方針
「まずは大まかな逃亡作戦の概要やら条件やら~を聞いてもらうか」
そう言って彼は楽しそうに話し始めた。
「まぁ知っての通り俺は脱獄犯で、俺が逃げていることはもうばれている状態。居場所はばれていないっぽいけど~日本の警察は優秀だからおんなじ所に長居はしないほうがいいだろうな~って思ってます。あとは...まぁうん...要は何も考えていないから一緒に考えろって話」
彼は語尾になるにつれて声量下げ、最後には開き直ったように言った。この国で脱獄をしたのだ。それをするだけでいっぱいいっぱいだったんだろう。...無策なんてことないと思うけど。人質を取ろうとしてたんだし。
「...日本から逃げる。それ自体には私も賛成。問題はその前、仮に空港まで行ったとしてもおそらく警察はいるし、そもそも空港まで行くのも厳しい...と思う」
目の前のいるどこまでもつかみどころのない人に当たり障りのない言葉をかける。正直、脱獄をした人なら私が一緒に考えるまでもないだろうし。
しかし、彼はそれだけでは納得しないらしく、「それから?」と何もかもを見透かしたような嘲笑で訴えかけてくる。微妙に腹が立つが顔に出さないように思考を巡らせる。
私たちが逃げるために使えるのは、「人質である私」と「彼の凶悪性」。今私が把握出来ているいる情報はその程度。彼が何か持っているとしても、ナイフなどの凶器か奪ってきた現金、もしくはそれに相当するものだろう。
仮に彼が何か凶器があっても彼もあくまで人間。ナイフやらがあったとしても1対複数は明らかに不利。せいぜいが、「人質に向ける」「相手を脅す」程度だろう。現金は数億あればだれかに助けを求めることができるが...まぁ無理だろう。
さっき自分で言ったが、逃げるのが難しい理由の大部分は警察だ。コソコソ逃げようとしていてもおそらく見つかる。だからと言って「この国から逃げない」というのも出来なくは無いがすぐに捕まってしまうだろう。だから今できそうなことは...
「派手に、逃げる」
無意識のうちに出た言葉はそんな何の解決にもならない抽象的ものだったが彼は満足そうに
「それがしたいことなんだな?」
と笑みを浮かべ言った。
そんな彼の顔を見て、正気に戻ったように思考する。
もっとうまいやり方があるはず。もっと具体的で完璧に近いものが。そもそも“目立たないようにしても見つかるのなら最初から派手にやる”考え方としてなし、とは言い切れないが少なくとも今とるべき行動ではない___。
そんな私の思考を読み取り、根元から覆すように彼は
「正しくなくてもいいんじゃね?」
そう言い放った。
そもそも、と付け足し彼は言葉をつなぐ。
「こんな無茶な計画に正解も何もねーっしょ。どうせ失敗するなら面白くなきゃ。それに、隠密が難しいから派手にやる。なかなか理にかなってると思うけど」
何でもないような顔をしていった彼を見ていると顔が緩んでいくのを感じた。
「変な顔してねーで考えろよ。まだ方向性しか決まってねーぞ」
何故か不機嫌そうな正しくない彼。そんな彼を見て正しくあろうとした私はさらに頬を緩めた。