1.開店初日
毎日忙しい日々を過ごしていると時間の流れは速く感じるのか、クレアと共に便利屋をやると決めてからいつの間にか1ヶ月が経っていた。この1ヶ月はこれまでの人生で最も濃い時間を過ごしたと思う。
俺が目覚めたその日に、マリアさんがお見舞いに来てくれた。何でも、俺が寝込んでいた3日の間に回復魔法をかけてくれたらしい。あれだけの重症にもかかわらず2日で済んだのはそのおかげだろう。マリアさんは俺の顔を見て安心した表情を浮かべ、「あまり無理はなさらないでくださいね」と忠告してくれた。お礼と言っては何だが、近いうちにお祈りにいこう。
その後しばらくは、物件選びに明け暮れた。セシリアが紹介してくれた不動産業者だったので安心して相談しつつ物件を決めていった。最終的には、メインストリートに近く人通りも比較的多いが築年数が古く余っていた物件に決まった。この物件はかなり年季が入ってはいるものの、掃除すれば綺麗になりそうだったので申し分なかった。さらにこの物件は2階建てで1階は元々酒場だった名残でカウンターテーブルと机と椅子が何脚かそのままにしてあったので、家財を揃える手間が省けた。2階は宿泊用の部屋があり、中にはベッドがそれぞれ1つずつ置いてあった。何でも前の持ち主は、突然他の国に行くことになって家具を片付けずに出ていってしまったらしい。値段は金貨25枚のところを、掃除が必要なので値引きしてもらい、金貨20枚で売ってくれた。一括で払うと言った時には流石に驚かれたが、冷静に対応してくれた。金の出所を聞いてくるような真似もされなかったので助かった。
物件が決まった後は、とにかく掃除と片付けの日々だった。かなり広いので2人がかりでも掃除が大変だったが、隅々まで磨き上げまるで新築のようにピカピカにした。さらに、店を明るくする為に間接照明を設置したり、来店した客に振る舞う紅茶を購入したりと雰囲気づくりには一層気を配った。また、2階の宿泊用の部屋も掃除してそのまま寝泊りに使っている。そして、なんと2階にクレアも寝泊りをし始めた。そう、ラブコメでしか存在しないと思っていた「美少女と一つ屋根の下の生活」が始まったのである。初めはそんな風に浮かれていたのだが、よくよく考えると1人1部屋なので一緒に寝る――なんて事も無く、同じマンションに住んでいる住人の様な距離感だった事に気づき、変に緊張する事も無くなった。でも朝起きたらクレアの顔がすぐに見られるのは最高だよな……
俺の気持ち悪い感想はさておき、店の清掃と設備設置が終わった後は、開店準備に取り掛かった。まず初めに商業ギルドに店の事業内容などを書いた書類を提出し、事業許可証を発行して貰った。ちなみに提出した書類はセシリアに協力して貰い、作成したものだ。かなり専門的な知識が必要らしくほぼ任せっきりになってしまったが、快く引き受けてくれた。事業許可証が発行されるまでの間に、廃材で店の看板を作成することにした。俺が美術3の成績を遺憾なく発揮した結果、どこにでもありそうな看板が出来上がった。流石にこれではだめだろうと思ったのだが、クレアは気に入ってくれた様で、やるじゃないとお褒めの言葉を頂いた。
ちなみに俺たちの役職だがクレアが店長で、俺は副店長兼経理兼清掃係である。人を雇うほどの余裕はまだ無いため、しばらくは俺がほとんどの業務をこなしていくことにした。クレアも手伝うと言ってくれたが代表者としてドンと構えておいてくれと頼み込むと渋々受け入れてくれた。
そして申請してから2日後に晴れて事業許可証が発行され、オープンを迎えた今日。
「誰も来ないわね……」
閑散とした店内を見渡しながら、クレアが呟いた。張り切って朝早くから店を開けたが、昼食時を過ぎても客は誰一人として来なかった。もちろん、初めから大盛況になるーーとは到底思っていないが、1.2人は来ると見込んでいた。と言うのも、町中の掲示板に、「A級冒険者が貴方の依頼を承ります! 犯罪以外なら何でもお申し付けください!」と書いた自作のポスターを貼りまくったからだ。それにこの国ではA級冒険者は少なく、需要があるため依頼者が殺到してもおかしくないと思っていたのだが……
「やっぱりもっと宣伝活動するべきだったのか……? 店の準備で後回しになったとはいえ、出来るだけの事はやったはずなんだがな」
「そうね、ショウタが一生懸命に宣伝していたのだから来てもおかしくないはずなのだけれど」
「うーん、もしかしたら皆ポスターを見ていないのかもしれないな。それか、ポスターの印象が薄かったとか。いずれにしてもこのままじゃまずいな……よし、奥の手を使うか」
取り出したるは、2枚の大きな板。ポスターや看板と並行して作った広告板である。こちらはポスターと看板よりも目立つ派手なデザインで作成した。
「それをどうするの?」
「ああ、これはなこうやって首に掛けて歩くんだ。こうする事で前後から見られるし、何より目立つから俺のいた国ではよく使われる広告手法なんだ。これでバッチリお客さん獲得してくるから待っててくれ」
そう言って意気揚々と店を出ようと玄関のドアに手を掛けた瞬間、俺の意思より先にドアが開いた。来客を知らせる鐘が店内に鳴り響く。なんだ? この世界自動ドアでも実装されていたのか?
いや、そんなはずはない、ということは――この店の記念すべき最初の客は小柄な少女だった。
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お久しぶりです。前回の投稿からまた間隔が空いてしまいました。4月から就職して忙しい日々を送っていたため、いつもよりも執筆の時間が無かったと言い訳をさせてください。
さて、今話から新章に入りました。今回の章は前半部分は1話毎に短く(細かく)、後半は長めに切ろうと思っています。後半は少し難しい話になるかもしれませんが、お付き合いいただければと存じます。
では、また次回の投稿で。




