少女はそれを恐怖と呼んだ
「...派手にやるってもどうすっかな~」
彼は少し機嫌を直したのか、さっきまでの何も考えていないような...いや、私に全部考えさせていたような時とは違い一緒に考えてくれるようだ。まぁ、もともと彼が逃げるためにやっているのだから当たり前といえば当たり前だろう。...そう考えると少し腹が立ってきた。
そんな私の考えを知ってか知らずか、彼は不意に私に近づき__
[ッ!!」
__抱きついてきた。顔が熱くなっていくのが分かる。
「な、に?」
「...」
彼は何も答えず、私のおなかにうずめた顔を少しはなしにやけさせながらゆっくりこちらを見上げた。かと思うと、満足そうに抱き着いていた手をほどき、離れていった。恥ずかしさを紛らわせるために彼を睨み付ける。しかし、彼はそんなこと気にも留めずにやついた顔で
「ほら~ちゃんと考えよーぜ」
なんて言ってくる。どの口が言うか、と言ってやろうかと思ったがつかみどころのない彼に反論をしても私がボロを出すだけだろうという結論に至り、黙って考えることにした。
「...自分から言ったことだけど『派手に』って具体的にどうするの?」
「正直、俺もよくわかってないけど~例えば、白昼堂々やってやるとかどーよ。」
「危ないと思う」
「百も承知だろそんなん」
それに、彼はそう付け足して何でもないように付け足す。
「人質も増えるだろ?」
『ドクン』心臓が大きな音を立てるのが分かる。
「その辺にいる奴ら捕まえれば余裕だし」
やめて。そんなこと言わないで。私の特別な人に、私を初めて理解してくれた人に、そんなこと言われたくない。
「最悪肉壁にできるし多いに越したことはないだろ」
「...嫌」
咄嗟に口から出た言葉はどう頑張っても戻らない。
「?なんで?」
彼は不思議そうに聞いてくる。何か言わなければ。どこか言い訳はないか。流れる沈黙の中、どうにか言葉を紡ごうとする。
「昼間、外に出て大丈夫なの?」
「いや、だから何なら昼間のほうが都合がいいって話だろ?」
彼は私に「早く続きを言え」とばかりに少し不機嫌そうにこちらを見てくる。
「昼間は日差しが強いよ?」
彼の眼付が急に冷たくなった。
「...あぁ」
白い肌に白い髪、紅い瞳を持つ彼。これは彼の体は色素が限りなく薄いということを意味する。
生まれつき体の色素が薄い人、アルビノは日光に弱い。というのを聞いたことがある。真偽は知らないが、彼の反応を見る限りそれは事実なのだろう。しかし、それは彼を止めるには至らなかった。
「...気にしたこともなかったな、それ」
彼は視線を私に戻し、静かに笑いながら言った。
「心配してくれてんの?」
余りにも優しい視線に私は思わず首を横に振ってしまう。
「そっか~...でも理由はあるんだろ?なんでかきいてもいい?」
「なんか、嫌だった。」
子供っぽい言葉に付け足すように言葉を紡ぐ。
「私のことを理解してくれる人は今までいなかった。だから、あなたは特別だった。だから、私にとっての特別が、私のことをその他多数として扱うのが。」
「いやだったの...!」
理由はわからない。でも、目に涙が浮かんでいるのが分かった。
彼は一瞬キョトンと呆けたような顔をしたが、それからすぐに苦笑いを浮かべ、私を優しく抱き寄せた。
「悪かった」
そう言う彼は少しだけ意地の悪い顔をしていた。