学1年生ってそんな事気にするものだったかしら、と薫子はちょっと困った顔をした。彼らというよりは、彼らの両親がそう呼びなさいと指導をしている。
小さい子供だからとハングリー精神旺盛にイケメンになりそうな格上との縁談狙いをしている子供達を放っておいた結果、幾つかの家が春宮・冬河という敵に回したらとんでもない事になる家から直接苦情をいただいてしまっていた。
むしろ、薫子の中身が比較的温和で優しかったからこそ今までのことが収まってきた事を突き止めて真っ青になった家もある。
それに合わせて、薫子の事を気味が悪いと感じる人間と同じくらいかそれより多いくらいには薫子の善意と気紛れで助けられた人たちもいた。そんな彼らが薫子過激派になっている場合もある。
薫子の母である桜子にも信者と呼ばれるような存在がいたので、当時を知る者の一部は、「方向性は違っても妙な人間を引き寄せるのは遺伝か?」と思ったりもする。
桜子は薫子と似た容姿ではあったが、受ける印象は全く違う女性だ。
華があり、妖艶で、どんな事をしたかを聞かされてもなお目が離せない。
そんな彼女に懸想する人間は男女問わず少なくなかった。
薫子はふとした瞬間に少女らしからぬ色を見せることはあれども、基本的には清廉で慈悲深い印象を抱かせる。時折、折れてしまいそうな儚さに自分が守らなければと妙な決意を抱く人間すらいる。
方向性は違えども、目を惹く親子であった。




