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膝枕は心のオアシスである。

「どうしたんだいマイラ、そんな睨むような目をして」


 俺は黙って空を睨むマイラに尋ねた。


「う、うん。なんでもないよ」

「何かあるなら話してくれれば――」

「なんでもない。なんでもないから。ほら、それより火が弱くなってきたよ薪くべないと」


 そうは言われても両手が塞がっているので無理なのですが。もちろんマイラは俺が今両腕が使えないのを知ってて言ってるのでわざとらしく「がー君はしかたないですねと言い」自分の脇にある薪を右手でつかむと投げ捨てるように焚き火にくべた。投げられた薪は焚き火を崩し、火の粉が空へと舞い上がる。


 それ以後マイラは空を見上げることはなかった。


「それで夜番の順序はどうする?」


 その俺の問いにミスティアが案を出す。まずはマイラとミスティアが寝て。俺が夜番をし5時間ほどしたらミスティアを起こし俺が外で仮眠をしながら二人で夜番。更に二時間後マイラを起こしミスティアが仮眠しながら二人で夜番をするという案だ。


 こうすれば俺が誰とも一緒に寝なくていいからという配慮だという。


「私はがー君と寝てもいいですよ」と言うマイラに「ダメに決まってるでしょ!」とミスティアが一蹴するあたり、だいぶ打ち解けてきたようだ。


 まあこの順序にしたのは俺とマイラは鑑定眼が使えるので夜襲されてもすぐ気がつきやすいからだ。ミスティアの視覚強化はまだ暗視を手にいれていないので単独の夜番には不向きだ。とはいえミスティアは元々夜目が効くのでそれほど不向きと言うわけではないのだが、やはり鑑定眼には数歩劣る。


「じゃあガリウス、あの星があの位置に来たら私を起こしてね」


 そう言うとミスティアとマイラはテントに入り仮眠を取り出した。今日のこともあり少し警戒したのだがマイラがミスティアを襲うこと無く、すぐに眠りについた。


 皆が寝ている間に俺は自分の神の祝福(プライム)を確認する。なにせ神の祝福(プライム)の告知は不親切だ。情報を曖昧に伝える。


 植物図鑑(オアシス)は”あらゆる植物の知識が手に入る”と言う説明だが俺の目にはその植物の情報が写し出されるので微妙に説明が違う。ただ鑑定眼と結び付いている可能性もあるので、一概に違うとも言いきれないのだが。


 当然そのまま辞書としても使え、頭の中で本をめくるように色々な植物を見ることができる。食べられる野草はもとより毒草や薬草、はては食虫植物や奇怪植物まで多種多様の植物の記録が記憶されていた。


「1万以上は軽くあるな、これなら眠くならずにすみそうだ」


 しかし、本当に俺のステータスは低い。力を捨てたことは全く後悔してないが、これでミスティアやマイラを守れるだろうか。いやマイラに関してはすでに俺の5倍を越えるステータスだから助けるような事態にはならないだろうけど。


 とりあえず俺は回復したMPを1使い身体操作を行った。ステータスは最初の1.5倍になった。ステータスが戻ったのを確認してMP2を使い身体操作を行った。今度はステータスが最初の2倍になった。


 つまりMP1で基本ステータスの50%が増幅されるのか。


 この魔力による身体操作をミスティアにも教えたいが魔力がないと使えない。ミスティアはMP0だから教えても意味がないのだ。そしてマイラにも教えられない。この魔力による身体操作は魔法回路を焼き切ってしまう。せっかく三つの魔法回路があるのに、これを教えて魔法が使えなくさせてしまうのは論外だ。


 夜番中に何体かの魔物や獣が現れたが魔力操作の目眩ましを食らわせたら逃げ出したので殺さずにやり過ごした。


 ミスティアが言うには下手に殺すと血の臭いで逆に魔物や獣が集まるからできるだけ追い払うだけがいいそうだ。


 ただゴブリンは別だゴブリンだったらすぐに殺せと注意された。最初に現れるのは斥候ゴブリンでこちらの戦力を見に来てる可能性があるからだと言う。


 こういうのを聞くとミスティアはかなり苦労したんだと思う。命の危険だって何度もあったろう。それをランスロットが助けたのだから彼は確かに英雄だし俺にとっても恩人だ。


 正直もしまたランスロットが来たとしても俺は彼を殺さないだろう。たぶんだがミスティアがランスロットを殺すのを良しとしない。ミスティアは相手がどんなに悪人でも自分が騙されたと知っても恩は忘れない。だから許してくれと言うだろう。そして俺はミスティアがそう言うなら許すしかない。


 その行為が自分を苦しめるとわかっていてもミスティアはランスロットを助ける。それがミスティアらしいと言えばらしいのだが。正直妬ける。


 そうこうしているうちに星がミスティアの示した位置に着く。俺はミスティアを起こすためにテントへ向かったがテントの前で立ち止まると気恥ずかしさが前に出る。人を起こすと言う動作自体したことがない。それが女性となると、とんでもなく恥ずかしい。しかもテント内には女性が二人寝ている。そのテントを開けて中に侵入するのはなにか悪いことをしている気にもなる。とは言えいつまでも恥ずかしがっていたら交代できないので意を決してテントを開けた。


 マイラを起こさないようにミスティアを揺り動かす。ミスティアはゆっくりと目を開けると俺の顔をまじまじと見て首をかしげる。


「時間だよミスティア」


 その言葉で自分の置かれた状況を理解して「ありがとう」と言って起き上がる。俺は先にテントから出ると焚き火に薪を追加した。


 ミスティアがテントから出てくると俺の隣に座る。なぜだかドキドキする。


「ドキドキするね」


 最初、俺のことを見透かされたと思ったがどうやらミスティアもこの状況にドキドキしているらしい。


「離れてた時間が長かったからね」

「そうだね」

「助けてくれてありがとうね」

「俺の方こそあんな状況になってるなんて気がつかなくてごめん。マイラがいなかったら助けられなかったよ」

「うん、それでもガリウスは私を救うためにすべてを無くしたから」

「すべてをなくしてないよ?」

「え?」

「だってミスティアがいるだろ。俺は力よりもミスティアが良い」


 俺がそう言うとミスティアはうつむく。暗くて分かりにくいがこれはミスティアが照れている動作だ。こういうのは何年たっても変わらないんだな。


「ガリウスいつからそんなジゴロみたいなこと言うようになったの」


 ミスティアは俺を見ずに焚き火を木の枝でいじりならがもじもじとする。


「会えない時間がそうさせたんだよ。ずっと寂しかったから」

「ガリウスを残して村を出てごめんね」

「いや、俺の真名命名(ネーミング)のせいだから。俺がバカだったんだよ」

「違うよ、私がバカだったんだよ」

「いや俺が――」

「私が――」


「うるさいですよバカップル!!」


「「はい!」」


 どうやら声が大きすぎたようでマイラを起こしてしまったようだ。


「反省だね」

「だな」


 俺がそう言うとミスティアは俺の頭を優しく引っ張ると頭を太ももの上へと導いた。


「膝枕した方が寝やすいでしょ?」


 ミスティアの指が俺の髪をなでる。心が安らいでいくのを感じる。心の穴が塞がっていく。


「絶対ミスティアを守るから」


 俺はそう呟き眠りに落ちた。




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