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アベレージヒッター~平凡な俺の異世界生活~  作者: 勝地瑛星
第3章 窮鼠猫を嚙む
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3.アジトへ

 ノブレス王国の城下町ランスでは王城を中心に円を描く様に建物が建っていて、東西南北にそれぞれ門がありその先には緑が生い茂る森がある。その中の1つ――「西の森」で俺は草むしりをしている。否、草むしりをしているフリである。


 クレアが提案してきた作戦はこう。俺が見通しの良い所で薬草を採取しているフリをする。その間、クレアは物陰に隠れ、周りを警戒。俺を見つけた盗賊は俺に襲いかかってくる。そこをクレアが一掃し、捕らえた盗賊からアジトの場所を聞き出す、名付けて「囮作戦」である。――名付けるほど立派な作戦とは言えないが、果たして上手くいくのだろうか。


 と考えながら囮を続けていると、


「よお、兄ちゃん。悪いが、持ってるもん全部置いていって貰うぜ」

 見るからに悪そうな顔をした男たちが4人、俺の周りを取り囲んだ。俺を中心に4方向に適度な距離を保ちながら話しかけてきた事から絶対に逃がさないという意思を感じる。これが四面楚歌という事なのだろうか。今まで例えとして使っていたが、本当にこんな状況あるんだな……


「ああ、そうだな。まあ、身ぐるみはがされるのはお前らになるんだけどな。恨まないでくれよ?」

 両手を挙げ、降参のポーズをする。囮としての最後の役割だ。


「はあ? 何言ってんだ? おい、お前らやっちまえ!」

 最初に俺に話しかけてきた男が仲間に攻撃を促すが、返答は無い。それもそのはず、クレアが既に他の三人は無力化していた。


「ごきげんよう。見たところあなた達は盗賊の様だけれど、『モーベデロ』のメンバーで間違いないかしら?」

 クレアはゆっくりと微笑みながら尋ねる。先程の様に、表情は笑顔だが目は全く笑っていない。氷のように冷酷な笑顔に盗賊はたじろぐ。


「な、なんだてめえ! 何者だ!」


「生憎、悪人に名乗る名前は持ち合わせていないの。知っている事全部話して貰うわ」


 そう言うと同時に盗賊の背後に回り込み、レイピアの柄で首を「トン」と一突きした。瞬間、盗賊は倒れこみピクリとも動かなくなった。——あれって映画や漫画の世界だけでしか出来ない都合の良い技だと思っていたが、本当に「トン」で人は気絶するんだな。ともあれ、「囮作戦」は成功したということで良いだろう。


「ショウタ、その縄で全員木に縛り付けちゃうから手伝って」

 クレアは事前に用意していた縄を取り出した。俺は4人を近くにあった大木まで運び、それをクレアが縄で縛りつけた。4人の内、3人は口を封じ、仲間に指示を出していた1人だけ喋れるようにした。とは言っても、両手両足は使えないので自力で逃げることは出来ないだろう。


 「これで良しっと。あとはこいつに話して貰うだけなのだけれど……。起こすには水が一番手っ取り早いわね。ショウタ、水を汲んでくるから少しの間、監視を頼んでも良い?」


「いや、その必要はないぞ。俺が水魔法を使えるからな」

 魔法が使えることは本当はもう少し秘密にしておきたかったが、一刻も早く情報を聞き出すのは先決だと考え、カミングアウトする事にした。


「水魔法ですって!? この前、火魔法が使えるようになったばかりなのに……。いつの間に使えるようになったの?」


「まあ、あれから少し練習したからな。話は後だ、こいつを起こすぞ」

 俺は右手を盗賊に向けて神経を集中させる。この動作をしなくても、水を生み出すことは可能だが、確実に当てるためには必要なのである。いわゆるターゲット指定である。


水球(ウォーターボール)

 呪文を唱えると同時に、俺の掌から水の球が放たれ、盗賊の顔面にクリーンヒットする。よし、成功だ! 一週間練習した成果が出たな。ちなみに、技名は俺のオリジナルであるが、ダサい、ありきたりだ、などの苦情は一切受け付けないのでそこんとこよろしく。


「何するんだ、てめえ! 縄をほどきやがれ!」

 水をかけられた盗賊は目を覚まし、直ぐに叫び声をあげる。水が彼の器官に入ったのか、しばらくの間咳きこんでいた。


「お目覚めの所悪いのだけれど、あなた達のアジトの場所を教えて貰えるかしら?」


「な、なんでお前らに『モーべデロ』のアジトを教えないといけないんだ!」


「あら、私はただ『アジト』を聞いただけよ? なんで『モーべデロのアジト』を聞いてると思ったのかしら?」


「くっ、ず、ずりーぞ!」

 いや、こいつ馬鹿だろ。わざわざ自分から「モーべデロ」のメンバーって自白しちゃっているじゃないか。そもそも何を聞かれても黙秘すれば知られることは無いのだ。


「さて、早く教えて貰える? こっちは時間が無いの」


「はっ、何をされようがお前らに教える事なんて何1つねーぜ! 潔く諦めるんだな!」


「そう、残念ね……。仕方ないわ、時間が無いからあなた達以外のメンバーに聞くことにするわ」

 そう言って先程の冷酷な笑みを浮かべ、彼女の手の上には巨大な火の玉が浮かんでいた。どういう原理で浮いているのか、熱くないのかなど色々な疑問はあるが、それらはクレアの魔法という事で納得した。先程の俺の水魔法が「水球」ならクレアの魔法はさしずめ「火球」と言ったところだろうか。とにかく、これを喰らったら一溜りもない事は確かだ。


「ひ、ひぃ!! わ、分かった! 教えるから命だけは勘弁してくれ!!」

 クレアの魔法に命の危機を感じた盗賊はあっさりとアジトの場所を教えてくれた。それどころか、アジトまでの道案内を申し出てきた。恐らく隙を見て逃げ出そうという魂胆だろうが、クレアがそれを見逃すはずもない。縄は解かずに道案内をさせることになった。


 盗賊たちとエンカウントした場所から数分歩き、アジトらしき建物が見えてきた。石造りの塔のような建物で、4~5階程の高さだった。


「ここです。言ってた人質は最上階に幽閉されているはずです。こ、これで勘弁してくれ、頼む」


「お疲れ様、じゃあもう一回眠りましょうね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ——あべしっ」

 盗賊はどこかで聞いた事ある世紀末な断末魔を言いながら気絶していった。こっちの世界にもケンシロウがいるのだろうか。あの漫画を読んでいないと出てこないセリフだろう。まあ、そんなことはさておき、盗賊のアジトが分かったので後は潜入するだけだ。と言いたい所だが、そう簡単にはいかない。入口には見張りが4人おり、正面から侵入するのは困難だろう。かと言って他に入れそうな入口は見当たらないのであそこを突破する以外に方法は無さそうだ。


「さて、あれだけ見張りがいたら正面から行くのは難しそうね。ショウタ、いい方法は無いかしら?」


「いい方法ね……うーん」

 顎に手をやり、頭をフル回転させて方法を考える。潜入といえば、昔やっていたステルスゲームではどうやっていただろうか。確か、麻酔銃で敵を無力化していたような……。流石にそれは無理だから、別の方法――例えば音や光を使ってどこかに意識を向かせてその隙に潜入するのはどうだろうか。ステルスゲームでも銃の弾倉を投げ、敵を移動させて背後を取っていた。だが、それは敵が1人の時に限ったことで、複数人いる時にそれをしても1人が確認して終わりだ。4人ともなると最低2人は引き付ける必要があるだろう。それには大きな音で引き付けなければ……そうだ、あれを使おう!


 俺はこの世界に来てから1回も使っていない「スマホ」を取り出した。この世界ではもちろんネットが無いのでただの四角い板と化していたスマホだが、電波が無くても使えるアプリがいくつかある。その1つが時計である。この時計アプリのアラーム機能を駆使すれば十分な陽動になるはずだ。


「クレア、いい方法思いついたぞ。俺が2人ぐらい引きつけるからその隙に侵入しよう」


「本当? でもどうやって引きつけるの?」


「これを使うんだ。これが何なのかはさっぱり分からないと思うが、俺を信じて欲しい」


 俺の取り出したスマホに終始キョトンとした様子のクレアだったが、俺の自信満々な顔を見て


「分かったわ、あなたを信じる」

 あっさりと了承してくれた。これだけ信頼されているのだ、期待は絶対に裏切れない。

 

「ありがとう、とりあえず決行は夜が更けてからの方がいいよな?」


「そうね、夜の闇に紛れた方が侵入はしやすいからその方が良いわ」

 

「分かった、じゃあ何時にセットしようかな……」

 俺は左腕に着けていた時計を確認した。スマホの普及で社会人でも時計をしないという人が増えていると聞くが、俺は家の中以外では常に着けるようにしている。何故かというと、この時計は俺が就職を決めた時に親父が贈ってくれたもので、勝手にお守り代わりだと思っているからである。これを着けていると家族が味方してくれているような気がするのだ。皆元気にしているかな……俺がいなくなって心配しているかもしれないな……


 ダメだ、今は目の前のことに集中しなければ。改めて時計で時刻を確認してみる。現在の時刻は18時30分。時計とスマホの両方で確認したが、どちらも正確に動いているので間違いないだろう。いくら異世界とはいえ、時間の仕組みは元の世界の地球と同じのようだ。さて、アラームを何時にセットするかだが、俺は19時00分にセットすることにした。今の季節が分からないのでその時間はまだ明るい可能性はあるが、一刻も早くお姉さんを救出する為にはこれぐらいが妥当のはずだ。一応、保険として5分おきに鳴るように設定したので多分大丈夫だ。


 次にこのスマホを括り付けるために大きな木を探す。丁度入口から少し離れた所に手ごろな木があったのでその木の幹に固定した。アラーム音は最大にしてあるのでこの位置なら間違いなく音は聞こえるだろうし、直ぐには見つからないはずだ。


 これで潜入の為の準備は完了だ。俺はクレアと共に入口近くの茂みに再び身を隠した。


「クレア、俺が合図したら大きな音が鳴って盗賊がそれを調べるからその隙に潜入しよう。でも引き付けられるのはせいぜい2人だから残りの2人に気をつけて行くぞ。場合によっては無力化して欲しい」

  女の子に「無力化して欲しい」などと頼むのは我ながら情けないが、俺が無力化しようとしてもモタついてしまうだけなので仕方がない。それどころか返り討ちにあってしまう可能性の方が高い。


「任せておいて。盗賊相手に容赦はしないわ」

 そう言ったクレアの表情は笑顔だが、やはり目は笑っていなかった。


 俺の腕時計が18時59分を指し、予想通り辺りは良い感じに暗闇に包まれていた。暗闇に早く慣れるために目を瞑り、作戦開始に備える。


「よし、そろそろだな。3……2……1……鳴るぞ!」

 そう言った瞬間、ここら一帯にお気に入りアーティストの曲が流れた。デフォルトのアラーム音でも良かったのだが、そこで人が歌っているように聞こえるかもしれないと考え、スマホに入っていたこの曲を選んだ。軽快なサウンドとボーカルの卓越した歌声が辺りにこだまする。


「おい、なんだこの声は! 誰かいるのか!」


「くそ、何処にいやがる! おい、探しに行くぞ!」


 予想通り、アーティストの歌声をそこで人が歌っていると勘違いした盗賊達。だが、4人は予想外の行動に出た。なんと4人全員でスマホを置いた木を調べに行ったのだ。いくらこのアジトが分かりづらい場所にあるとは言え、見張りの全員が行っちゃ駄目だろ。


 何はともあれこちらにとっては好都合だ。あいつらが馬鹿で本当に助かったぜ。俺はクレアと共に堂々と入口から建物に潜入した。中も外観と同じ様に石造りで、1階には階段と奥に部屋が2部屋あるだけの様だった。中に入って直ぐにクレアが話しかけてきた。


「ねえショウタ、大きな音を鳴らすって言っていたけれど、いつの間に人を雇ったの? その人のおかげで簡単に潜入できたけれど、その人は今頃襲われているんじゃないかしら。とても心配だわ……」

 クレアも盗賊と同じであの歌声を本当に人間が歌っているように聞こえたらしい。しかも俺が人を雇って囮をしてもらっていると勘違いしているようだ。この世界の住人なのだから勘違いするのは無理も無い。クレアは本当に優しいなあ……


「ああ、その点は問題ないぞ。あれは事前に人が歌っていた声をあの板に閉じ込めてそれを鳴らしているんだ、だからあの盗賊達がいくら探しても人なんて出てこないのさ」


「ん〜やっぱりよく分からないけれど人がいないのなら安心だわ。ここからは私に任せておいて。隠密は得意な方なのよ」


 そう言いながらクレアは階段をスタスタと上って行った。しかも、敵に気付かれない様に足音を消しながら上っている。そうだ、さっきの敵が間抜けすぎて忘れかけていたが、ここは敵の本拠地であり、もし気づかれてしまったらすぐに取り囲まれてしまう。俺も音をなるべく立てないようにしなければ。俺は右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して歩き出した。これは緊張しているからでは無く、「ナンバ歩き」と呼ばれる忍者も使っていた歩き方で、体のブレの軽減と衣服の衣擦れを防ぐ事で敵に気付かれにくくなる――と言うのを漫画で見た事があるのでやってみた。やってみると分かるが確かに普通の歩き方よりも音が少ない。


 ナンバ歩きを保ちながら階段を上がると2階に差し掛かる手前でクレアがしゃがんでいた。この位置は2階からは死角になっており、バレることはないだろう。


「こんな所でしゃがんでどうした?」

  クレアと同じようにしゃがみつつ、小声で問いかけた。


「あれを見て」

 とクレアが指さした方向を見ると次の階へと続く階段が見えた。それだけではなく、見張りらしき人物が2人、門番のように立っている。あの様子だと階段にたどり着く前にバレてしまう。くそ、ステルスゲームなら麻酔銃で2人とも眠らすのに……ん? そうだ、ステルスゲームの手法だ!


  俺は階段に落ちていた石を拾って向かって左の門番の近くに投げた。コンコーンと音を立てた石が門番の意識を引いた。


  「な、なんの音だ?」


「少し待ってろ、調べてくる」

 左の門番――仮に左大臣と呼ぼう。左大臣は音の鳴った方に警戒しながら向かっていった。右大臣はその様子を見守っており、こちらに意識は向いていない。その隙にクレアは一気に距離を詰め、右大臣の首に手刀を一撃を入れる。たちまち右大臣は気絶した。


「なんてことは無かった、ただの石だ――」

  石を調べていた左大臣も続けざまにクレアの手刀の餌食となった。もはや必殺仕事人にも真似出来ないであろう手際である。……クレアは絶対に怒らせないようにしよう。


 無事無力化に成功し、3階に上がると、先程と同じように右大臣と左大臣が階段を守っていたが、この2人も同じ手法で無力化する事ができた。何かを警備する時は同じ体制じゃ駄目だな。こんな風に攻略法が分かったらすぐに突破されてしまうからな。


 また1つ勉強になった所で、4階に到着した。どうやらここが最上階の様で、2、3階とは構造が少し違っていた。階段を上がりきってすぐ目の前には大部屋があり、正面には玉座のような大きな椅子が1つ、左右に扉が2つという配置だった。あの盗賊の情報が正しければ、この2つの扉のどちらかにお姉さんが幽閉されているのだろう。パッと見ではどちらが正解かは分からないが、俺は左の扉を選んだ。人間は右か左か選択を迫られた時、約70%の人が左を選ぶと言われている。この事を知っている人で、あえて右を選ぶという人もいるだろうが、俺はその約70%に属する普通の人間なので左を選択したのだ。


 結果はドンピシャで正解だった。左の扉を開けた先にはいかにも牢屋の様な柵があり、その中に縄で手枷をされた女の人が幽閉されていた。茶髪のロングヘアーの彼女は袖も裾もボロボロの服を着させられていた。想像はしていたが、やはり奴隷として売られる予定なのだろう。


「アリスさんですか? 俺はショウタ、こっちはクレアです。俺たちは味方です、妹さんに頼まれて助けに来ました!」


「はい、私はアリスですが……」


「時間がありません、すぐに逃げましょう!」

  クレアが牢の鍵を壊し、俺は持参したナイフでアリスさんの縄を切った。アリスさんの手を引いて、牢部屋を出ようとした時アリスさんから衝撃の発言が出た。


「あ、あの! 助けてくれるのは大変有難いです、でも……私に妹なんていません」

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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また、誤字脱字等ございましたら、報告していただけると幸いです。

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