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アベレージヒッター~平凡な俺の異世界生活~  作者: 勝地瑛星
第3章 窮鼠猫を嚙む
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4.力量の差

 「え? どういうこと?」

 クレアも俺も困惑の色を隠せなかった。妹がいないって本当にどういうことだ? 先程まで捕まっていて混乱しているからという事なのかもしれない、もう一度話を聞いてみよう。


 「何言ってるんですか、妹のソフィアさんに頼まれたんですよ」


 「ソフィア……知らない名前ですね」


 改めて聞いても答えは変わらなかった。アリスさんが言っていることが本当の事だとしたら、俺たちに助けを求めてきたソフィアは一体何者なのだろうか。俺とクレアが顔を見合わして考えていると背後から声が聞こえてきた。


 「あら、思ったよりも早く救助したのね。もう少し時間がかかると思っていたのだけれど」

 

 「ソフィア! どうしてここに?」


 声の主は俺らの依頼主でもあるソフィアだった。今頃セシリアの店で待っているはずなのに何故こんな所に? しかも、いくらクレアが道中の敵を倒したとはいえ、少女が他の盗賊にここまで来れるとは考えにくいし、アリスさんによると妹じゃないらしい。彼女は何者なんだ?


 「駄目じゃない、大人しく待ってなきゃ――」

 クレアがソフィアに歩み寄りながら話しかけると、突如大きな水の玉が部屋の壁に放たれて壁に大穴が開いた。さらに、その穴にクレアを落とそうと台風並みの突風が吹き、華奢なクレアは瞬く間に外へと放り出された。


 「クレアーー!!」

 俺は思わず叫びながら外に確認に行った。クレアは空中でヒラリと回転し、体操選手並の綺麗な着地を見せた。


 「私なら大丈夫よ! それよりアリスさんをお願い!」


  「分かった! 任せておけ!」

 クレアの無事を確認して安心して、俺はソフィアを睨みつけた。先程の魔法は他でもなく彼女から繰り出されたからである。


 「ソフィア、どういうつもりだ! お前は一体何者なんだ!」


  「アリスを助けたんだったらもうバレているわよね。そう、私はアリスの妹では無いわ。何者かっていう質問に答えてあげても良いし、貴方と遊んであげても良いのだけれど、残念ながら貴方の相手は私では無いの。さようなら、もう会うことは無いわ」

 ソフィアはそう言いながら、自分で開けた穴から自ら外へと飛び出して行った。先程のクレアみたいに空中で回転するのでは無く、エレベーターで降りるようにゆっくりと着地した。恐らく、魔法を使って重力に逆らっているのだろう。


 彼女の目的が一体何なのかは分からないが、俺がやる事はただ1つ。アリスさんを無事に町まで送り届ける事だ。再びアリスさんの手を引いて、牢部屋を出ると大広間には既に盗賊達が臨戦体勢で待ち構えていた。先頭に立っているのは恐らく盗賊達のボスだろう。190cmはあるだろう大きな身長と、胸から二の腕の筋肉は盛り上がっており、今にもはち切れそうだ。足もラグビー選手のようにガッチリと鍛えられており、ちょっとやそっとではビクリとも動かないだろう。さらにその鋭い眼光は、曇りの無い殺気を放っており、眼力だけで人を殺せるぐらいの威圧感を感じる。そんな大男が俺とアリスさんを見て話しかけてきた。


 「よお兄ちゃん、よくも俺のアジトで暴れてくれたもんだな。まあ、俺はお前さんらが来るのは分かっていたんだがな」

 来るのが事前に分かっていただと? 一体どういうことだ? ソフィアが妹でも無いのに救助を依頼したことといい、今回の件は謎が多すぎる。


 「まあそんな事は良いんだ。兄ちゃん、悪いがそいつはウチの大事な商品なんだわ。大人しく渡してくれねえか」


 「断る! アリスさんを無事に家まで返すって約束したんだ!」

 もし仮に外に飛ばされたのが俺で、この場にクレアがいたとしても俺と同じ事を言い放っただろう。誘拐されてそのまま奴隷として売られるなんて絶対に許されない事だ。


 「……しゃーねーな、おいお前ら! その小娘を連れてこい!」

 男の命令と同時に俺とアリスさんを取り囲むように5、6人の部下がズラズラと出てきた。俺たちが気づかないうちに包囲されていたのだ。部下たちは俺の事を完全に無視して一斉にアリスさんに向かって走り出す。


 「――させるか!」

 後ろ腰に装備していたダガーを取り出し、アリスさんに襲いかかろうとしている部下に向かって走り出した。人を殺める覚悟はまだ出来ていないが、この世界では殺らなきゃ相手にやられてしまうのだ。俺はとにかく何も考えずに無策で飛び込んで行った。が、部下の1人に追いつく手前で異様な殺気を感じて、咄嗟に後ろにジャンプをした。それと同時にさっきまで俺がいた場所に大きな物体が存在していた。それは、ガツーンと不協和音を奏で、1mはある大きな金属の刃は月明かりが反射し、眩い程に光っていた。大斧、いや大両刃斧とでも言うのだろうか。普通の斧は本来、木を斬るためのものなので片方の部分が刃となっているが、この巨大な斧は両方に刃が付いており、戦闘に特化したものだと分かる。大両刃斧を振り下ろしたのは、他でもなくボス格の大男だった。


 「お、今のを躱すのか! 兄ちゃん、見た目はちと弱そうだが中々やるじゃあねえか。ちょっとは楽しませてくれそうだな」

  この男、あんなに大きい斧を片手で振り下ろしやがった。しかも、なんの躊躇も無く殺そうとしていた。しかも、俺がこいつに足止めされている間にアリスさんが部下たちに拘束されてしまった。


 「アリスさん!」


 「ショウタさん――もごっ」

 アリスさんの叫びも虚しく、両手は後ろで縛られ口には猿ぐつわで口封じをされてしまった。

 「おい! アリスさんから離れろ!」

 再び牢部屋に連れていこうとする部下たちに飛びかかると、目の前にボスが立ちはだかってきた。


 「おっと、兄ちゃん。この先は通す訳には行かねえな。ここを通りたければ俺を倒して行くんだな! とは言え、俺も別にお前を殺したいって訳じゃねえ。 どうだ、あの女を見捨てるって言うならこの場から逃がしてやってもいいぜ? 俺らは無益な殺しをしないで済むし、お前さんは命拾いすることになる。悪くない話だと思うぞ?」


 「馬鹿にするな! ここで命拾いしても、後で罪悪感で死ぬ! 俺はアリスさんを死んでも助けるぞ! もっとも死ぬ気は無いがな!」

 そうだ、ここでこいつの提案に乗るなんて事はしない。クレアに頼まれたんだ、アリスさんをお願いって。この世界にきてロクな恩返しを出来てないからこそ、ここで期待に応えなきゃどこで応えるんだ。それに、俺には秘策の魔法がある。この大男は俺が魔法を使えるとは思っていないだろうし、あいつの攻撃は思ったよりも速く無かった。つまり、俺の方が身軽に動けるという事だ。奴の攻撃を避け、魔法で怯ませている隙に部下たちに追いつけば逃げ出せる可能性は高い。


 「そうかい、それじゃあ仕方ないが消えてもらうぜ」

 そう言った大男は斧を振りかざし、真っ直ぐ俺に向かって振り下ろしてきた。刃が俺に当たる寸前で躱すことに成功し、すかさずボスに向かって右手を突き出した。


火球(ファイアーボール)


 「な、なに!? 魔法だと——ぐっ」


 呪文を唱え放たれた火の玉は腹にクリーンヒットし、男は腹を抑えて蹲った。俺の魔法は人を殺すほどの威力は無いが、救出する為の時間稼ぎにはなるだろう。現に、男は蹲ったままピクリとも動かない。よし、これならいける——と油断し男に背を向けたのが間違いだった。


 「おい、言っただろ。ここを通りたいなら俺を倒せってな!!」

 相当なダメージを受けて動けなかったはずの男が突然動き出し、俺の背後から襲いかかってきた。男の襲撃に気づいた時には既に遅く、斧の腹で顔面を思い切り叩かれた。


 「——っ!」

 咄嗟に顔を両腕でガードしたが、その抵抗も虚しく俺の体は宙へと舞い上がる。無重力状態となった宇宙飛行士のように水平移動し、石の壁に激突した。その衝撃で背中を強打したのか、呼吸もままならない。叩かれた鼻からは大量の血が湧き出し、口の中は鉄の味でいっぱいになった。幸か不幸か、両腕でガードしたので鼻は何とか折れずに済んだようだが、両腕からは激痛が走り、まともに動かすこともままならなかった。なんでだ、俺の魔法は確実にヒットしていたのに——


 「ほう、手加減したとはいえ咄嗟にガードするって事は戦闘に関して全くのド素人って訳じゃ無いみたいだな。俺も久しぶりの実戦で勘が鈍っていたみたいだ、兄ちゃんに練習相手になって貰うぜ」


 男は俺を追撃すべく、再び走り出す。俺は急いで倒れた体を叩き起し、男の間合いに入ると同時に右方向へ前転しながら攻撃を避けた。2、3回前転を決めた後、再び右手を男に向かって突き出し、雷の呪文を唱える。


雷球(サンダーボール)


 先程とは違い、今度は男の顔面に雷の球がヒットした。何故先程の魔法が効かなかったのか分からないが次こそ大丈夫だろうと、白い歯を見せてしまったのが2度目の過ちだった。


 「効かねえなぁ」

 俺の攻撃を確実に受けて動けないはずの男は全くダメージを受けて無い様子で、俺を睨みつけ、斧を振りかざした。俺は完全に反撃は無いと高を括っており、ノーガードになっていた俺の上半身に衝撃が走る。


  「——ぐっ!」

 またしても体は宙へ舞い、石の壁に追突する。今度の攻撃は俺の腹に直撃し、俺の顔を歪める程の痛みだった。なんで俺の攻撃が効かないんだ——


 「『なんで俺の攻撃が効かねえんだ』って顔してるな。冥土の土産に教えてやろう。これはな、世界に数個しか無いと言われる秘宝『神器』だ。こいつの詳しい効果は分からんが、こいつを付けてから魔法が一切効かなくなったんだぜ。お前さんの魔法は中々のものだったし、『雷球(サンダーボール)』だっけか? そいつは初めて見たぜ」

 男はそう言いながら笑顔を浮かべていた。この戦闘を心底楽しんでいるようだ。その証拠に俺に対してすぐ追撃をしようとはしてこない。殺すのが目的ならさっきの攻撃の後すぐに次の攻撃を繰り返すはずだ。この男は余程の戦闘狂(バーサーカー)なのだろう。


 「へぇ、そいつは凄いな。どうりで魔法が効かない訳だ」

  などと軽口を叩いているが、体に力が入らない。先程の攻撃で肋が何本か折れたようで、体を動かそうとしても痛覚がそれを邪魔してくる。


  男は獲物を追い詰めた百獣の王如くゆっくりとこちらに近づいて来ている。何とか逃げ出そうと脳が体に命令するが、まるで反応がない。このままでは確実に殺られてしまう。俺は使える魔力を全部使う覚悟で呪文を唱えた。


土壁(アースウォール)


 土壁(アースウォール)は文字通り、目の前に分厚い土の壁を創り出す魔法だ。先程までの魔法とは違い、全く攻撃力は無い代わりに、何人たりとも侵入を許さない「ATフィールド」の様な防御壁になる――はずなのだが


 「ははっ、本当にお前面白いな! 3属性も魔法が使えるやつなんて初めて見たぜ!」

  男は嬉々とした表情で簡単に土壁(アースウォール)を打ち破った。目の前の土壁はまるで木を切った様な断面で、ガラガラと崩れ落ちた。最強の防御壁であったはずの土壁は、最早ただの土埃へと変化してしまった。男と俺を阻むものは無くなり、再び対面した。


「面白れぇもん見せてくれた礼だ、最後に何か言い残した事があれば聞いてやるぜ」


 もはや返す余力も残っていない。例え俺が死んでもここまで時間を稼いだのだ、外に飛ばされたクレアがきっとアリスさんを救ってくれるはず。そうだ、俺結構頑張ったよな、最後にクレアにもう1回会いたかったな――


 ――本当にそれでいいのか? 今まで平凡で不変な人生を送ってきた俺に訪れた突然の異世界転移。右も左も分からず死にかけた俺を救ってくれたのはクレアだ。それだけでなく、最初のクエストの時もその後もクレアは俺に良くしてくれた。そんなクレアの力になる為にここに来たはずなのに、こんなに簡単に諦めていいのか? いや、駄目だ。クレアに1つも恩返しまま死んだら絶対に後悔が残る。俺にはまだ出来ることがあるはずだ。でも相手は魔法が効かないと言っていた。一体どうすればいいんだ……


 ——いや、まだ一度も使ったことが無い「スキル」があるじゃないか。練習で一回も成功していないが、他に手が無いんだ、一か八かこれに賭けてやる!


「……ふん、何もねえのか、なら死ねぇぇー!」

 男が勢いよく斧を振りかざし、真っ直ぐ俺に振り下ろしてきた。今度は斧の刃がこちらに向けられており、これを喰らったら体が真二つになるだろう。こんな危険な状況にも関わらず俺の頭はいつもより冴えており、その攻撃がゆっくり見えた。——これが走馬灯、いや火事場の馬鹿力と言うのだろうか。追い詰められた鼠が猫に反撃するように俺は叫んだ。


「クリエイトォォ!!」


 呪文を唱えると、部屋全体に太陽の様に眩い光で包まれた。俺も男も片腕で目を覆う。光が消えたかと思うと、カランと音を立てて何かが地面に落ちたのが分かった。——刀だ。なぜこの状況で刀が出てくるのか全く分からないが、考えるより体が先に動いた。男も眩しさから解放され俺が刀に向かうのに気づき再び斧を振りかざす。俺は刀を手に取り鞘から抜き放った。

 ——その瞬間、俺の意識はプツンと途絶えた。


最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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また、誤字脱字等ございましたら、報告していただけると幸いです。

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