勇者の強さは発想力?
唇になにか柔らかいものがあり俺は目を覚ました。
「今、何かした?」
「へ? な、なにもしてないわよ!」
ゴブリン
ゴブリン
ゴブリン
ゴブリン
ゴブリン
ゴブリン
ゴブリンウォリアー
ゴブリンレンジャー
ゴブリンレンジャー
ゴブリンレンジャー
「は? なんだこれ」
俺の目に大量のゴブリンお名前が表示される。
俺たちはいつの間にかゴブリンの群れに囲まれていた。
「マイラ起きろ敵だ!」
俺の叫びと呼応するように”ヒュンヒュン”と言う音と共に弓矢が地面に突き刺さる。俺はとっさにミスティアをかばうように覆い被さる。
俺の背中に弓矢が刺さる感触が伝わる。
マイラはテントを掴むとすごい早さで振り回し弓矢を防いでいる。そのまま俺の方まで来ると俺たちに降りかかる弓矢を防いでくれた。
「がー君大丈夫?」
「問題ない、許容範囲だ」
「ガリウス背中に弓が!」
ミスティアが俺の背中を見て慌てるがどうやら革鎧が弓矢を防いでいるらしく俺にダメージはない。
俺たちは剣を構え敵の襲来を待った。
弓矢の雨が終わると、叫び声をあげゴブリン達が俺たちに襲いかかるマイラはテントをそのままゴブリンたちにぶつけるように振り回すと一瞬ゴブリン達は仰け反る。
俺とミスティアはその一瞬を見逃さず仰け反ったゴブリンに剣を突き刺した。
マイラもテントを投げ捨てるとその方向にいたゴブリンを二体仕留めた。
さすが俺のステータス5倍だ。
「マイラ! ゴブリンの残りの数分かるか?」
「見えるだけで20体以上いるわ」
俺たちの動向など気にすることもなく次々に草むらからゴブリンが現れ俺たちに襲い来る。圧倒的物量の前に俺たちは押されひとかたまりに集まる。
「二人とも目眩ましを使う俺の方見るなよ」
「OK」
「わかったわ」
俺は手をあげMP2を使い目眩ましを使った。その光はゴブリンたちから視覚を奪うには十分すぎるほどの光量で目の見えなくなったゴブリン達はやみくもに武器を振るいだす。
「ナイスがー君」
目が見えなくなったゴブリンを俺たちは武器が当たらないように避け剣を刺して殺した。
前衛が殲滅されるとゴブリン達はすぐさま撤退を始めた。
見えなかったが、どうやらリーダークラスのゴブリンもいたようだ。
リーダークラスがいるのといないのとではゴブリンの強さや統率力が違う。また率いるリーダーにも強さのクラスがあり今回のはそれほど高いクラスじゃなかったようだ。
「この経験値ども! 逃がすわけ無いでしょ!」
マイラはそういうと逃げるゴブリンたちに魔法を放った。
「エアーエッジ! エアーエッジ! エアーエッジ!」
マイラの伸ばした手のひらからは次々と緑色の刃が形成され逃げるゴブリン達を襲った。
俺の目にもどんどんゴブリンの数が減っていくのがわかった。
だが、すでに魔法の範囲外まで逃げてしまったものたちもいる。しかしマイラはあせること無く俺たちの周りに落ちた弓矢を拾うと弓矢を二本の指でつまみ、矢じりに人差し指を向ける。
「石つぶて」
マイラの指先から石つぶてが出た瞬間、マイラは弓矢を放す。その弓矢はヒュンと言う音をたて、闇に消えていった。
トスッと言う音と共に一体のゴブリンの表示が消えた。
魔法範囲外の届かないゴブリンをこんな魔法の使い方で倒すなんて。マイラの強さはステータスじゃなく、その発想力なんだな。
ほどなくすべてのゴブリンの表示が消えた。殲滅だ。
あれほど危機的状況だったのになんとかなった。
「やったね、今のでレベルが5も上がったよ!」
マイラはレベルが上がったことにハシャグが俺はすでにヘトヘトだ。しかし、これで俺たちは全員レベル24だ。
「ごめんなさい、私が斥候ゴブリンを見逃してしまったばかりに」
「バカね、どうせがー君に見とれてたんでしょ? そんなの折り込み済みだから気にしなくて良いわよ。次は気をつけていきましょ?」
「うん、本当にごめんなさい」
ミスティアは素直に謝るとテントや装備品をまとめだした。
「ミスティアなにしってるんだ?」
「移動しないと、これだけ血の臭いがプンプンすると野獣も来るでしょうし、ここにいるのは危険だわ」
「ん? それなら好都合よ。ここで獣や魔物が来るの待ちましょ?」
「だめよ危険よ!」
「うーん、じゃあこれでどうでしょ?」
そういうとマイラは一本の大木の前に立つと剣を構えた。
「”魔法剣 風刃剣”」
マイラの構えた剣から緑色の刃が飛び出し一瞬で大木を斬り倒した。
「ね?」
「でも……」
「それにさっきの魔法で遠くにいるときから狩るから大丈夫よ」
「要するにマイラは早くレベルアップがしたいんだろ?」
「さすががー君、分かってる」
「危険は本当にないのか?」
「がー君への愛に誓って」
「いや、不安になってきたな」
「どういう意味ですか!」
そう言うとマイラは俺に肘鉄を食らわす。
「だけど……」
ミスティアは長い間、冒険者としてやってきてこの状態が危険なのを本能的に分かっているのだろう。しかしマイラは勇者だ既成の枠には囚われない。
先程もマイラの発想力で助かったんだ。ならここはマイラを信じてみるのも悪くない。
「心配なら俺が抱き締めて寝てあげるから」
俺はそう言うとミスティアを抱き締め横になる。
「ふにゃぁ~」
「ちょっと、がー君なんですかそのご褒美!」
「いや、ミスティアが心配しないようにね。これならここにいても怖くないだろ?」
「うん、こわくにゃい」
ミスティアはそう言うと俺の胸に顔をうずめ寝息をたてた。
「ちょ、ミスティア明らかにその寝息わざとらしいですよ!」
「……ミスティアは……寝てしまったのです……むにゃむにゃ……」
「だそうです」
「ぐぬぬ!」
マイラは悔しそうに弓矢を握ると魔法を発動した。
遠くで”ギャン”と言う声が響き。パサークドッグの表示が消えた。あの距離を当てるのか。
「八つ当たりです。こうなったらここら辺の魔物狩りつくしてやりますよ!!」
マイラはそういうと木々を倒し杭を作り投げ始めた。
勇者やべぇな……。