2.初依頼
「い、いらっしゃいませ! ご依頼ですか?」
俺は来客と分かるやいなや、広告板を外して一瞬で接客モードに切り替える。
少女は俺の呼び掛けにコクリとだけ頷き、店内に入っていく。中にいたクレアはテンパってしまったようで、何故かカウンターで腕組みをして胸を張っている。いや、お前は酒場の店主か! 確かにドンと構えておいてくれって言ったけど! と心の中でツッコミを入れながら俺は紅茶を用意し、中央のソファーへと少女を促す。ついでにクレアも俺の隣に座るようにジェスチャーを送る。それに気づいたクレアは慌ててソファーに座った。
「それで、今日はどのようなご依頼でしょう?」
俺は少女の方を見ながらゆっくりと尋ねる。少女の身長は150cmぐらいで、顔が隠れるほどのフードを被っているため顔は良く見えないが、なんとなく美少女の雰囲気を感じる。
「ん、一緒にダンジョンを攻略して欲しい」
「ダンジョン、ですか……」
俺はそう言いながらクレアの方を向く。それは俺が想像するダンジョンで間違いないのだろうか? という確認のアイコンタクトだ。クレアは俺の視線に気づき、説明を始める。
「ダンジョンっていうのは、魔物が沢山出てくる迷宮の事よ。古代文明の遺産とも言われるから歴史的価値が高いとされているわ」
「そうか、じゃあ俺の認識は間違ってなかったようだな」
「ここにはA級冒険者がいると貼紙で見た。ダンジョンは私1人では攻略不可能。だから、一緒に攻略してくれる仲間が必要」
「分かりました。では店長、この依頼を受けるということで良いですか? あ、依頼料は達成後に支払って頂きます。こちら、諸注意が書かれた書類です。よく読んで頂いて、同意頂ければここにサインを――」
「待って。依頼を受ける前に確認しておきたいことが3つあるわ。良いかしら?」
俺が事務手続きを進めていると、突然クレアに止められてしまった。いつもよりも真剣な表情のクレア。その表情には思わず臆してしまいそうな迫力があった。だが、
「ん、構わない」
少女は1歩も引かないという雰囲気であっさりと了承した。
「1つ、ダンジョンに潜る目的は何?」
「私は古代文明研究家。だから古代の叡智が詰まったダンジョンを探索するのは必然」
「そう。じゃあ2つ目、何故冒険者ギルドで仲間を募集しなかったの?」
クレアの問いに少女は少し間を置き、顔まで隠れていたフードを取り払い、その容姿を明らかにした。クレアやセシリアに勝るとも劣らない美しい顔立ち。童顔と呼ぶべきだろうか。恐らく彼女は列記とした大人の女性だが、その見た目は誰もが少女と呼んでしまうほど幼く、フードから解放された美しい黒髪がそれを更に際立たせていた。何より目を引くのは、長く尖った耳。誰もがその耳を一目見るだけで彼女の種族を理解するだろう。
「見ての通り。ギルドの冒険者は信用出来ない。私がエルフだからと言って軽んじられる経験を何度もしてきた」
俺の勝手な想像だが、冒険者の間ではエルフを軽視する風潮があり、彼女の種族がエルフだからという理由で、依頼を受けて貰えなかった事や、裏切られるという経験をしてきたのだろう。
「なるほどね、冒険者は信用できない。でも、ダンジョン攻略の為にある程度の実力は必要。そこでA級冒険者がいるここに来たわけね」
「その通り。ギルドの冒険者に頼むよりよっぽどマシ」
先程からの受け答えを見る限り、彼女はズバッと物事を言うクールな性格の様だ。
「最後に1つ、貴女の名前を教えてくれるかしら? 私は店長のクレア。これでも一応A級冒険者よ」
「俺は副店長の佐藤翔太。ショウタって呼んでくれ。クレアみたいに戦闘力は無いからあんまり期待しないでくれ。でも、雑用係は任しておいてくれ」
……自分で言ってて悲しいが、A級冒険者の隣に居るということで変に期待されても困るので仕方ない。ちなみにクレアがタメ口で話していたので合わせておく。
「ん、私はクロエ。よろしく」
「ところで、ダンジョン探索の申請はした?」
「え、ダンジョン探索は申請が必要なのか?」
「絶対に必要って訳では無いわ。基本的にダンジョンはギルドが管理しているから、申請しておかないと後々面倒な事になるの。暗黙の了解ってやつね」
ダンジョンと聞くと、「誰でも探索出来るけど命の保証はしない」イメージがあったのだが……
確かにギルドが管理しているなら申請しておかないと、勝手に探索したといちゃもんをつけられそうだ。
「必要ない。今回は申請しなくても面倒事は起こらない」
「どうして? 未発見のダンジョンでもない限り、申請しておかないと――ってまさか!?」
「お察しの通り。今回行くダンジョンは私が発見した」
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