119
髪を緩く巻いて、ハーフアップにし、ドレスは氷の妖精を思わせる水色。
クリスマスにとあるパーティーに招待された舞香は柔らかく微笑みながら義兄のエスコートを受けていた。
話す内容を聞きながら、時折朱夏は身体を強ばらせた。こんなことが円に知られれば、という考えがどうしても頭を過ぎる。だが、瞬時にあの黒髪の少女を思い出して苦虫を噛み潰した顔をしそうになるのを堪えて優雅に微笑みを作る。
現段階で言えば、朱夏よりも舞香の方が余程根性が据わっていた。自然に笑みを作って、さも円に愛されているかのように振る舞う。
「バレたらややこしいことにならん?」
「大丈夫よ。むしろあの方が自分の生活を維持するためには私に乗っかるしかないもの」
四季神という名家で育った彼が、今更一番下から這い上がれるか。頭は回るけれど、どこか傲慢さが見える彼に自分が見下してきた連中に頭を下げてやっていけるかと問われると舞香は否定するしかない。
「お兄様は薫子さんについた。甥の周さんには好かれていない。一部でも事業を下げ渡してもらえる可能性がある方法があるのならばそれを取るしか、彼がまともな暮らしをする方法はないもの」
もしかしたら自分ならば成り上がれると考える可能性もあるが、それが出来る可能性は少なかった。
春宮から嫌われ、生家には見向きされることもなく、愛情を語ったとされる舞香の手を取らなければ何が残るのか。カースト上位の人間たちに喧嘩を売った報いがあるとすれば四季神から離れることを選択したその時だろう。
「まぁ、本当に全部擲つことができるというのなら諦めるしかないけれど」
どこか余裕そうにも見える義妹は綱渡りをしているようには見えなかった。
(あの愛人…義母さんよりよっぽど出来が良いように見えるわぁ)
舞香の母もそこそこ良い家で苦労なく育ってきたように見えるけれど、やはり父とパーティーなどに出ている姿を見ると見劣りする。父には屈辱で歪む彼女の姿が魅力的に映るというが朱夏にはそんな趣味はなかった。
一方で、円という明確な目標があったためか、舞香の振る舞いはこの場にいても不自然ではなかった。結局は努力の差かもしれない。
「朱夏さんこそそろそろ身の振り方を考えた方が良いわよ。状況はあなたの方が危ういのですから」
確かに、と今度こそ苦笑する。
結局のところ、舞香は薫子に取り込まれたし、この件で一番嫌な場面を任されるだけあってその後の事を内密に話し合っているようだった。以前の短絡的なお花畑だった頃と比べると劇的な変化ではある。
「ま、なるようになるやろ」
朱夏はそう言って肩を竦める。
舞香が思っている以上には交友関係が広いのだ。保身に走る能力だけは人一倍の青年は震えるスマホを確認して口角を上げた。