3.合言葉
「驚いた……まさか本当に未発見のダンジョンだなんて……」
目的地のダンジョンに着くやいなや、クレアが感嘆の声を発する。
「未発見のダンジョンって珍しいのか?」
「かなり珍しいわね。この国にあるダンジョンはほとんどが発見されたと言われているぐらいだから、新しく見つかるのはごく稀の事よ。ダンジョンの探索権は最初に発見した人にあるから、これなら申請しなくても大丈夫ね」
「それにしてもクロエ、よく見つけたな」
「別に。偶然見つけただけ」
クロエの口調と表情はクールそのものだが、よく見ると耳が赤くなっていた。これは恐らく照れているのだろう。クーデレってやつだな……嫌いじゃないぞ、そういうの。
「とりあえず、中に入るにはこの扉をどうにかしないとね」
クレアが俺たちの前にそびえ立つ大きな扉を見ながら呟く。よく異世界物で出てくるような冷たい鉄の大扉。試しに押したり引いたりしてみたが、ビクともしなかった。
「私は、扉に書かれている文字が開く鍵だと思う。恐らくこれは古代語。でも、私でもこの文字は見たことが無いから解読ができない」
「専門家でも分からないならどうしようも無いな――ん? これってまさか」
クロエのギブアップ発言に俺も半ば諦めていたその時、その「古代語」とやらを見た俺の脳裏に疑問が浮かび上がった。俺の見間違いか? いや、そうでもなさそうだ。
「ショウタ、どうしたの?」
「え、いやまあな、俺その文字読めるかもしれない」
正確にはしっかりと読める。何故なら、その文字は日本語で書かれていたからだ。
「……本当に?」
俺の発言にクロエが疑いの目でこちらを見てくる。恐らく、自分が分からない文字をぽっと出の男に解読されるのは研究家として許し難いのだろう。――紛れもなく本当なんだけどな。
俺はさっそく、扉の上方にでかでかと書かれた文字を朗読した。
『開けゴマ! と全力の大声で叫ぶべし。さすれば道は拓くだろう』
「ヒラケゴマ? 何それ?」
聞きなれない呪文にクレアはきょとんとした様子。日本人にとって、いや今の若者には分からない人もいるかも知れないが誰もが知っている扉を開ける時の呪文。それをいい歳した大人に叫べと言うのだから、この仕掛けを作った奴はいい性格してるぜ、全く。
俺は深く息を吸い、応援団よろしく腕を後ろに組み、精一杯体を反らしてから反動を使って叫んだ。
「開けェェェェゴマァァァ!!」
数秒間沈黙の時が流れ、ビクリともしなかった扉がゴゴゴと音を立てながら開き始めた。
「や、やるじゃない、ショウタ! まさか本当に開けちゃうなんて!」
開いた扉を前に、大興奮のクレア。ぽかんと口が開いたまま動かないクロエ。久しぶりに大声で叫んだせいで、羞恥心と喉の痛みを感じた俺。
そんな俺たちをよそに開き切った扉がダンジョン内部へと誘う。両側の石壁には等間隔に松明が設置されている為、明かりの確保については心配無さそうだ。その明るさとは対照的に、得も言われぬ緊張感と冷たい空気が流れていた。これより踏み入れるのは前人未踏の地――つまり、どれほど危険なのか、どんな仕掛けが施されているのか、最終地点までどれほど時間が掛かるのか、それら全部が分からないのだ。無知ほど怖いものは無いとはよく言ったもので、この場に居る全員が前例の無いこの状況に恐怖を覚えていることは言うまでもないだろう。
とは言え、俺たちは依頼を受けている身。余程の事がない限り断ることは出来ない。ふとクレアの方へ目を移すと、そこには先程の浮かれた彼女はおらず、代わりに初めて会った時と同じような真剣でどこか冷たい表情を浮かべていた。店の主であり、A級冒険者であり、何より俺の恩人である彼女が「行く」とその目で訴えているのだ。「引き返そう」なんて言えるわけがない。
「私が先行するから2人はついてきて。絶対にはぐれないように気をつけてね」
そう言いながら、凛とした表情と立ち振る舞いで歩を進めるクレアの後姿を追いかける。思えばこの世界にやって来てから彼女の後を歩いてばかりだ。本当ならクレアをかっこよく守れる、そんな男になりたい。だが、それを彼女は良しとしないだろう。だからこそ、彼女の隣を歩く――そんな決断をしたばかりなのに。
不安と若干の歯がゆさを抱えたまま、ダンジョン内部へと足を踏み入れた。
今回は短いですが、場面展開的に収まりが良かったのでここで分けようと思います。
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