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雪哉は母親に言われていた。

───春宮薫子さんとは仲良くね。



彼の周囲の女の子は基本的にみんな彼を好きになるか、彼の家を見ている両親から言われて側に居る存在であった。

幼稚園児時代からそんな彼が、小学生になったからと言って女の子に夢を見られるわけがない。


家に誘われた、なんて誰かが話せば一瞬で殴り合いが始まるような殺伐とした生き物を見ていた彼は、まさか「友達じゃないから」と断られる日が来るなんて思っても見なかった。


帰った彼は素直に母親に諸々を告げ、「なのでまず友達になってきます!」と彼にしては珍しい満面の笑みで宣言をした。いつもつまらないという顔をしていた息子の春の気配を感じた彼女は「しつこくしたり、嫌がることはしてはダメよ」とアドバイスを送るに留めた。こういうことになったのなら子供同士の問題である。何か起こった時しか手を出すべきではない。それが冬河家の教育方針だった。



「仲良くなれるといいわね」



まだ幼いにも関わらず、あまりに息子の周りが白熱しすぎて女嫌いにならないかを心配していた菊乃は心の底からそう思った。




一方、それにちょっぴり迷惑しているのが薫子。

死ぬほどイラついているのが椿。

面倒そうな顔をしているのが諾子である。


薫子は、朝一番に「俺の友達になれ!!」と叫んできた彼に「普通に嫌ですけど……」と答える程度には辛辣だった。基本的に薫子は庇護対象者以外には辛辣である。雪哉は元気だし、活発だし世話を焼くところもないのでまるで掠りもしなかった。

あと、薫子は人見知りな上に男嫌いとかでは全くないが人間不信は拗らせていた。彼女は身内しか信用できない児童だった。


そして、椿は薫子に近づく男とか絶許だった。それだけである。


諾子は「薫ちゃんに選ばれなかったの?残念〜バイバイ〜」と彼を追い払っていた。薫子のことは好きだし、椿は信用している彼女だったけど、入学式あたりで薫子のことを嫌な目で見ていた雪哉は好きではなかった。何が起こったかは知らないが、途端に薫子に擦り寄る人間は信用できない。




そんな様子だったので雪哉もちょっとイライラしてきた。

薫子に対してはまだ最初の態度が悪かった自覚がちょっとくらいあるので許せるが、椿と諾子は腹が立つくらい邪魔である。


遠くから見る薫子は優しく微笑んでいる。



「かわいい」

「薫ちゃんかわいいよねぇ」



思わずつぶやいた言葉に返事があって彼は驚いた。



「いいなぁ。やっぱり欲しいなぁ」

「お、俺が仲良くなる予定なんだぞ!」

「仲良くなりたいだけなら独占する理由もないでしょ?」



雪哉は少年の言葉に「本当だ」と気づいた。そして、走り出す。



「小さい子は可愛いね」



銀髪に赤い目の少年は雪哉の背中を見ながらくすくすと笑う。

そして、その目は薫子へと戻される。



「あれがあの人の、ねぇ?」



探るようなそれは急に振り返った椿に見つかって、少し驚いた顔をする。

軽く手を振ると、椿は警戒するように彼を睨んだ。



「怖い怖い」



そっと窓辺から離れて、彼は白桜会のサロンへと向かって行った。


そして、薫子は諦めが早いのでしつこくやってくる雪哉の誘いを断るのを諦めていた。雪哉はガッツポーズを決めたし、最近剣道を習い始めた椿は帰ってから雪哉の顔を思い浮かべながら無の表情でひたすら竹刀を振っていた。それでも「薫子ちゃんのために一途ですね」と思われているあたり彼の普段の行いの良さが出ていた。

終わりまでに一体何人ヤバそうな人間が増えるのか。

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