6.夢
お久しぶりです。前回の投稿からかなり時間が空いてしまったので簡単にあらすじ書いておきます。覚えている方は飛ばしても大丈夫です。
前回までのあらすじ
謎の少女「ソフィア」から依頼され、人質救出に向かった翔太とクレア。翔太は盗賊の頭にマジックアイテムの力と力量で圧倒され満身創痍に。藁にも縋る思いで魔法を叫ぶと突然刀が出現。すぐさま鞘から刀を抜くと翔太の意識は途切れてしまった。しかし、翔太は無意識のうちに盗賊を次々になぎ倒し、盗賊の頭も瀕死まで追い詰める。その後、駆け付けたクレアによって盗賊団は全滅したが、翔太は深い眠りについてしまうのであった───
「……知ってる天井だ」
冒険者になってからも毎日利用しているここ「酒と宿泊所オーベルジュ」の天井は、初めて利用したあの日と変わらず古き良き木目調だった。――あれ、確かアリスさんを救出する為に盗賊のアジトに乗り込んで、それから逃げる途中にボスみたいな奴に出くわして――その後どうなったか全く覚えていない。死にそうな程追い詰められたのは覚えているのだが……。いつまでも天井を見つめていてもしょうがない、とりあえず起きるかと決意し、腹に力を入れて上体起こしの要領でゆっくりと上半身を起こす。
「―――っ!」
途端に酷い筋肉痛のような痛みが上半身に走る。突然の痛みに思わず、顔を歪めてしまった。その痛みに耐え、何とか起き上がると右足に何か乗っている様な違和感を感じた。
恐る恐るそちらに目を移すと、違和感の正体は俺のベッドに顔を伏せてスースーと寝息を立てているクレアだった。こちらの方に顔を向けて寝ているため、寝顔がバッチリ見える。普段の凛々しい印象のクレアとは違い、純粋無垢な赤ん坊のように可愛い寝顔だ。やっぱり美少女はどんな時でも美少女なんだなあと思いながらクレアの寝顔を堪能していると、
「あ、ショウタさん目を覚ましたんですね! 思ったよりお元気そうで何よりです」
とセシリアが部屋に入ってきた。手には果物が入ったカゴを持っている。
「ん……ショウタ!? 目を覚ましたのね!! 」
セシリアの声で起きたクレアがすぐに俺に気づき、安堵の表情を浮かべる。
「ああ、ちょっと体が痛いけど特に異常は無いな」
「そう、それなら良かったわ……ってなんでそんなに見つめてくるの?」
俺のにやけ顔が相当酷かったのか、クレアがジト目になりながら聞いてきた。
「ん? ああ、いやクレアが俺の事心配してくれたんだなって思うと嬉しくて」
「べ、別に心配なんてしてないわ! ショウタはもうパーティーメンバーなんだから居なくなられたら困るってだけよ!」
そう言いながらもクレアの顔は真っ赤だった。照れたら顔が赤くなるのはアニメや漫画の世界だけだと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「クレアってば、正直になりなよ〜。ショウタさんが心配だ〜起きるまでここにいる〜って言って2日間付きっきりで看病してたんですよ〜? 少しは休んだらって言っても聞かなくて大変だったんですよ〜」
「なんだって!? セシリア、その話詳しく!!」
「ちょ、ちょっとセシリー! それは言わないって約束でしょ!?」
「というか、2日も寝たきりだったのか……2人とも看病してくれてありがとう。そうだ、アリスさんは無事なのか?」
「ええ、騎士団に保護されて無事にこの街まで帰って来られたのよ。そうだ、アリスさんにショウタが目を覚ましたら、直接お礼がしたいから知らせて欲しいって言われたの。私、さっそく呼んで来るわ」
「あ、それなら多分1階に居たよ〜。凄い鎧を着た騎士様と2人で居たよ〜」
「え、まさかそれって……」
セシリアの報告を聞いて、何故か困惑した様子のクレア。その表情からは今まで見たこと無い程焦りが感じられた。アリスさんが騎士と一緒だと何かまずい事でもあるのだろうか。
「クレア、どうした?」
「え? ええ、何でも無いわ。ショウタが動けそうなら下に降りて会いに行ってあげたら? 私たちはここで待っているから」
「あ、ああ、そうするよ」
呼んでくれるつもりだったようだが、いきなりどうしたのだろうか。気になるところではあるが、アリスさんを待たせているのでとりあえず1階へと向かった。
「あ、ショウタさん! 2日も寝たきりと聞いて心配したんですよ! でもお元気そうで本当に良かったです」
1階に降りると、酒場のカウンターに座っていたアリスさんが俺に気づいて声をかけてくれた。
「ご心配をおかけしてすみません。友人が看病してくれたおかげで元気になりました。アリスさんもお元気そうで何よりです」
「ええ、ショウタさんに助けて頂いたおかげです。その、改めてお礼を言わせてください。この度は本当にありがとうございました」
そう言いながらアリスさんは深々と頭を下げてきた。前世ではこんな風に頭を下げられた経験が無いので困惑する。自分が頭を下げるのは得意だったんだけどな……
「いえ、そんな! その、自分が力になれたのなら良かったです。……ところで、そちらの方は?」
先ほどから気になっていたのだが、なかなか言い出せずにいた、アリスさんの横にいる人物。全身銀色の鎧を身に纏い、腰には立派な剣を携えている。そして、乙女ゲームの攻略対象に出てきそうな整った顔立ち。「美青年」と表現するのが正しいだろう。比喩表現ではなくイケメンオーラが漂い、後光が差している。
「申し遅れました、私、王国騎士団所属のクロードと申します。今回は妹を助けて頂きありがとうございます」
クロードさんも同じく深々と頭を下げてきた。アリスさんを妹と言っていたので、恐らくお兄さんなのだろう。よく見ると、目元がそっくりだ。映画やアニメに出てくる騎士はプライドが高いイメージがあったが、そんな騎士がただの冒険者に直接お礼をしにきたのだ。それだけ妹のことを大切に想っているのだろう。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。恥ずかしい話、今回の件については全く覚えていないのですが、妹さんのお力になれたのなら光栄です」
「またまた、ご謙遜を!ショウタさんの武勇伝は妹からよく聞いています! 何人もの盗賊に囲まれても華麗な剣技で一掃され、賞金首である盗賊の頭にも1歩も引かなかったとか! いやあ、是非とも剣を交えてみたいものです!」
何か盛大な勘違いをされているようだ。俺が盗賊に囲まれても剣技で一掃? 盗賊の頭に1歩も引かなかった? 魔法を得意げに連発してボコボコにされた、の間違いだ。恐らく、アリスさんが命の危機に陥った恐怖感で、勘違いをしたままクロードさんに伝えたのだろう。あの状況ならそれも不思議なことではない。出来ることなら間違いです、と言いたい所だったが、こんなに賞賛の目で見つめられたら今更そんな事言えるはずがない。
「おっと、これは失礼。私としたことが興奮してしまいました。今日はお礼ともう1つお願いがあって来ました」
「お願い、ですか……」
この流れ、何か嫌な予感がする。騎士団に入ってくれとかそういうお願いか?
「どうでしょう、王国騎士団に入団してくれませんか? ショウタ殿の手腕を見込んでのお願いです!」
……やはりそうくるか。いくら勘違いとはいえ、賞金首の盗賊を倒したとされている男だ。目の届く範囲に置いておいた方が国の為にもなるし、戦力も増強されて一石二鳥――そんなところか。だが、こんなの考えるまでもなく俺の答えは決まっている。
「ありがたいお話ですが、お断りさせて頂きます。私には冒険者として共に戦う仲間がいます。その仲間を置いて騎士団に入ることは出来ませんから。それに私程度ではお力になれないと思いますので」
これは俺の正直な気持ちだ。騎士団で訓練の日々を送るのはごめんだ。それに、俺はこの世界でクレアの力になる――そう決めたのだ。
「そうですか……残念です。それはさておき、貴方は妹の命の恩人です! 助けてくれたお礼と言っては何ですが、何か困ったことや戦力が必要な時はいつでもおっしゃってください! 私にできることであれば何でも致します!」
「おお、それは頼もしい! 困った時は是非ともお願いします!」
その申し出は非常に助かる。困ったときに騎士団長という後ろ盾がいると何かと安心だ。
「では、私たちはこの辺で失礼します。そうだ、実は私は薬屋をやっているんです。これうちで作ったポーションです、良かったら使って下さい。このポーションや魔力回復薬など、冒険者さんには何かとご入用な商品を取り扱っているので是非いらして下さい。ショウタさん達には特別サービスしますので! では、失礼します」
アリスさんが去り際に自分の店の宣伝をしっかりと行い、2人は去っていった。つい先日まで命の危機に扮していたのに、逞しい人だ。
「おかえり、英雄さん。今回は本当にお手柄だったわね」
「ただいま……ってやめくれよ。俺はただボコボコにされただけで何もしてないのに」
2階に戻ると同時に、クレアが茶化してくる。まったく、なんでみんな勘違いしてるんだよ。戦闘経験ほぼ皆無の人間が倒せるはずがないだろ。
「ショウタ……まさか覚えてないの?」
「覚えていないって何を?」
「私が駆け付けた時には、盗賊の手下はみんな倒れていて、リーダーみたいな大男も瀕死だったのよ?」
「え? 冗談……だろ?」
「本当よ、この目でしっかり見たもの」
クレアの表情は真剣そのもので、嘘を言っているような様子ではなかった。
「ということは、俺が覚えていないうちに盗賊を全員倒したとでも言うのか?」
「それしか考えられないわ。あの場にはアリスさんとショウタ以外に人はいなかったもの」
「ありえない……大男に追い込まれて一か八かで使えない魔法を叫んで、何故か出てきた刀を持った――そこまでの記憶しか無いんだ」
「カタナって言ったわね。もしかしてこれのこと?」
クレアは壁に立てかけられていた1.5mほどの刀を指さした。間違いない、あの時いきなり出現した刀だ。
「そ、それだよ! どうしてかは分からないが、いきなり出てきたんだ! それを無我夢中で掴んだところで俺は意識を失ったはずなんだ」
「アリスさんの話だと、これを抜いた途端人が変わったように凄まじい剣技で盗賊をなぎ倒して行ったそうよ。それも覚えていないの?」
「ああ、勿論覚えていない。これを抜いた途端人が変わったって言ったよな? じゃあ俺が盗賊を倒せたのはこいつのおかげって考えた方が良いのか?」
「ショウタ自身で倒せるとは考えにくいし、この刀が原因と考えるのが一番自然ね。ショウタが気を失っても大事そうに抱えていたからとりあえず持ってきたけれど、使わない方が良さそうね」
「そうだな、この刀はひとまず俺が保管しておこう。悪人の手に渡って悪用でもされたらたまったものじゃない」
「そうしましょう。でも絶対に鞘から抜いちゃ駄目よ?」
「ああ、もちろん。護身用に持つだけで、抜刀はしないでおくよ」
どこか保管場所を決めてそこに置いておくのも考えたが、誰かが興味本位で刀を抜いてしまう可能性もあるので、俺が肌身離さずに持っておくことにした。ただ持っているだけでも充分護身になるので一石二鳥である。
「あ、そうだ。セシリーがショウタに大事な話があるから店に来て欲しいって言ってたわよ。体調も良さそうだし、行ってあげる?」
「分かった、でもなんでセシリアの店なんだ?」
「何故かは聞いてないわ。大事な話って言うぐらいだから誰にも聞かれたくない話なのかもしれないわね」
「なんだろうな? とりあえず行ってみるか」
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「あ、ショウタさんにクレア! お待ちしておりました! ショウタさん、もうすっかり元気そうですね! ささ、こちらへどうぞ!」
セシリアの店に着いた瞬間、奥の部屋へ案内された。ソフィアの相談を聞いた時と同じ部屋だろう。そういえば、ソフィアは結局何者でどこへ行ったのだろうか? まあ今はとにかくセシリアの「大事な話」を聞くのが優先だ。
「わざわざお越しいただいたのは他でもありません、例の件です」
「例の件ってなんだ?」
「もう、お忘れですか? ショウタさんが依頼したオークションの件ですよ!」
「あ、ああ! それか! も、勿論覚えていたとも!」
言うまでもなく、普通に忘れていた。ここ最近色々な事があり過ぎたからな。忘れたって良いじゃないか、人間だもの。
「私は最初、純金貨5枚を見込んでいると言ったのですが、今回は予想よりも高く売ることが出来ました! 購入された方はなんでも異世界の物を集めるのが趣味の貴族様だとか」
「おお、本当か! で、いくらぐらいになったんだ?」
「なんとですね、純金貨50枚になりました!」
「う、嘘でしょ!?」
俺が驚きの声をあげるより先にクレアが驚愕していた。まだこちらの世界での通貨価値に慣れていないからな…えっと、確か純金貨1枚は日本円だと大体100万ぐらいだったか? それが50枚あるから……
「日本円で約5000万!? とんでもない大金じゃないか!」
普段から着ていたどこにでもあるスーツに5000万の価値があると誰が想像できただろうか。いや、できないだろう。宝くじの前後賞が当たった気分だ。
「流石に私も驚きましたよ。何回もオークションを経験しましたが、ここまでの大金で落札されたのは見たことがありません」
「純金貨50枚って国民が生涯をかけて稼げるぐらいの額よ? それを一瞬で貰えるなんて……信じられないわ」
「こちらが売上です。ショウタさん、ご確認ください」
セシリアが取り出した小袋には、500円程の大きさで金色に輝く硬貨が確かに50枚入っていた。こうして実物を見ると改めて大金を手にしたのだと実感した。
「うん、確かに50枚あるな。そうだ、手数料は1割だったか?」
「お話が早くて非常に助かります。手数料1割の5枚頂いてよろしかったですか?」
「ああ、もちろん。でも今回は予定より高く売れたんだよな? セシリアのおかげで売れた訳だし……よし、色を付けて2割の10枚でどうだ?」
今回はセシリアに感謝してもしきれないほど世話になった。そのお礼金が1割なんて安すぎる。5割あげたいぐらいだが、流石にそれは受け取ってくれなそうなので2割に留めた。
お金が大好きなセシリアのことだ、きっと喜んでくれるだろう――と思っていたのだが、
「いえいえ! そんな! とても頂けません! 私は依頼された仕事をこなしただけですので!」
意外にも俺の申し出を断ってきた。
「いや、セシリアがオークションに出す事を提案してくれなかったらこんな大金にはならなかった。それに、嘘の金額を伝える事も出来たのに、しっかりと売却価格を伝えて確認までさせてくれた。俺はオークションの事とかよく分からないけれど、こんなに優良なオークショニアは中々いないんじゃないか? それにセシリアとはこれからも仲良くしていきたいからそういう意味も込めて、どうか受け取ってくれないか?」
「……分かりました、そこまでおっしゃるのなら有難く頂きます」
そう言ってセシリアはゆっくりと金貨を受け取ってくれた。よく見るとセシリアの耳がピクピクと動いている。何だかんだ喜んでくれたみたいで何よりだ。
「ところでショウタさん、その大金は何に使う予定なんですか?」
「それなんだけど、使い道はもう決めてるんだ」
俺はそう言って一呼吸置き、クレアの目をしっかりと見ながらこう伝えた。
「クレア、このお金で俺に恩返しをさせてくれないか?」
「ちょ、それどういうこと!?」
「俺この世界に来てからクレアにお世話になりまくってるからさ、少しでも恩返しがしたいんだよ」
「それは有難いのだけれど……自分の為に使わないの?」
「まあ色々考えたけれど、この世界のことまだよく分からないし、クレアの為に使うことが俺の為になるって思うんだよ。だから、遠慮はしないでくれ」
「クレア、ショウタさんもこう言ってる事だしお言葉に甘えたら? ほら、前言ってた夢。もしかしたら叶うんじゃない?」
「ちょ、セシリーそれは……!」
「お、何かやりたいことがあるのか? クレア頼む。聞かせてくれないか?」
「……笑わない?」
「笑わないよ。人の夢は笑っちゃダメって親に言われたからな」
「そのね、私『便利屋』をやりたいの」
「『便利屋』って、ギルドの事か?」
「そうじゃなくって。ほら、ギルドって依頼されたクエストを所属している冒険者がこなすでしょ? そのやり方だとどうしても割のいい依頼だけしか達成されない事が多くて、残ったクエストは期限が過ぎたらそのまま消えるの。そんなのおかしくない? 本当に困っている人がいるのにほっとけないわ。だから、私が出来る事なら犯罪以外は何でもする『便利屋』をやりたいってずっと思ってたの」
「凄い、凄いじゃないか! クレアらしくて素晴らしい夢だ! 是非俺に手伝わせてくれ! 金はもちろん、俺に出来ることなら何でもするよ」
「本当に? 稼げないかもしれないわよ?」
「本当だ。それに稼げなくても大丈夫さ。人の役に立てるんだからな」
生きていくためにはそれなりに稼ぐ必要があるが、大金を手にした今、当分の心配は無いだろう。最悪の場合、冒険者ギルドでクエストをこなせば十分生きていける。それに、人の役に立ちたいというのも本心だ。俺がこの世界に来たのもこの為だったのでは無いだろうか。
「……そこまで言うのなら、一緒に『便利屋』やってあげても良いけど?」
「もう、クレアってば素直じゃないんだから〜」
「はは、クレアらしいな」
そんな訳で、俺がこの世界に来てから1週間弱。クレアの夢である「便利屋」をやる事になった。これからどんな事が待ち受けているのか分からないが、クレアと一緒ならどんな事でも乗り越えられる気がする。
最後までお読みいただきありがとうございます。約10か月ぶりの投稿となってしまって申し訳ありません。小説を書くモチベーションが上がらなかったのと、就活やアルバイト、卒論などが重なって中々執筆の時間が取れなかったことが遅くなった原因です。
以前まで読んで下さっていた方も、これから読んでいこうと思って下さる方も、出来ればで良いので「いいね」やブックマーク登録をして頂けると執筆へのモチベーションが上がり、投稿頻度も多くなりますので是非ともご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。また、誤字・脱字報告やコメントも非常に嬉しいのでそちらも併せてお願いいたします。
物語はこれから新章に突入します。これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。




