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紅白に分かれてハチマキを結び、クラスごとに集まって整列する。
競技が始まる前に宣誓などを聞く“しききみ”では1年ながらに白桜会を掌握した雪哉が堂々とステージに立っていたが、現実には生徒会長が立っている。
薫子が知るはずもないが、ゲームの彼は薫子のせいで友達すら作ることが困難だった。暇つぶしにあれこれしていたら頂点に立っていた。けれど今の雪哉は恋愛面ではほぼ四季神のせいでチャンスすらまともに貰えないままではあったが、友人はいる。別に暇でもないので各所に喧嘩を売るような真似はちょっとしかしていない。
そう。ちょっとしか。
現実ってゲームとは違うのねなんて考えながら舞香は友人と一緒にクラスの白組席へと戻った。
「まいちゃん、疲れてる?」
「ちょっとだけ」
苦笑する舞香は、前日の円の様子を思い出して溜息を吐きそうなのを堪える。
冬河にしてやられたとパソコンを見ながら機嫌悪そうに呟いていた。
雪哉は四季神に対しては暇つぶし感覚で嫌がらせしていた。現在の薫子が椿のことを好きそうなのは特に誰のせいでもない。
──が、きっかけを作りまくった円のことを彼は数年経ってもまるで許していなかったし、何をやっても気が収まらない。だって、円がまだガンガン要らないちょっかいをかけているから。
ある意味では椿よりも雪哉の方が円を嫌っていると見てよかった。
そんなわけで不機嫌な彼は、鬱憤を晴らすかのように舞香のことを好きなわけではないくせに“運動”には付き合わせるのだ。それが少し腹立たしくもあり、憎むべきところでもあった。
(まぁ、それでも好きなんだけど)
自分もまぁまぁイカれてるな、と思いながら義兄が400m走を一位でゴールインしたところを見た。視線を彷徨わせて、目的の人物を見つけたらしい。「諾子ちゃーん!!」と叫んでいる。兎月が「視線合わせんな」と言っていそうな表情で隣の活発そうな女の子に声をかけていた。
「舞香」
名前を呼ばれて振り返ると、昨夜ぶりの円が柔らかに笑顔を見せて立っていた。隣の友人がきゃっと嬉しそうに悲鳴を上げた。「彼氏さんだよ!行ってきなよ!」とパチンとウインクまでつけてくれる。それにお礼を言ってそばまで向かう。
「お待たせしました、円様」
駆け寄ると、そっと腕を引かれる。
そして、人気のないところに移動すると、「お願いがあるんだけど、いいかな」と口に出した。
頭の中でガンガンと警鐘が鳴る。
「君に無理なことは言わないよ。何か大きなことができるとも思っていないしね」
そう言われて預かったものを持ってクラスに戻ると、笑顔の友人の近くにあまり評判の良くない令息数名の姿を確認した。
最近の舞香の様子が違うことに気づいていたのか、初めから信用していないという意思表示なのか。
「まいちゃん、おかえ……やっぱり顔色悪いよ?」
保健室に行くかと問われて、ゆっくりと頷いた。体調が悪いのであれば、教師たちも舞香の姿が見えないことを不思議には思わないだろう。
(ああ、本当に吐き気がする)
こんなことなら、いっそ恋心なんて枯れてしまえばよかった。
彼女はそんな言葉を胸にしまい込んだ。
舞香のSAN値がガリガリ削られている。
(訂正しました)




