4.金髪の美少女
その瞬間、俺の中で時間が止まったような気がした。見蕩れる、とはこの事だろう。金糸を編み込んだようなブロンドで艶のある髪。世界三大美女で知られる小野小町、クレオパトラ、楊貴妃。後姿を見ているだけだが、その誰よりも美しい少女だった。
身長は160センチほど。真っ白でシンプルなデザインの服は彼女の綺麗な金髪をより一層際立たせている。携えた直剣の先端は薄く、軽く、反りの無い真っ直ぐな刃を持っていた。斬ることではなく突くことに特化した護身用の剣。彼女の華奢な細腕でも扱えるレイピアと呼ばれる武器である。
さっきの一撃は彼女によるものだろう。熊の右肩には小さな風穴が空いている。熊は突然の攻撃に一瞬動揺していたが、直ぐに彼女へ敵意を剥き出しにした。目にも止まらぬ速さで熊は彼女に襲い掛かる。
「あ、あぶな……」
彼女は警告する前に熊の猛攻をスラリと躱し、右手に持つレイピアに左手を添えた。すると瞬く間に彼女の刀身は炎に包まれた。——魔法だ。
あらゆる物理現象を無視して現れたその炎を帯びた刃は真っ直ぐに熊の脳天に打ち付けられた。ズズン、と音を立てながら熊は倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。
「た、助かった……」
俺は人生最大の危機が去ったことに安堵する。
「よし、これで依頼された魔物討伐は終わりね」
彼女は俺に目もくれず、熊の死体の前で満足気なご様子。
「あ、あの……危ないところを助けてくれてどうもありがとうございました」
力を振り絞りなんとか立ち上がる。
「あ、人がいたのね。アストラルベアーに夢中で気が付かなかったわ」
この熊、アストラルベアーって言うのか。お洒落な名前の割に超危険な熊だな。今度は絶対に出くわさないように気を付けよう。今度があるのかは分からないが。
「この森は今、危険な魔物が異常発生しているから関係者以外立ち入り禁止なのよ? 王国に住んでいる人なら誰もが知っているはずなのにどうして……」
彼女は問いかけを中断し、俺の姿をじっと観察。透き通った緋色の瞳でこちらを見据えている。やべぇ、超かわいい。こんな美少女がこの世に存在するのか? しかも俺に興味津々みたいだし、まさか俺に惚れたとか?
「あんた、もしかして迷い人? この辺じゃ見かけない顔だし、何よりそのヘンテコな服装……」
珍しいものを見るような目でこちらを見てくる。どうやら先程の推測は大ハズレだったようだ。まあ、分かっていたのだけれど。
「えっと、その迷い人って言うのがよく分からないのですが、恐らくそれで間違いないと思います」
——実際に迷っていたようなものだし。
「そっか、やっぱり迷い人なのね。そうだ、あんた名前は?」
「佐藤翔太って言います。翔太って呼んでください。」
「ふーん、変な名前ね。まあ、いいわ。私は…クレア。ただのクレアよ」
おお、さすが異世界。人の名前まで西洋っぽい。どうやら俺の異世界生活のヒロインはこの子になりそうだ。
「クレアさん、改めて助けて下さり誠にありがとうございます」
「勘違いしないで。別にあんたを助けたつもりは無いわ。私はギルドから依頼された魔物を倒しただけ。あんたは自分で勝手に助かったの。……あと、その堅苦しい喋り方どうにかならないの? なんか凄く気に入らないのだけれど」
どうやら俺の敬語と呼び方が気に入らないらしい。初対面で敬語は当たり前だと思っていたが、この世界では敬語が逆に気に入らないようだ。
「分かった、クレア。これでいいか?」
「上出来よ。それでショウタ、これからどうするつもり? どこか行くアテはあるの?」
「いや、特に無い。というか、さっきこの世界に来たばかりなんだ」
あ、異世界転移のこと言っても大丈夫なのか?異端児として扱われるんじゃないかと心配する。
「え、異世界の人なの?」
クレアは一瞬驚いたが、間髪入れずに、
「そうなの、じゃあギルドへの報告の為に町へ帰るから私についてきなさい。この世界のこと色々教えてあげるから」
「え、いいのか? 助けてくれた上に色々教えてくれるなんて優しいんだな」
正直、命を救ってくれただけで一生をかけても返せない恩がある。その上、さらに情報を提供してくれるとかこの子は女神か? いや、容姿は十分女神様なんだが。
「勘違いしないで。あくまでも町へ戻るついでだし、危険地域にあんたを置いていくのは後味が悪いだけ。それに、タダでとはいかないわ。それ相応の仕事をしてもらうわ」
さっきも思ったけれど、この子、俗に言う「ツンデレ」なのでは? 生ツンデレ初めて見た。怒っている顔も超かわいい。
「もちろん、俺に出来ることなら何でも言ってくれ。命に代えても君の依頼を叶えてみせるぜ」
「別に命まではかけなくていいのだけれど。簡単なことよ。アストラルベアーの毛皮を運んで欲しいの。一人で運べるけれど、面倒だから」
「お安い御用です。お嬢様、わたくしめにお任せ下さいませ」
冗談交じりに執事っぽく振る舞う。
「はいはい、分かったから。さっさと解体するわよ」
「……はーい」
渾身のジョークが華麗にスルーされた。仕方なく解体作業の手伝いに取り掛かる。
——異世界ではあまり冗談を言わない方が良さそうだ。
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