5.嚙み締めた唇
薬草は西の森に生えていると依頼書に書いてあった。この街に入った時は南の森から来たが西はあそこほど危険な魔物はいないらしい。とはいえ、魔物が完全にいないということでは無いので注意しなくてはいけない。
「さてと、採取場所まで少し距離があるからそこに着くまで魔法について簡単に教えておくわね。まずは……そうね、言葉で説明するより実際にやってみせた方がいいわね」
そう言いながら、クレアはレイピアに炎を纏わせた。あの巨大熊を倒した時の魔法だ。
「魔法にはいくつか種類があって、これは自分の武器に属性魔法を付与するエンチャントという種類の魔法ね。他には呪文を詠唱して魔法を放つ攻撃魔法と防御魔法、回復魔法などがあるわ。後、稀に精霊を使役して魔法を使う精霊魔法なんてものもあるって聞いたことがあるわ。私は一度も見たことは無いのだけれど」
「なるほど、一概に魔法と言っても色々な種類があるんだな。俺も使えるようになるかな?」
「適性は全属性あるのだから、努力すればエンチャントは使えるようになると思うわ」
「そうか、魔法の使い方とかあるのか?」
「炎エンチャントは、自分の手から炎が出てそれを武器に纏わせるのをイメージしながら強く念じるの」
「なかなか難しそうだな、とにかくやってみるか」
クレアは苦笑しながら、
「まあ、最初は結構苦戦するものよ。私は出来るようになるまで3か月も……」
「お、炎出たぞ。これは出来ているのか?」
そう言いながら炎を纏わせた短剣を見せる。
「え!? そんな……いきなり出来るなんて本当にあんた一体何者なの?」
「俺って昔からなんでもすぐに出来たんだよな。でも、クレアの炎より火力が低そうに見えるのは気のせいか?」
「それはね、魔力レベルが違うからよ。私は火属性の適性がレベル9でショウタは5よね?火力が違うのはそのせいよ」
「9って相当高いんじゃないか?10で宮廷魔術師に匹敵するって言ってたよな?」
「まあ、そうね。一応人より少しは炎適性があると思うわ。でも、適性がレベル5もあれば十分よ」
「そんなに魔法が得意なら冒険者じゃなくて宮廷魔術師になるという道もあったんじゃないか? よく知らないが、宮廷で働くってことは安定した職業なんだろう?」
そう言うと、クレアは少し表情を曇らせ、
「そうね、その道もあったでしょうけど私は冒険者を選んだの。だから、ショウタにも会えた。それで良いでしょ?」
これは言っちゃいけない話だったのだろうか。二人の間に重い雰囲気が流れる。
「さてと、この話はもうおしまい! もうすぐ採取場所に着くわ。ギルドを出てから大分時間も経っているし、早く終わらせましょう」
「そ、そうだな、行こう」
採取場所は小さな池のすぐ側だった。水辺と言うとあの熊の事を思い出してしまうが、クレアによるとこの辺には生息していないらしいので少し安心。
薬草は依頼書に細かく特徴が書いてあったので迷うことなく採取することが出来た。
「よし、これで依頼された量は採取したわね。思っていた以上に簡単だったでしょ?」
「ああ、これぐらいなら俺1人でも出来そうだな」
「ショウタは方向音痴っぽいし、私がいないと迷っちゃうんじゃない?」
クレアが笑いながらそう言った瞬間、
「ぎゃああああああああ! 助けてくれえええ!!」
遠くの方から男性の野太い声が聞こえた。この叫び方は間違いなく緊急事態だろう。
「ショウタ、今の聞こえた? 早く行きましょう!」
「ああ! 急ごう!」
声が聞こえた方角に向かうと、馬車を必死に走らせている商人らしき格好をした男がいた。男は俺達に気づくと、
「おお! 貴女方は冒険者とお見受けします! どうか、どうか助けてください! 後ろに魔物が!」
馬車を止め、鬼気迫った表情で助けを求めてきた。男が乗る馬車の後ろには大きな影——見たこともない大きさの蜂が迫ってきていた。3~4mはあるだろうか。周囲の木を揺らす程の風圧を放つ巨大な羽からは、耳を塞ぎたくなる程の羽音が響いている。胴体は黒と黄色の縞模様。最大の特徴である鋭い針からは毒液がジューと音を立てながら垂れ流れている。
俺は余りの大きさと威圧感に呆然としていた。
「な、なんでこんな所にA級モンスターが……」
クレアも俺と同様に驚きを隠せなかったようだ。しかし、直ぐに冷静さを取り戻し、
「ショウタ、商人さんと安全な所まで逃げて! 出来るだけ遠くよ! 早く!」
俺の方に的確な指示を出してきた。昔に少しだけしていた剣道とさっき出来るようになったばかりの魔法でこいつには到底かなわないことは、戦闘素人の俺でも分かる。そして、戦えない俺と商人は確実に逃げる事だけを考えた方が最善の策だろう。分かっている。でも、それでもクレアを残して行きたくない。
俺の方に的確な指示を出してきた。昔に少しだけしていた剣道とさっき出来るようになったばかりの魔法でこいつには到底かなわないことは、戦闘素人の俺でも分かる。そして、戦えない俺と商人は確実に逃げる事だけを考えた方が最善の策だろう。分かっている。でも、それでもクレアを残して行きたくない。
「ク、クレア……俺もたたか……」
「何やってんの! 早く逃げなさい!」
クレアがこれまで聞いたことない大きな声で叫ぶ。その表情から余裕は感じられない。
「——っ!」
クレアの叫びに半ば強引に体を動かす。馬車に乗り込みパニックになっている商人に馬車を出すよう促す。商人はハッとなって馬に鞭を入れる。
走り出した馬車の荷台からクレアの方へ目を移す。華奢な彼女の背中が遠ざかっていく。まさに今、巨大蜂と対峙しようとしている。
「……頼むから生きていてくれよ」
祈ることしかできない自分の無力さに唇を強く噛み締めた。
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