5.天才
「やあやあ初めまして、佐藤翔太君。君の活躍はよーく見させて貰ったよ」
扉の先はちょっとした広間があり、そこに足を踏み入れると目の前に人が現れた。上半身は白衣を纏い、下半身は黒のスーツでバッチリと決め、眼鏡をクイッと上げるポーズを見せたその人物は、声からして恐らく男だろう。目・鼻・口どれを取っても整った容姿を持ち合わせ、白衣と眼鏡も相まって知的な雰囲気を醸し出している。知性的イケメンキャラ……前世の妹がこいつに会ったら、興奮しながら俺をバシバシと叩いてきただろう。――そういえば、俺の家族は元気にやっているだろうか。俺が突然いなくなって悲しんだり、後処理で疲弊し切っていたりしないだろうか。まあ、妹は高校生ぐらいの頃から俺と疎遠だったから、いなくなっても特に変わりないかもしれないが。
「んー? どうしたんだい、僕の顔をそんなにジロジロ見て。もしや、僕がイケメン過ぎて同性ながら見蕩れてしまったとかかい?」
考え事をしていたからか、思っていたよりも顔をガン見していたようだ。それにしても、自分でイケメンって言うか? それに、なんだろうこの感じ。とても苦手なタイプの人間な気がする……
「とりあえず、お前は何者だ? 日本人、なのか? それになぜ俺の名前を知っている?」
「ああ、これはこれは僕としたことが自己紹介を忘れてしまっていた。僕の名前は、天宮才人。気軽に才人と呼んでくれていいよ。ただの天才発明家で、君の推測通り日本人さ。あと、僕が何故君の事を知っているかという質問に答えると、『見ていた』からさ」
「見ていたと言うのはどういう事だ?」
「ほら、これさ」
才人がパチンと指を鳴らした瞬間、俺の背後から羽音の様な不快な音が鳴り響いた。恐る恐る振り返ると、体長20cmほどの巨大な蜂が現れた。
「うわっ!こ、こいつ森であった巨大蜂の仲間か?」
「あー、その説明も後でしないといけないね。とりあえず、こいつは光学式迷彩搭載自立型無人偵察機。長いから『無人ちゃん』とでも呼んでくれ。『無人ちゃん』は僕が作った発明品で、ここら一帯に多数配置しているんだ。名前の通り、光学式迷彩を搭載していて、防音機能もついているから、誰かに見られる事は滅多にない。それに、魔力を使用していないから魔力検知に引っ掛かることも無い異世界特別仕様。君に付けていた2号機で行動を逐一見させて貰ったというわけさ」
「なるほど、それで俺の事を知っているというわけか」
「そう、君が森に入ってきてからずっとね。そうだ、君に謝らなければいけないことがあるんだった。さっき君が見間違えたように、『無人ちゃん』は巨大な蜂をモチーフに作られている。光学式迷彩搭載とはいえ、定期的な充電が必要だから、充電中は森である程度違和感の無いよう蜂に似せたんだ。ところが先日、充電中の『無人ちゃん』が本物の巨大蜂に見つかってしまってね。急いで逃走した先に商人と君たちがいたというわけだ」
「……ということは、あの蜂を連れてきたのはお前という事か? おい、あの時クレアに怪我が無かったから良かったが、俺は死にかけたんだぞ!」
珍しく頭に血が昇ってくるのを感じた。間接的とは言え、クレアと自分を危険に合わせた元凶が許せなかったのだ。
「そんなに怒らないでおくれよ。本当にすまなかった。この通りだ」
才人は最敬礼の角度で深々と頭を下げて謝り、さらに続けた。
「だが、これでも一緒にいた少女に気づかれないよう援護したんだ。彼女1人の実力なら何事も無かっただろうけれど、まさか君が戻ってくるなんて思わなかったのさ。君の実力では勝てないと自分でも分かっていただろう?」
「それは……そうだが、、、」
俺は急速に感情が冷めていくのを感じた。確かにこいつの言う通りで、俺が何もしなければ誰も怪我しなかった可能性が高い。
「まあ、でも君が身を呈して彼女を守ろうとした姿にはとても感動したよ。僕はその姿を見て、この遺跡に君たちを招待したんだ」
「どういうことだ? 俺がここに来たのはクロエから頼まれたからで……」
「そのクロエちゃんにわざと見つかったのさ。普段はこの遺跡全体が光学式迷彩で隠してあるから誰にも見つからないのだけれど、彼女なら君のところへ行くと予測して発見役もとい案内役になって貰ったんだ」
「それが本当だとしても、クロエが冒険者ギルドで仲間を連れてくると思わなかったのか?」
「それは無いと思ったね。彼女、訳ありだろう? そんな彼女がギルドで受け入れられるとは考えにくい。そうなると頼れるのは開業したばかりの便利屋しかない。天才の僕にかかればそれぐらいの推測は簡単なのさ」
才人は眼鏡をクイッと上げ、ドヤ顔でそう言ってのけた。自分で天才と言うのはどうかとは思うが、概ねクロエの行動を推測していたのだから、本当に天才かもしれない。それに、この『無人ちゃん』とやらも自分で作ったと言っていた。だとしたら現代の技術力よりも1歩先に行っているのは間違いない。
「とりあえず、お前が天才というのは認める。それに俺をずっと監視していたことも分かったし、死にかけた原因がお前なのは目をつぶろう」
「面と向かって天才と言われると流石の僕も少し照れるね」
「……あれだけ自信満々に天才自慢をしていた奴がなぜ照れるんだ。まあいい、それでお前はここで何をしているんだ?」
「当然の疑問だよね、それに答えるには――そうだ、翔太くん握手をしないか?」
「は? なんでだよ?」
「いいから、ほら早く」
頭の中が疑問符で溢れる俺をよそに右手を差し出してくる才人。俺は戸惑いながらも恐る恐る右手を差し出す。すると、
「え? ど、どういうことだ?」
俺が差し出した右手は才人の手に触れる事無く空を切った。――いや、手をすり抜けたという表現の方が正しいのかもしれない。まさかとは思うがこいつ……
「はは、驚いたかい? そう、僕はもうこの世にはいないんだ」
科学者でちょいうざキャラ、良いですよね。
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