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アベレージヒッター~平凡な俺の異世界生活~  作者: 勝地瑛星
第3章 窮鼠猫を嚙む
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2.少女の依頼

 その日は珍しく曇り空の日だった。城下町ランスでは雨がほとんど降らず、晴天の日が多い。そのため、曇り空や雨の日は珍しく不吉とされ、雷が観測されると災いがもたらされると言われている。


 しかしながら、そう伝えられているだけで別に何かあるという訳では無いので人々は普通に日常を過ごしている。感覚的には、朝のニュース番組の星座占いコーナーで12位と言われた日ぐらいなのだろう。


 その日はいつも通りクレアと昼前にギルドに向かった。何故昼前かと言うと、朝早くは冒険者が殺到し、大変混む為である。また、最初にギルドに行った時に絡まれたガラの悪い冒険者達もその中に含まれているので、トラブルを避けるためにもこの時間にしか行けない。クレアが俺のレベルに合わせて選んでくれるクエストは人気が無いのでこの時間でも大丈夫なのだが。


 という訳で「さあ、今日も頑張るぞ」と意気込み、ギルドの扉を開こうとした瞬間、ドンっと誰かにぶつかってしまった。


 ぶつかったのは今にも折れそうなほどか細い女の子だった。女の子は尻餅をつき、泣き出してしまった。


「ごめんな、俺の目線からだと見えなかったんだ。怪我は無いかい?」

 とても大人とは思えないかっこ悪い言い訳をしつつ、女の子を心配する。我ながら情けないと思うが、今までに4~6才ぐらいの女の子にぶつかって尻餅をつかせたことなんて無いのでこれが俺のできる精一杯の誠意なのだ。


 仕方ないわね、と見かねたクレアが女の子の目線に合うようにしゃがみ、

「さっきはお兄ちゃんがぶつかっちゃって本当にごめんね? このお兄ちゃんに悪気は無かったの。許してあげてくれる?」


 と優しく話しかけた。すると、女の子は徐々に泣き止んだが、未だに涙目でこう言った。

「今回はこの綺麗なお姉ちゃんに免じて許してあげる」


 中々マセた女の子だなと思ったが、今回の件に関しては俺が全面的に悪いので口には出さなかった。


「それで、こんな所で何をしていたんだい? お父さんかお母さんとはぐれちゃったのかな?」

 俺もクレアの真似をして女の子の目線に合うようにしゃがんで言ってみる。ここはギルドで冒険者かクエストを依頼する人しか出入りしないはず。女の子が1人でうろついてるという事は両親とはぐれたのでは無いか、というのが俺の推理である。

「お母さんとお父さんはいないの。でもお姉ちゃん……お姉ちゃんが……」

 と言いかけた所でまた泣き目になったので泣き出される前に1つの提案をしてみた。


「そ、そうだ! ここはちょっと危ないからどこかでお茶でも飲みながらお話しよう! お詫びも兼ねてさ、なっ?」

 そう言いながらクレアにアイコンタクトを送る。多分俺の提案だけじゃこの女の子は動かない。でもクレアも賛同してくれれば受け入れてくれそうな気がした。


「そうね……ここじゃあゆっくり話も聞けないし、セシリーのお店にでも行ってみましょうか。そうだ、名前を言ってなかったわね、私はクレア。こっちのお兄ちゃんはショウタって言うの。あなたの名前を教えて貰える?」


「わたしは、ソフィアって言うの。うん、お姉ちゃんの言う通りにする……」

 そう言うと、ソフィアは涙目を擦りながらクレアの手を握る。クレアはその様子を見て微笑みながらテクテクと歩き出した。俺は完全に置いてけぼりである。


「お、おい、ちょっと待ってくれよ……」


 セシリアの店に来るのはあれ以来初めてである。そう言えば、俺が着ていたスーツの出品をセシリアに頼んでいたのだが、どうなっているのかを後で聞いてみるか。


「あ、クレア! どうしたの〜?こんな時間に」


「ちょっと落ち着いて話ができる所を探していてね、セシリーの店が1番良いかなって思ったから来たの。ソフィア、このお姉さんはセシリアよ。このお店で一番偉い人なのよ。ご挨拶できる?」


「わたしはソフィアと言います。セシリアお姉ちゃんはクレアお姉ちゃんの『しんゆう』って聞いてます。よろしくお願いします」


「よく出来ました! ちゃんと挨拶出来て偉いわね〜」


 ソフィアはクレアからお褒めの言葉を貰ってご満悦の様子。だが、セシリアはソフィアを見てからというもの、顔を伏せて体がプルプルと震えている。やはり、子ども相手でも人見知りが発動するのだろうか。


 などと心配しているとセシリアがポツリと呟いた。


「隠し子……?」


  『え?』

  俺とクレアは予想外の反応に思わず顔を見合わせる。


「こ、この子はもしかして2人の隠し子ですか!? いつの間にそんな関係に! まだ出会ってそんなに経ってないはずなのに…」


「ちょ、落ち着け! 隠し子じゃない! この子はさっき知り合ったばかりだ!」


「クレアお姉ちゃんがママになるのは賛成ですが、このお兄ちゃんがパパになるのは嫌です」


  このおマセさん! 余計なことを言うんじゃない! と思わずツッコミを入れたくなったが、加害者側としてはそんなことを言う訳にはいかないので心の中だけに留めておく。


「こんな事になったのは、かくかくしかじかでな……」


「あの、かくかくしかじかと言われましても分からないのですが……」


「いや、そこは悟ってくれよ!」


「冗談です〜何だかショウタさんがそう言ってるような気がしたのでからかってみました〜」

 そう言ってセシリアは「てへペロ」の仕草をしてきた。いや、可愛いから良いのだけれど、結構その仕草古いんじゃないか?


「冗談はさておき、事情は分かりました〜。そういう事なら作業場を使ってください。今お茶を淹れますね〜」


 そう言ったセシリアはそそくさと裏に捌けて行った。セシリアが人見知りを発動させないか心配だったが、今回は小さな女の子という事もあってかその心配は杞憂だったようだ。というか、俺に対してもオドオドした様子は無く普通に話している。流石に二度目だから慣れたのかもしれない。

「あ、そうだ〜ショウタさん、少し宜しいですか〜?」

 裏に捌けて行ったはずのセシリアがひょっこりと出てきて俺を呼んだ。何の用だろうか、お茶を淹れるのを手伝え、とかかな?


「例の件なのですが、思ったよりも手続きが大変で、出品は明日になりそうなんです。お待たせして申し訳ございません」

 セシリアはそう言って深々とお辞儀をしてきた。口調もいつものゆったりした口調では無く、完全なビジネスモードだ。やはりセシリアはお金や取引の話になると雰囲気がガラッと代わるようだ。


「いや、全く急いでいないし、大丈夫だよ。むしろ何から何までありがとう。期待しながら待つことにするよ」


「ありがとうございます。少しでも高く売れるように全力で頑張ります」

 両手でガッツポーズをして意気込んだセシリアは今度こそお茶を淹れに行った。クレアがセシリアには才能があるって言っていたし期待出来そうだ。


 用意してくれた部屋は作業場とは言ってもしっかりと整頓されており、リビングとしても使えそうなほど綺麗だった。ここなら落ち着いて話を聞くことが出来そうだ。


「じゃあ、落ち着いた所でお話聞いても良いかしら?」

 出されたお茶を飲んで一息ついた所で、クレアが話を切り出した。


「えっと、今朝お姉ちゃんとお薬に使う薬草を採りに行ってたの。そしたらとっても怖い顔をした男の人たちが襲ってきて、お姉ちゃんは私を逃がすために身代わりになってくれて、それでお姉ちゃん攫われちゃって――『くえすと』を依頼すれば冒険者さんが助けてくれるかもってギルドに行ったけど相手にして貰えなくてそれで……」

 ソフィアは先程引っ込んだ涙がまた押し寄せて来たかのように泣きながら話してくれた。ガラの悪い連中が女性を攫うという事は恐らく人身売買でもするつもりだろう。日本の異世界物ライトノベルやアニメではしばしば出てくるが、この国にも「奴隷制度」があるのだろうか。


「なあ、クレア。そのガラの悪い連中って多分盗賊だよな? そいつらに攫われたらどうなるんだ?」

 ソフィアに聴こえない様に後ろを向いて小声で話す。


「ええ、十中八九盗賊で間違いないわ。攫われた人の行先は様々と言われているけれど、女性なら奴隷市場に連れていかれる可能性が1番高いわね。この国では奴隷は禁止されているけれど、一部の貴族は従者と称して、闇市場で奴隷を買っている人が多いみたい。あくまで噂だけどね。何にせよ、早く助けないとまずいのは確かよ」


「それなら、王国兵とか警察とかにこの事を話して助けてもらうのがいいんじゃないのか?」

 1週間ほどこの国で過ごして分かったが、この国は結構治安が良い。恐らく、警察や軍隊といったその類の組織があるんだろう。国民が盗賊に攫われたとなれば彼らは黙っていられないはず。だから彼らに相談する事を提案したのである。


「『けいさつ』は聞いた事無いけれど、王国軍はあるわ。でも駄目ね、恐らく相手にされないと思うわ」


「どうしてだ!? 人が攫われたっていうのに黙っているのか?」


「ソフィアを疑う訳じゃ無いけれど、今の話だけだと証拠が不十分だわ。証拠が無いと王国軍も動くことは出来ないの。酷な様だけれど王国の協力は見込めないわね」


「そんな……じゃあ助けることは出来ないって言うのか!?」

 それまで小声で話していたが、助けが見込めない状況に思わず声を荒らげてしまった。ソフィアがびっくりしてこちらを見ている。


「落ち着いて、ショウタ。手段はあるわ」


「あ、あるのか? 手段って具体的にどうするんだ?」


「簡単よ、私たちでお姉さんを救出するのよ」


「え!? 救出って俺たち2人で? 可能なのか?」


「ええ、可能よ。2人でなら相手に気付かれずに潜入出来るし、夜の闇に紛れることも出来るわ」


「そうは言っても盗賊がどこにいるか分からないんじゃないか?」


「そうね、まずは何処で攫われたのか聞いてみましょうか」


 まだ泣いたままのソフィアに近寄り、クレアが優しく声を掛ける。


「ソフィア、お姉さんが攫われちゃって悲しいのは分かるわ。でも心配しないで、私とこのお兄ちゃんで助け出して見せるわ」


「ほんと!? お姉ちゃんだいすき!」

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、満面の笑みでクレアに抱きついた。――お兄ちゃんも居るんだけどな……


「ソフィア、その為に悪い人たちのアジトを突き止めたいの。今朝、何処で攫われちゃったか覚えていたら教えて貰える?」


「うん……何処で攫われたかは覚えていないけれど、お姉ちゃんは『にしのもり』って言ってたよ」


「なるほど、西の森ね、そうなるとアイツらでほぼ間違いないわね」

 推理小説の名探偵よろしく、顎に手をやり考えるクレア。犯人の目星はついていそうだ。

「クレア、今のヒントだけで盗賊の居場所が分かるのか?」


「流石に場所までは分からないけれど、敵の正体は分かったわ。西の森の盗賊と言えば『モーベデロ』。彼らは人攫いで有名で、王国軍もかなり前から追っているのだけれど、彼らは神出鬼没で実体の掴めない幽霊のような集団と言われているわ」

 という事は、俺たちは日本で言う警察や自衛隊にあたるであろう王国軍も捕まえられない奴らを相手に2人で救出しようとしているのか……。はっきり言って無謀にも程があるが、クレアが出来ると言うのだからやるしかない。何より、必死に逃げて助けを求めてきたソフィアの覚悟を無駄にしたくない。


「正直言うと、めちゃくちゃ怖いけど俺も覚悟は出来たぜ。お姉さんを助けに行くとしよう。……でも敵の正体は分かってもアジトまでは分からないんだよな? どうやって探すんだ?」


「その点は心配無いわ。私にいい作戦があるの」

 任せなさい、と言わんばかりに笑みをこぼす。俺や周りの人に対しては優しく接してくれるクレアだが、悪人に対しては容赦無さそうな雰囲気だ。

「そうだ、ソフィア。お姉さんの名前は?」


「え? あ、えっとアリス、です…たぶん」


「え? 最後の方、なんて言ったんだ?」

 名前は聞き取れたのだが、最後の方は小声で呟いていたので聞こえなかった。


「まあ、良いじゃない。お姉さんの名前は『アリス』ね。必ず助けて来るから、ソフィアはここで待ってて?」


「うん、ソフィア良い子にしてる! クレアお姉ちゃん気をつけてね!」

 相変わらず、俺のことは眼中に無いんだな……。まあ、これから打ち解けていける事を祈るとするか。


「それじゃあ、行ってくるわね。セシリー? ちょっと用事が出来たからこの子を見ていて貰えない?」


「は〜い、分かったよ〜。ソフィアちゃん、一緒にお留守番しようね〜」

 そう言って、セシリアは世話役を受け入れた。何の用事かについては一切触れないあたりは流石、クレアの親友と言うだけあって察しが良い。


「それで、どうやってアジトを突き止めるんだ? 森って言うぐらいだから結構広いんじゃないか?」

 セシリアの店を出て、西門の前でクレアに投げかけた。森がどのくらい広いか分からないが、もし街一個分ぐらいの広さなら見つけるのは至難の業である。


「ふふ、任せなさい。私の作戦通りに動けば必ず見つけられるわ。ところで、ショウタ」


「ん?」


 クレアの表情は笑顔であったが、その目は笑っていなかった。


「草むしりは得意かしら?」

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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