宇宙花火の光は破滅への序曲
レベルが10を越えた辺りで俺たちは夜営のためのテントを張り、食事の為の獣を狩った。しかし狩りがこんなにも大変だとは思っても見なかった。
今まで真名命名に頼っていたツケだろう、俺は一匹も獣を捕まえることができなかった。
結局、獣を捕まえたのはマイラだけで、なにも捕まえられない俺は植物図鑑で食べられる野草を摘んでごまかした。
ミスティアは俺とは違い川で魚を人数分取っていた。魚取りは得意なのだと言う。俺の知らないミスティアが知れて少し嬉しい気持ちになった。
「がー君の取ってきてくれた香草のおかげで肉の臭みが消えて美味しく食べれます」
「私の川魚も香草のおかげで美味しいよ」
「……次は頑張ります」
まあ、実際香草のおかげで美味しいけど。香草じゃ腹はふくれないしな。
「がー君、そんな自分を卑下しないの。がー君が弱いのはがー君が正しい選択をしたからなんだから」
そう言うとマイラは俺を抱き締めた。年下に慰められるのは少し情けない気もするが、なぜかそれが心地よかった。もちろん顔をあげた俺の前には頬を膨らませたミスティアがいたのは言うまでもないが。
「ええと、ミスティアさん?」
ミスティアは俺の左腕に抱きつきそっぽを向くと何を聞いても無視をしだした。
「じゃあ右は私がもらいますね?」
両腕を塞がれた俺は食事ができずに困っているとマイラが骨付き肉を俺の口へと運ぶ、それを見ていたミスティアが今度は俺の口許に魚を運ぶ。
まるで雛鳥だな……。
ちなみにお腹いっぱになっても二人が俺に食べさせ続けるので俺のお腹はパンク寸前だ。
……たぶんこれは罰だろう。
「そう言えば、マイラが取ってきた猪肉少なくない? 臓物もないようだし」
普通、臓物などは夜営地から離れた場所に穴を堀り埋める。だがいつの間にか臓物や食べられる部位までなくなっていたのである。
「それでしたら私のアイテムボックスにしまいましたよ」
そう言うとマイラは空間から肉片を取り出した。
「……なにそれ」
「勇者特典です良いでしょ」
マイラはどや顔をしてその力を自慢した。要するにアイテムバックがバック無しで使えるのか。確かにそれは羨ましい。
「勇者って言うのはとことん規格外だね」
「そうね、私が偽勇者って言われてたのもわかる気がするわ」
マイラのステータスはすでに俺を遥かに上回っている。称号に勇者という表記はないが、その力は勇者そのものである。俺は自分のステータスとマイラのステータスを見比べてため息をついた。
「がー君どうしたんですかため息なんかついて」
「いや、俺のステータス低すぎだと思ってね」
「MPが10のままですね。称号が村人だからでしょうか?」
「マイラ魔力量見れるの? 私の魔力量はいくつ?」
「0です。ミスティアは劣化亜人ですからそもそも魔法は使えませんしね」
「……亜人なのもわかるの?」
「はい、丸見えです」
どうやらマイラの鑑定眼は俺のより優秀で俺に見えないものも見えるらしい。
「気持ち悪くない?」
「は? なんでですか?」
「獣人は人の肉を食べるって噂聞いたこと無い?」
「ミスティアは人肉を食べるんですか?」
「……食べないわよ」
「じゃあ、関係ないですね。友達をそんな噂で気味悪がる訳ないじゃないですか」
その言葉を聞きミスティアは安堵の表情を浮かべる。
「ただひとつ残念なことがありますけどね」
「残念?」
「はい、ケモミミがないことです。ミスティアにケモミミがあれば完璧な美少女だと思うのですよ私は」
俺はマイラのその言葉に素直にうなずいた。ミスティアにケモミミは多分この世で最高のものだろう。
「そうだ、そのうち私がつけ耳作りますよ」
「いらないわよ獣人の耳なんか!」
ミスティアは亜人の獣人の血を嫌っている。嫌っているというより恐れているのだ自分が狂ってしまうかもしれないことを。
「マイラ、確かにつけ耳は可愛いかもしれないが遠慮してくれ」
俺の言葉になにかを察したマイラはミスティアに謝りこの話はそれで終わりになった。
「やっぱり私は魔法は使えないのね」
ミスティアが残念そうに呟き俺を見る。
「まあ、魔法は俺も使えないし気にすること無いよ」
とは言え魔法って憧れるよな。使えるなら使いたいものだ。
しかし、レベルが上がった今の俺がMP10止まりなのはおかしい。以前は1万あったのだからもっと上がってもいいはずなのだが。
「まあ、無いものに思いを馳せても仕方ありませんよ。切り替えていきましょう。ミスティアは遠視もできるようになっていますしそちらを伸ばしましょう」
「そうだよ、ミスティアは戦闘系神の祝福なんだから十分いい方だろ。俺なんか植物図鑑だぞ、食べれる草か毒草わかる程度だからな」
俺がそう言うとマイラとミスティアは声をあげて笑った。
「ちょ、二人とも笑いすぎ俺のハートが壊れそう」
「大丈夫ですよがー君は私が守りますから」
「マイラだけにやらせないわよ。私がガリウスを守るんだから」
「おいおい、待てよ俺が二人を守るんだぜ?」
「「はいはい、戦闘系神の祝福を手に入れてから言ってね」」
くっハモりやがった。まあ、力なき正義は無力だという格言もあるし。確かにそうかもしれないな。でも力がないからって俺は絶対に逃げ出さないけどな。
それを言うとまた笑われそうな気がしたので俺は黙って心にそれを刻み込んだ。
一瞬空が明るくなる。俺たちは天を見上げその発光現象を見る。
「今日の宇宙花火は一段と綺麗だな」
「そうだね。すごく幻想的」
空にはまるで毛細血管のような光がいくつも輝く。俺たちはそれを宇宙花火と呼ぶ。俺とミスティアがその光景を美しい花を見るように眺めていたが、ふとマイラを見るとまるで魔物を見るような目で、その宇宙花火を見つめていた。
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