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叔父嫌いの周くん
「こんにちは!叔父様!今日はいい天気ですねぇ!!」
良い笑顔の周とは対照的に円は苛立ちを滲ませる。物事が予想以上にうまく進まずイライラする上に、目の前の甥がどこか挑戦的な目で自分を見ている事に気がついているが故だろうか。
「周、お前は機嫌がすこぶる良いようだね?」
「分かりますか?いやぁ、女の子のお尻を追いかけてばかりのあなたが気付くとは」
「何をしに来た」
表情の消えた叔父を見て肩を竦める。
煽りすぎたかと思う気持ちがある事も確かだが、言ってやらないと気が済まなかった。当然、彼と一緒に誰がいるかなんていうのも把握している。
四季神の血縁とはいえ、その名を使って動き回られるのもそろそろやめて欲しかった。
「叔父様が任されていた社交の一部、今年からお父様と一緒に僕が少しずつ担う事になりました。なので、春宮に執着している場合ではないですよ」
「兄上はお加減が悪かったんじゃないのかな」
「最近調子が良いんですよ。持つべきものは慈悲深い身内ですね」
元々、環の体調が悪いのは桜子に無視されているというストレスからだった。それだけ好きなら、もう少し関わり方を考えろと周は思っているが、双方が双方ともぶっ飛んだ思考回路の持ち主なので期待はしていない。
円は四季神の身内が何とか言ったのかと思っているが、周の言う身内とは「彼とは関わりがない」と円が思ってもみない少女である。策を押し付けた当の本人はただいま祖父母と避暑地でバカンス中である。
母親の面影を持つ、美しい姉を思い出すと表情がなんかやばいらしいと周囲に注意されている周は表情を固定している。
「部屋の中にいるお嬢さんとの縁談を進めるとお父様も言っておられるので、くれぐれも。…軽率な行動は慎んでくださいね?」
そう言って笑みを作る甥は恐ろしいほどに兄に似ていた。それと同時に、もう時間がない事も悟る。
(少なくとも、今年中に手にしてしまわないといけないか)
その会話を部屋の中から聞いていた舞香は素肌にシーツを纏って唖然とした。
あの二人がどれだけ思い合っているかなんて他人の自分が見てもわかるのに、円はまだこちらに向いてすらいない。
私を見てと叫ぶ心が悲鳴を出そうとするけれど、それと同時に愛されぬ痛みがその前に彼女を突き刺した。
(──私じゃ、ダメなのね)
「有栖川舞香」は造られた物語の中のヒロインであったから、「良い子」として造られたから薫子を突き落とす代わりに幸せへの切符を掴めたのだろう。
今の自分には何が残るのだろうと虚な瞳で考える。けれど思考も思いも、何もかもが虚しい気持ちの中で霧散していく。
狂おしいほどの恋情はまだ心に燻っていて、けれどそれで本当に幸せになれるのかと心の中の自分が叫ぶ。
「幸せって、何なのかなぁ」
小さく呟かれた言葉に応える声はなかった。
ただ恋した男が自分を見て、打算以上の何も映していないのが、何故だか酷く滑稽だった。




