118
秋も終わり、冬になる。
休暇中は比較的心休まる時間だ。少なくとも椿にとっては。
椿が願えば薫子は家からあまり出ないようにしてくれる。元正たちも進んで彼女を外へ連れて行こうとはもうしない。どうしても必要な社交の場のみの出席となっている。
それを残念に思う人間も多い。だが椿はそんな人間の薫子を見る瞳がいかに狂っているかを知っている。
だから外には出したくないと願うのだ。
「薫ちゃんの信者がやり過ぎてる気がするんだけど大丈夫?」
「全く大丈夫ではありませんよ」
憂鬱そうに溜息を吐く彼を見れば、薫子は心配するだろう。だからそんなところを見せるわけにはいかない。だって、薫子が自分のためを思って暴走するとそれはそれで嬉しいので手が出しにくいのだ。
「ですが、なんとかなる範囲です」
「なんとかするのが椿のお役目だもんね」
そんなことを言いながら、諾子も目を細めた。
兎月は思いの外、優秀で薫子のためになる。諾子も、一緒にいる時間を増やせば薫子が目をつけた理由がわかった気がした。
実際のところ、諾子の予想は外れていて、兎月がめちゃくちゃ諾子のことが大好きでそれなりに守れる能力を持っていたから確保されたという事情がある。つまり、薫子は自分の役に立つから諾子に彼を充てがっている訳ではない。
そして兎月は惚れた欲目と言うべきか、諾子に何かない限りは彼女を甘やかしたいタイプだった。
危険なことをすれば薫子並に怒るがそうではない場合はたくさん世話を焼きたがった。
なので、二人の邪魔をする薫子の敵は椿にたどり着くまでもなくそれなりに減っている。
兎月の元で握りつぶされている情報も多く、それは多くの場合薫子の元へ行く前に椿のところで解決される。
薫子のところに先に情報が行くケースが“稀”というところまで情報の統制ができるようになっているあたり男子二人の苦労が偲ばれる。
「何かあった時のおねだりは任せます」
「あー…うん。一生懸命ぶりっ子する」
薫子は椿よりも諾子のおねだりに弱かった。ほいほいお揃いの服を受け入れるし、手料理も作るし、お泊りもよほどのことがない限りは許されていた。
薫子は「椿さんはしっかりしているから」という意見のもと、最近ではどちらかというと「甘やかされたい」という態度である。そのおかげで助かっている部分もあるので、椿は今の状況に感謝している。
「結婚急いだ方がいいんじゃない?」
「最近、同じセリフを聞きましたね」
薫子の祖母、桃子が割と真面目にそう言っている。薫子が大人しくいうことを聞いて可愛い孫娘でいてくれているのは、椿がガッツリ頑張っているからだと彼女が一番感じている。