6.虚ろな存在
修正点は以下に記載します。
「この世にいない? ということはお前、幽霊なのか?」
科学者に対して非科学的な存在かと尋ねるのは些か忍びないが、そうとしか思えない。
「惜しいけど違うよ。翔太くんはSF映画の『トランセンデンス』を観たことはあるかい?」
「いや、全く知らないが、その映画が何か関係あるのか?」
「あの映画に出てくる主人公は科学者でね、奥さんの手で自分が研究していた人工知能に意識をアップロードされる。そして、人間として死を迎えながらも、コンピュータ上では自我を持つ人工知能として半永久的に生きることに成功するというストーリーだ。簡単に言うと、僕も同じような事をしたんだ。だから、君が今話している僕は僕の意識情報がアップロードされた人工知能という訳だ。この姿も立体映像で作られた物なんだ」
「理解が全く追いつかないんだが……要するに、俺が今話しているお前は人工知能で人間では無いという事か?」
「そういう事だ。僕は僕であるけれど、厳密には僕では無い。何かの詩みたいだね」
そう言うと、才人は苦笑しながら頭をかいた。立体映像のはずなのに、本当にそこに居るような音や、息遣いが聞こえてくる。
「お前が人智を超えた存在ということは分かった。それにしても、さっきの無人ちゃんも、AIの精度も俺が知っている科学のレベルをゆうに超えているぞ。もうSFの世界じゃないか」
「そんなに驚くことかな? 確かに技術レベルが高いのは分かるけれど、一般人でもニュースとかで知っているレベルのものだよ?」
「いやいや、何を言っているんだ。ステルス迷彩とか人間の脳をアップロードとかSFでしか聞いたことないぞ」
俺の言葉に、才人は右手を顎に置き、軽く腕を組みながら尋ねる。
「……ふむ、薄々気になっていたんだけど、翔太くんは何年からこっちに飛ばされてきたんだい?」
「何年って、2020年からだけど――まさか才人は違うっていうのか?」
「そのまさかだ。僕は君よりも約80年後の2100年からこちらに来たよ」
「よし、もう驚かないぞ。驚いてリアクションするだけ無駄だと分かった」
「僕はかなり驚いているけれどね。僕は君より早くこちらの世界に来たはずなのに、君の方が昔から来ているなんて、流石の僕でも予想出来なかった。もしかするとアレが原因なのかもしれないな」
「アレというと?」
やけに勿体ぶる才人に若干の煩わしさを感じる。スっと言ってくれて良いのに。
「タイムマシンさ。君も聞いたことぐらいはあるだろう?」
「タ、タイムマシンだと!? 全人類の夢じゃないか!!」
「……驚かないんじゃなかったのかい? 」
数秒で宣言を破り、思い切りリアクションした俺に呆れた様子で才人は続ける。
「まあいいや、前世の僕はタイムマシンを完成させ、世界中に発表する予定だった。だが、前日の夜に事故に遭って死んでしまったんだ。今思えば、あれは事故に見せ掛けて殺害しようとしていたかもしれないね」
「……」
俺はかなり悲惨な前世を平気な顔で言ってのける才人に、どう声を掛ければ良いか分からなかった。
「そんな顔しないでくれよ。どの時代も『出る杭は打たれる』ってね。よくある事だ」
「そういうものなのか……?」
「そういうものさ。それに、この世界に来てから興味深い『スキル』とやらを女神から貰えたし、魔法という非科学的な存在にも出会えて心躍るセカンドライフだったよ。そうだ、君もこちらの世界に来た人間なら、『スキル』持っているんだろう?興味があるから見せてくれよ!」
「いや、それは無理だ。確かに教会でステータスを確認した時に『クリエイト』っていうスキルがあったが、声に出しても念じてみても特に何も変化しない」
「ハハ、何を言っているのさ。こちらに来た時に女神にしっかり説明を受けただろう? もしかして忘れてしまったのかい?」
俺の発言にからかうような笑みを浮かべながら才人はそう言った。
「そもそも、俺はこっちに来た時に女神とやらに会っていないぞ。電車に揺られていて気づいたらこっちに来ていた」
「本当かい? 女神は『こっちの世界に転生する人はみ〜んな私からスキルが与えられるんですよ〜』って言っていたし、そんなはずはないと思うんだけどな。それに、いや、あの女神、どこか抜けている様子だったから何かやらかした可能性はあるな……」
驚いた様子で目を見開いたと思えば、すぐに考え込む科学者モードへと切り替わる様に、俺は呆気に取られていた。
「状況がさっぱり見えないが、何だ? 俺は女神にやらかされたのか?」
才人は憐れむような目で俺を見つめ、俺の肩に手を置く振りをしながら残念そうに呟いた。
「翔太くん、これは僕の推測なのだけれども、女神はこの世界に間違えて君を転移させ、挙句の果てには、女神との会話の記憶を消すという2つのミスをされていると思う」
「はあ? 何だよそれ! こっちに来てからかなり大変だったんだぞ!」
才人の推測が事実ならば、本来こちらの世界の情報や自分の力の使い方を知り得たはずが、女神のドジで、初見攻略を強いられるハードモード状態で放り出されたという事になる。俺は思わず、怒りで拳を強く握りしめた。
「君の怒りはもっともだ。僕も自分のスキルの使い方が分からない状態でこの世界に放り出されたら、君と同じく怒りをあらわにしていただろう」
「なあ、何とかして女神にスキルの事やこの世界に連れてこられた理由を聞く方法は無いのか?」
せめてこの世界に連れてこられた理由だけでも知りたい。それに俺がいなくなった後の家族がどうなったかも気になる。簡単に女神に接触出来る方法は無いだろうと予想はしているが、俺は藁にもすがる思いで尋ねた。
「ああ、それならあるよ」
「そうだよな、そんな方法あるわけ――ってあるのか!?」
「君、自分がさっき言ったこと忘れているだろ……」
才人はやれやれと呆れつつも女神に会う方法を話してくれた。
どうやら、教会の女神像の前で祈るだけで良いらしい。ただし、異世界から来た人限定の特典みたいなものとの事だ。ちなみに、才人は1度試しただけで、何度も女神に会えるとは限らないと言っていた。
「そんなあっさりと女神に会えて良いのだろうか?」
「ハハ、良くなければ女神もわざわざ会う方法なんて教えないだろう? それに、君は恐らく被害者だ。もしも会えたのなら、存分に思いの丈をぶつけるが良いさ」
「よし、分かった。今回の件が落ち着いたら女神に会うことにする。1発懲らしめてやる事も吝かじゃない」
「よしよし、これで怒りの矛先が女神に向いたな。監視の件と巨体蜂の件も忘れて貰おう……」
「ん? 何か言ったか? 声が小さくてよく聞こえなかったんだが」
「イヤ、ナンデモナイヨー」
明らかに何か含みのある棒読みだったが俺はスルーして先程から気になっていた事を尋ねてみる。
「そうだ、お前のスキルってどんなのなんだ?」
「ああ、僕のスキルはね『インベンション』と言って、設計図と材料さえあればどんなものでも一瞬で創り出せるというものだよ。もう死んでいるから使えないけれどね」
「それって……強いのか?」
「普通の人が使えばそんなに強く無いだろうね。でもほら、僕って天才だからさ。設計図は頭の中にあるし、材料集めも発明品にやらせればそんなに苦労しない」
「へーそりゃ凄いなーお前にぴったりなスキルだー」
今度は俺が棒読みになってしまった。まあ、こいつが天才なのはもう十分分かっているし、俺は使いこなせないようなスキルだが、才人なら軽々と使いこなしていたのだろう。
「そうだろう? 僕にピッタリなスキルだと思うよ。君もスキルの使い方が分かったら、是非教えてくれよ。非常に興味深いからね」
「ああ、女神を尋問でもして聞き出してやるさ」
俺はさながら敏腕刑事の雰囲気を醸し出しながら、そう呟いた。
「おお、恐ろしい。触らぬ神に祟りなしと言った所だね。そうだ、大分話が逸れたけれど、君は一体ここになんの目的でやってきたんだい?大方、クロエちゃんの為ということの予測はついているけれど、念の為確認しておきたいね」
「ああ、それなんだが――」
俺は才人にここに来た目的を話し始めた。クロエが学者としてダンジョンに何があるのかを調査しに来たこと、俺とクレアはその護衛としてきた事など洗いざらい話した。
「という訳でな、悪いがクレアとクロエをここに連れて来ても良いか?」
「やはり、そうだったか。僕が君たちをここに招待しておいて気が引けるのだけれど、それは出来ない」
そう言った才人の雰囲気が一気に真剣なものに変わる。立体映像と分かっているが、才人の真剣な表情に俺は思わず怯んでしまう。
「な、何でだよ。もちろん、お前の存在は隠しておくし、少し調査したらすぐに出ていくつもりだ。それでも駄目なのか?」
「それでもだ」
「……理由を教えてもらえるか?」
「良いだろう。その為にはまず、この世界について僕の考察を話さないといけないね」
才人の言葉に、部屋全体に冷たい空気が漂った。俺は思わず息を呑んで、才人の話に耳を傾けるのだった。
前回更新からかなり時間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
今回は取り急ぎの投稿になります。
修正点を見つけたら都度修正しようと思います。
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