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アベレージヒッター~平凡な俺の異世界生活~  作者: 勝地瑛星
第1章 アベレージヒッター
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6.仕立て屋の少女

 しばらくしてお店らしき建物に着いた。表通りから少し離れた人気の少ない路地沿いにその建物はあった。西洋風の街並みには似合わない木造建築で造られた建物には「仕立て屋」と書かれた看板が掲げられている。


「お邪魔するわ。セシリー? いるの?」


「お、お客さんですか? ちょ、ちょっと待ってくださいね……ってクレアか〜。びっくりさせないでよ〜。久しぶりのお客さんかと思ったよ〜」


「相変わらず、お客さんは1人も居ないのね。まあ、表通りからこれだけ離れていれば仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないわね」


  「仕方ないとか言わないでよ〜。私なりに頑張っているんだよ〜?たっくさん新作の服を作ったりとかしてるし〜?ところで、そちらの方は……?」


 クレアと親しげに話している女性が俺に気づく。彼女の頭上にはぴょこんと大きな獣耳、後ろの腰からはきちんと手入れされている綺麗な尻尾が生えている。獣人。脳裏にその2文字が浮かんだ。しかもクレアに負けず劣らずの美人だ。整った顔立ちに獣耳と尻尾が更なる魅力を引き出している。


「ああ、この人はショウタ。森で迷っていたからとりあえず連れてきたの」


「佐藤翔太だ。よろしく頼む」

 俺はそう言いながら右手を差し出す。


「あ、あの、セ、セシリアと申します。よ、よろしくお願いします」

 そう言いながら、セシリアはクレアの影に隠れる。


  「やっぱりまだ人見知りは治っていないのね。ショウタ、セシリーに悪気は無いの。許してあげてね。ほら、セシリー、握手して?」


「あ、あの、し、失礼します」

 そう言うとセシリアは俺が差し出した右手にちょこんと拳を乗せた。こ、これは握手と言うより「お手」じゃないか!


「こ、この世界ではこういう風に握手するのか?」

 いきなりの出来事なのでドキマギしてしまった。


「違うわよ、それは獣人がやる伝統的な挨拶よ。セシリーの故郷では初めて会った人にはこうやって握手代わりに挨拶するのよ」


「じ、獣人と言っても母だけ獣人で父は普通の人間ですけど…」


「ということは獣人と人のハーフってことか」

 何にせよ、この挨拶作ったやつグッジョブ!美少女に「お手」してもらう機会なんてこの先無いに等しいので貴重な経験をさせて貰った。


「そう言えば〜何か用事があって来たんでしょ〜?」


「あ、そうだった。このヘンテコな翔太の服装をどうにかしてあげて。」


  どうやらセシリアはクレアと話す時はタメ口だし、ゆったりした口調で言葉に詰まることも無い。なるほど、クレアが人見知りと言ったのも頷ける。店主が人見知りって結構な致命傷なんじゃないか?


「ヘンテコな格好〜?」


 セシリアは改めて俺の服装をじーっと見つめる。美少女の熱視線に思わず「気をつけ」の体制を取ってしまう。


「え、これってまさか!!」


 早口でそう言いながらもの凄いスピードで俺のスーツの端を掴んだ。軽く引っ張ったりスーツの裏地を凝視したりしている。


「ち、ちょっと近い。いきなりどうしたんだ?」


「少々お聞きしたいのですが、この服はどなたが仕立てたんですか? どんな生地を使っていらっしゃるのでしょう? やっぱり凄腕の職人さんが作ったんでしょうか? これ程の品です、とても多くの手間と時間がかかっているんですよね?」


「ちょっと落ち着いてセシリア! 見たことない服に興味があるのは分かるけれど流石に近すぎるわよ!」


 セシリアはクレアの言葉でハッと我に返った。

「ごめんなさい、私ったらつい〜」


「俺は全然大丈夫だ、気にするな」

 嘘である。全然大丈夫なわけが無い。心臓がバックバクのギアセカンド状態である。


「セシリアは新しい服とか見たことない服を見るとつい我を失ってしまうのよ」


「ほ、本当にごめんなさい。でもこの服は素晴らしすぎます。デザインはもちろん、染色や刺繍も完璧。これ程素晴らしい服を作れる職人さんはランスにはまず居ません。いえ、他の国や町にも居ないと思います」


「そんなに評価して貰えるとは、俺が作った訳では無いがなんか嬉しいな」


「あ、あの〜1つお願いがあるのですが……」


「ん、なんだ? 俺に出来ることならやるぞ」


「その服、私に預けてくれませんか?絶対に高く売り捌いてみせますので!」


「売り捌く? 買い取るんじゃなくて?」


「これほど素晴らしい服なら私の持っているお金ではとても買い取れません。店が潰れてしまいます!」


「そんなに高値が付くのか……」


「セシリーは仕立ての腕はもちろん、オークショニアとしての才能もあるのよ」


「でも、人見知りだと人前に出るのは難しいんじゃないか?」


「お金が絡むと人見知りは発動しないらしいの。それ以外のコミュニケーションはからっきしダメ。まったく、変な性格よね」


「なるほど、良くも悪くも商売特化の性格ってことか」


「えへへ、それほどでも~」


『褒めてないっ!!』

 声を揃えてツッコミを入れる。


「それで、預けるのはいいんだがどれぐらい時間かかるんだ?」


「そうですね、2.3日ほどお時間頂けますか? 前金として金貨5枚お渡ししますのでお納め下さい。その代わりといっては何ですがうちの商品を購入いただけると助かります」


「ああ、最初からそのつもりだったし前金が貰えるのはこっちとしてもありがたい。それと仲介料・手数料とかはどれぐらいなんだ?」

 代理でオークションに出してくれて前金まで渡してくれ、その上無料——といううまい話はない。手数料や仲介料などで利益を得なければ食っていけない。


「さすがはショウタ様、話が早くて助かります。そうですね、売却価格の1割でどうでしょう?」


「そんなものでいいのか? てっきり3割は取るものだと思っていたのだが」


「いえ、クレアの知り合いの方からそんなに多く貰うわけにはいきません。それに、この商品の売却価格は純金貨5枚を見込んでいますので」


「嘘でしょ!? 純金貨5枚!?」


「そ、そんなに高いのか?」


「高いなんてもんじゃないわよ! ちょっとした貴族の資産ぐらいよ!」


「そ、それは凄いな……。そういえばこの世界の通貨はどんなのがあるんだ?」


「私がご説明します!」

 セシリアがドヤ顔で説明役を買って出た。目が金の形になっている。(もちろん比喩だが)


「この国では、銅貨、銀貨、金貨、純金貨の4種類を硬貨として使っています。銀貨は銅貨10枚分、金貨は銀貨10枚分、そして純金貨は金貨100枚分です」


「ということは、全部銅貨に直すと銀貨は100枚、金貨が1万枚、純金貨は10万枚ということか」


「そうです、これで純金貨の価値は大体分かっていただけましたか?」


「まあ、大体は分かったが買い物をしてみないことにはイメージが湧かないな……」


「じゃあ、服を買ってみたら?その値段がどれくらいかで分かるんじゃない?」


「そうだな、少し選んでみるよ」


 というわけで店にある服で一番シンプルな服を選んだ。クレアには少し地味と言われたが、俺はシンプルが好きなのでその服にした。某RPGでいう所の「たびびとの服」みたいなデザインで、作りもしっかりしている。


「その服は上下で銀貨4枚になります」


 日本でこの服が売っていたら4000円以上はするだろう。ということは銅貨は100円ぐらいで、銀貨は1000円、金貨は1万円ぐらい、純金貨は100万円ぐらいということか、なるほど純金貨は確かに大金みたいだ。


「じゃあこれを貰うよ。金貨しかもらっていないから両替はできるか?」


「あ、気が利かなくてすみません。いくらかは銅貨・銀貨にしておきましょう」


「そうだな、金貨1枚以外は全部銀貨と銅貨にしてくれ」


「かしこまりました」


 無事、服を手に入れさらに少しだがお金も手に入れた。異世界生活1日目にして結構順調である。


「では、お手数ですが3日後にまたお越しください」


「ああ、色々と世話になったな。ありがとう」


「い、いえ、こ、こちらこそありがとうございました」


「それじゃあまた来るわね」


「うん、またね~。女神の祝福があらんことを~」


 セシリアに別れを告げ、店をでる。


「そういえば、荷物運びの報酬として買ってあげるって言ったのに、あんた自分で買っちゃったわね」


「あ、すっかり忘れていた。まあ、俺1人じゃ、あの仕立て屋にはたどり着かなかったわけだし、十分だよ」


「あんたねぇ……そうだ、その代わり夕食をごちそうするわ。いいお店知っているの」


「本当か! ぜひ頼む!」


 またまたクレアに連れられやってきたのは、西部アメリカにありそうな建物。看板には「酒と宿泊所オーベルジュ」と書かれている。今夜の寝床はどうしようかと悩んでいたがどうやらその問題も解決しそうだ。


「いらっしゃい。2人だね、空いてるところに座っておくれ!」


 中に入ると女将らしき人が出迎えてくれた。周りは仕事終わりらしき人でとてもにぎわっている。手には決まってジョッキを持っている。


 クレアと一緒に空いている席に座る。テーブル席は満杯だったのでカウンター席にした。


「注文は何にするんだい?」


「ドードの唐揚げとジャイアントボアーのステーキを1つずつ。あとテキラを1つ。ショウタは飲み物、どうする?」


「えっと、じゃあ同じものを」


「あいよ!」


「なあ、ここって宿泊も出来るのか?」


「ええ、出来るわよ。私は泊まったことないけれど、ぐっすり眠れるって評判よ。まあ、ほとんどお酒に酔い潰れた人がそのまま寝ちゃうってだけなのだけれど」


「そうか、さすがに酔い潰れる事はないだろうが寝床はここで決定だな」


「へい、お待ち!」

 さっきの女将が料理とお酒を持ってきた。その間なんと5分。某中華料理店より早いんじゃないか?


「こ、これは! 美味すぎる!」


 確かドードの唐揚げだったな、表面の衣はサクッとしてて柔らかい肉からは肉汁がジュワーっと溢れ出ている。ジャイアントボアーのステーキも厚さと焼き加減が絶妙で口に入れた瞬間、舌の上でとろけるほどの柔らかさ。どちらも日本では味わうことの出来ない絶品料理である。


「うん、いつも通り美味しいわね。ねえ、ショウタこれからどうするの? 当分お金は心配無いだろうけれど仕事とか」


「うーん、どうしようかな。この世界での知識とか全然無いから肉体労働しかないかな。それで出来れば冒険者とかやってみたいんだよな」


  「あら、それはいいわね。でもあんた戦えるの? 虫1匹殺せそうにない顔してるけれど」


「その評価は微妙に悲しいな! さすがに虫ぐらいなら倒せると思うぞ?」


「どうかしら? 腰を抜かしてオロオロしてる姿しか思い浮かばないけれど?」


「うう、何も言い返せない自分が情けない……」


  「はあ、しょうがないわね。明日、一緒に教会に行くわよ」


「え、なんで教会?」


「冒険者になる人はみんな教会で女神様からの神託を受けるの」


  「なるほど、経験者が一緒に行ってくれるなら心強い。よろしく頼む」


  「ええ、仕方なく一緒に行ってあげるわ」


  「お待ち! テキラ2杯ね!」

 クレアのツンデレが発揮されたところで、お酒が運ばれてきた。


  「よーし、じゃあ新しい異世界生活に乾杯!」

  ゴクゴクと酒を一気に流し込む。


  「ええ、乾杯。ところで、ショウタってお酒は強い方?」


  「ん? まあ強くも弱くも無い普通ってとこだが」


  「そのお酒、とても強いから一気に飲んだらすぐ酔いが回るわよ」


  「な……」

  視界が歪み、クレアが二重に見えてくる。体中が熱く、痺れた様な感覚。


  「そ、そういうことは……は、やく、言ってく、れ」

  意識の糸がプツンと切れた。


新キャラ「セシリア」ですが、犬の獣人と人間のハーフです。クレアの前ではおっとり、ほかの人の前ではオドオドと喋ります。ただ、お金が絡むと周りが見えなくなり、喋りも早口になります。


この第6話で1章は終わり、第2章が始まります。今後ともよろしくお願いいたします。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。


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また、誤字脱字等ございましたら、報告していただけると幸いです。


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