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少女はそれを恐怖と呼んだ  作者: ハマグリ
3/5


「...え...やだ...」


 相手が誰なのかを一瞬忘れて、思わずそんな子供じみた拒否をしてしまった。


「え?何で?」


「...」


「?」


 なんでこの人はわたしが「はいわかりました」といってノコノコついていくと思っているのだろう。そんな危ないことを危ない人とするほど馬鹿だとでも思ってい危るのだろうか。そんなことを考えながら彼の顔を見ていると、彼は眉を寄せた。


「俺はお前の母親を殺したんだよ?いまだに未練がましく君の写真を持っていた母親を。そしてそれに君は気づいた...。そのうえで何も感じないお前は、明らかに“こっち側”だ。そんなお前がこんなに面白そうなことに食いつかないなんて...」


「あなたの言う“こっち側”がそもそも何のことかよくわからないし...危ない橋はわたりたくない」


 彼を刺激しないように、なるべく柔らかい声で話した。しかし、それは不安がそのまま乗ったような声になっていただろう。それに反応した彼は、ニィっと不敵に笑った。


「でもつまんねぇんだろ?」


 私は彼の言葉に息をのみ、部屋は水を打ったかの様に静まった。それがどれだけ続いていたのかわからないほど長く、短く、永久的で刹那的な時間だった。「何を考えているかわからない」そう言われ続けた私が   


 初めて人に思考を読まれた瞬間だった。


 私は人に嘘をついた事がない。いや、正確にいうのであればそれは違うのかもしれない。そもそも“嘘”の定義を曖昧にしている私には何が嘘かもよくわかっていない。しかしたった一つだけ私にもわかることがある。__私は、人に嘘がばれた事がない。


 最初についた嘘は、つまらない、ただごまかすための嘘だった。それは誰にもばれなかった。

 その次は、人を守るための嘘だった。それは誰にもばれなかった。

 その次は、人を騙し、貶める嘘だった。それは誰にもばれなかった。

 その次は...


 いろいろな嘘をついた。そして、いろいろな嘘を知った。人を守り、やわらげ、うやむやにする優しい嘘。人を騙し、嘯き、欺瞞する攻撃的な嘘...そしてそのどれもがばれなかった。私がやったと、気づかれなかった。


「つまんねぇ、だがある程度の安全が保障されている日常。安全なんてものが保障されないのが常識、ただ退屈する暇なんて与えられない非日常。俺はお前が断っても殺さない。だからお前に対等な関係として問う。選べ!」


 退屈は嫌いだ。生まれてきた意味がどうとかつまらないことを考えてしまうから。

 沈黙は嫌いだ。あの頃を思い出してしまうから。

 でも私はそんな私を否定しまう。いつものように俯きながら嘘をつく。


「日常は日常化しているから日常なんだよ。どんな非日常も日常化してしまえばそれは日常になる。だから...」


 せめて、と思いながら顔を上げ、彼の顔を見る。私の__誰にもばれなかった嘘を見抜くようなその顔を。


「...だけど、やっぱり退屈なのは嫌」


 そう答えた私の顔を見て彼は機嫌よさそうに笑った。


 私は怖いのだろう。誰にも理解されることのなかった“自分”を、たとえ浅いところであっても急に現れ理解してしまったこの人が。きっと...怖いのだろう。


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