11
小学生の頃の勉強は基本的にわからない事はない。なので、家ではもう少し難しい内容をやっている。
そんな薫子だったので、小学校にいる間にやる事なんていうものは友人作りくらいのものだ。
薫子が気がついた時には取り巻きと呼ばれる類の女子が集まってきていた。ご友人と言うにはあまりに彼女たちは薫子を便利に使いすぎていた。
薫子は、「なるほど、悪役令嬢はこうして出来上がるのねぇ」と思う。
要するに、「薫子のため」という大義名分の元に椿と雪哉から女を追い払いたいだけだ。小学一年生にしてこのような状態になっていることにはさすがの薫子も苦笑した。
そして、問題を起こす人間が出るたびにそのメンバーは入れ替わる。
最初にいたメンバーの三人は早々に椿へ媚を売りだし、椿が嫌がっているのに止めなかった事で薫子に追いやられた。その次のうち一人は諾子を追い払おうとして薫子が椿の時以上に冷ややかに追い払った。
とはいえ、「あなた、要らないわ。二度と顔を見せなくて結構よ」と言うだけで追い払ってしまえるのだから薫子の悪役令嬢としての力はピカイチなのであろう。家の力は大きい。追い払われたそのうちの数名は親が顔を真っ青にして子供同伴で謝りに来た。
「あら、その子は顔を見せなくて結構だと言ったのに」
特に悪質だった数名は薫子にそう言われて、春宮家に睨まれることを恐れた親が転校までさせた。薫子は二人にちょっかいを出されなければ比較的穏やかなので、そのうちにそういう人物はいなくなった。雪哉の周囲の女の子については無視をしている。なので、雪哉の過激派は周囲にいる。薫子の興味は割と極端だ。
その事に不満を持って薫子から少し離れたところで薫子と椿と諾子を見つめる男の子が一人。
雪哉である。
自分が友人になってくれと突撃したことをきっかけに、彼女の周囲には自分が嫌うタイプの女の子がいるようになってしまった。仲良くなるどころか、近づいて椿や諾子に何かあった場合、自分の好感度まで駄々下がりである。
彼にとっては由々しき事態であった。
更に付け加えると、そう言う女子たちは夏目諒太や、秋月朔夜へも熱い視線を送っていた。
まだ身体が強くない諒太は特に毎日「学校に行きたくない」としょんぼりしている。
要するに、椿と雪哉が現状薫子以外に目を向けないので側にいない二人が狙われているのである。
薫子という女子のカーストトップの少女に勝てる気がしないから他を狙う少女たちは、薫子というストッパーがいないために上級生も巻き込んで戦いを繰り広げているのだった。入学から一月も経っていないのにトラブル続きである。
「こんな調子で、来月の遠足は大丈夫かしら」
家でそう零した薫子に椿は苦笑する。彼はクラスが違うのであまり一緒に行動できないのだ。休み時間にせっせとやってくるあたりマメである。
諾子は同じクラスだが、面倒な子たちも一緒なので少しだけうんざりもしている。ただ、自分に何かしようとした人間がどうなるかを見ているので割と気楽だ。
「薫ちゃんが気にすることないよ。だって、薫ちゃんは何にも悪くないんだから」
そう言って笑う諾子に笑顔を返すと、椿がそっと袖を引っ張った。
「何かあったら言ってくださいね?」
気遣わしげに言われたその言葉に薫子は「大丈夫よ」と椿の頭を撫でた。
その脳内で「何かあったらあの不快指数高めのやつに投げればいい」とか思っていることを知っているのは本人だけだった。
椿は薫子に近づく男が片っ端から嫌いなだけです。




