7.仲間
目が覚めると眼前にはクレアの顔があった。ん? ということは……もしかしてこれが幻の膝枕というやつなのか!?
「幻の、なのかは分からないけれど、膝枕よ。目が覚めたのね、全く無茶するんだから」
どうやら心の声が無意識に漏れていたようだ。
「――っ!」
体を起こそうと手を地面に置いた瞬間、激痛が走る。負傷した左肩には包帯が何重にも巻き付けられている。それでもなお血が滲んでいる。予想以上に出血しているようだ。
「私の光魔法で応急処置はしたけれど、あまり得意では無いから完治はしてないわ。だからしばらくは安静にしていなさい」
そう言って半ば強引に膝枕の体勢にされる。俺としてはいつまでも膝枕させていては申し訳ない気持ちから体を起こそうとしたのだが、当の本人が安静にしろと言うから仕方ない。そう、仕方ないのである。
「そうだ、さっきの魔物は無事に倒せたのか?」
「ええ、不意打ちじゃなければ楽に倒せるわ」
やはりA級冒険者の肩書きは伊達では無いようだ。ということは俺の決死の行動も少しは役に立ったのかもしれない。
「それにしても、背後の敵に気づいていなかった私が悪かったけれど、ショウタが気づいたのなら一声かけてくれれば良かったのに」
「いやあ、間に合わないって思ったら体が勝手に動いたんだ。我ながら驚いたよ」
「たまたまあんたが持っていた薬のおかげで毒は抜けたけれど、それが無かったら死んでいたわよ」
クレアの手には先程商人から手渡された小さい袋があった。あれが毒の治療薬だったのだろう。こうなる事を見越して俺に渡したのか? あの商人は結構頭が切れるらしい。
「今度から絶対に無理はしないこと。戦闘も冒険者としても初心者なのだから、私が良いって言うまで戦ってはダメ。分かった?」
「……と言う事は、これからも一緒にクエストに行ってくれるという事なのか?」
「か、勘違いしないでよね。勝手に死なれたら困るから仕方なく付き添ってあげるってだけよ! 本当にそれだけなんだから」
「そ、そうか、死なないように頑張るよ」
クレアのツンデレが発動し、少し間が空いてクレアが思い詰めたような表情で話し始めた。
「あたしね、これまでパーティーを組んだことが無いの。もちろん初めの頃は仲間を探して片っ端から声を掛けたわ。でも、初心者だからってどこのパーティーも入れてくれなくて。悔しくてひたすらクエストをこなしてたらいつの間にかAランクになってた。そうしたら今度は実力の差がありすぎるって言われて、素材や報酬を横取りされるみたいなあられもない噂を流されて誰も寄り付かなくなったわ」
初心者の時には実力不足と拒んだのに、実力が上がった途端に妬みの対象として扱う。思っていたよりも他の冒険者は性格が悪いらしい。
「だから、ショウタが初めての仲間なの。改めて、不束者ですがこれからよろしくお願いします」
「……ああ、よろしく。絶対に死なないよ、約束する」
西日が伸びて俺とクレアの顔を眩しく照らす。思ったよりも時間が経っていたようだ。この幸福な時を遮ってしまうのは名残惜しいがそうも言っていられない。残してきた商人が心底心配している事だろう。まだ痛む肩を庇いながら無理矢理体を起こす。
「ちょっと、まだ動いちゃ……」
「大丈夫、商人さんが心配しているだろうし、早く戻ろう」
「もう、仕方ないわね」
不満そうなクレアを連れて商人の元へ向かう。待機してもらっていた場所の道中でばったり出会った。どうやら心配になってこちらへ向かっていたようだ。
「ああ、ショウタ様、生きていてくださって本当に良かったです。貴女もご無事でしたか!」
「ええ、おかげさまで。商人さんも馬車も無事で本当に良かったわ」
クレアはそう言って馬車の方に目を移す。多少の傷はあるものの、馬車としてきちんと機能するだろう。商売道具の馬車を失わずに済んだし、怪我もない。俺は大したことはしていないが、クレアのおかげで守ることは出来た。
「はい、本当になんとお礼を申し上げて良いか……! 申し遅れました、私、商人をやっております、ルサンと申します。以後お見知り置きを」
「よろしくね、改めて私はクレア。冒険者をやっているわ。こちらはパーティーメンバーのショウタ」
「よろしく。お守り、本当に助かったよ。あれが無ければ俺は今頃死んでいたかもしれない。でも、大事な物だったんだろう? 俺なんかに渡してしまって本当に良かったのか?」
たられば論になるが、あの時にお守りを持たされていなかったら俺は今頃あの世にゴーしていた。ルサンは命の恩人なのである。
「いえ、我が家に伝わると言っても家宝と言えるほどのものではございません。状態異常を治す薬である事は知っていましたし、あの化け物と戦うには必要と判断したのでお渡ししただけです。それと、あれぐらいの薬ならば取引でしばしば見かけるのでまた入手することも容易です」
「そ、そうなのか。それなら良かった、のか? 何にせよ、本当にありがとう」
「私からもお礼を言わせて貰うわ。大事な仲間を助けてくれてどうもありがとう」
「いえ、こちらこそお礼を言っても言い足りません。そうだ、御二方はランスの冒険者ですよね? よろしければ私の馬車で町までお送り致します。ショウタ様はお怪我をされているようですし、どうでしょう?」
「ええ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
「実の所、もうクタクタだったから本当に助かるよ」
「では、少し狭いですがお乗り下さい」
商人に促され馬車の荷台に乗る。荷台には商売用の道具が多く積まれており、確かに狭かったが、人2人分座るには十分なスペースだった。
馬車に乗るのはもちろん初めてだが、乗り心地ははっきり言って良くは無かった。森は冒険者が出入りして出来た道を使うので凸凹で、整備されているとは言えない。そして、荷台は地面との距離が近く、揺れが直接響く感じだ。
「これじゃあどんなに疲れていても寝れないな……」
などと呟いていると、俺の右肩に重みを感じる。そーっとそちらへ目を向けると、スースーと小さな寝息を立てて眠っている金髪美少女がいた。よほど疲れていたのだろう、馬車に乗ってから僅か数分の出来事である。彼女はA級冒険者であり、いくら疲れているとはいえ、本当に信頼した相手の前でしか寝るという無防備な行動は取らないだろう。自惚れかもしれないが、それだけ俺の事をかなり信頼してくれているという事だろう。少々気恥しいがとても嬉しい。
「お疲れ様、これからもよろしくな」
クレアには聞こえないぐらいの声で呟いた。馬車での移動も悪くないな。
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