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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
七章 北の魔術塔と南の魔術塔
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83話 生存者

久しぶりの魔道銃。

 篤紫の撃ち放った弾丸は、上空彼方の天井付近まで飛んでいくと、一閃。一気に厚い雨雲に変わった。

 それは瞬く間に町全体の天井に広がっていき、雨となって激しく降り注いだ。


 先に外に出ていたみんなが、呆然と立ちすくんでいた。誰もが予想していなかった状態らしい。

 降り突ける雨は、燃える町並みに一気に降り注ぎ、立ちこめる水蒸気とともに、燃えさかる火を急速に鎮火させていった。

 辺りが暗闇に沈んだ。あちこちで、光の玉が浮かんだ。


『す、すごいです』

 近くで消火をしていたドライアドが、オルフェナを抱えて駆け寄ってきた。すでに全身ずぶ濡れになっている。

 周りに散らばっていたみんなも、光の玉を携えて篤紫の側に集まってきた。


「この雨は、アツシさんが……?」

 降り突ける雨で、全身を氷まみれにしたユリネも帰ってきた。

 先陣を切って、一番遠くまで行っていたのだろう。気の抜けたような顔に、何だか申し訳ない気持ちになった。


「ああ、この魔道銃に冷たい雨のイメージを乗せて、天井付近で炸裂させたんだ。ちょうど鍾乳石がつららになっていたから、その先端だけ破壊するように打ち込んだだけなんだけどな」

「えっ、あの距離を?」

「あ、それはこの眼鏡の効果だよ」

 篤紫の顔には、今まで無かった眼鏡がかけられていた。眼鏡があるだけで、かなり顔のイメージが変わる。


「相変わらずアツシさんって、色々なもの作るのね」

 眼鏡には一切触れず、ただただ呆れられてしまった。

 しばらくすると、魔力が切れたのか雨が止んだ。




 火災も鎮火したため、手分けして生存者を探すことになった。

 念のため、子どもと大人をペアにして、制限時間を二時間に設定してから、一旦解散した。


 篤紫は夏梛と一緒に、南の方角に向かった。

「おとうさん……外で飛び回っていた光が、ここまで届いたってこと……かな?」

 光の玉に照らし出されたのは、地面に穿たれた沢山のクレーターだった。家は大半が壊滅状態で、まともに建っている家を探す方が難しかった。

 そのまともだった家でさえ、全てが焼け落ちて、真っ黒な消し炭になっていた。そこに、命の灯火を見つけることすらできない。


 そこには魔道エレベーターホールで見た、プチデーモン達の巻角さえも残っていなかった。メルフェレアーナが、この町にはプチデーモンしか住んでいないと言っていた。

 町の規模からしても、五百人近くのプチデーモンがいたはず。それが、全く痕跡が掴めない。


 そしてなにも見つからないまま、二時間が経過した。

 散開した位置、魔術塔の下に集合するも、全員の顔色はよくなかった。


「あと探していないのは、この魔術塔のコアルームだけかな。

 魔道エレベーターも動いていないから、また階段を下りていかないとだけど……」

 落胆しているメルフェレアーナに付いて、魔道塔の正面入り口から中に入った。


 さすがに魔道塔の中までは火災の被害は無かった。ただ、床にいくつもの血の跡が残っていた。

 血の跡は入り口から入って、魔道エレベーター扉脇の扉の前まで続いている。


 メルフェレアーナが飛ぶように駆けていって、ドアノブを一生懸命に動かし始めた。

「くっ……あかないっ……!」

 篤紫たちも遅れて駆け寄ると、メルフェレアーナが歯を食いしばって、目尻に涙をためていた。口の端から、血が一筋流れる。


 しばらく粘っていたものの、メルフェレアーナは、急にその場で糸が切れたように崩れ落ちた。慌てて桃華とシズカが駆け寄って扉から離した。

 無理をし続けたからか、メルフェレアーナは眠るように気絶していた。


「篤紫さん……」

「ああ、分かっている」

 篤紫は腰元から虹色魔道ペンを取り出した。相手は機能を停止しているとは言え、ダンジョンの一部だ。使えるのは、これしか無い。


 扉の前に立ち、扉に直接魔術を描き込む。

 ここはもう、シンプルに目の前の扉の消滅だけ。


Make this door disappear.


 ピリオドを打つと、淡く輝きながら、扉が消えて無くなった。

 階段の先は真っ暗だった。明かりの魔法を飛ばすと、魔術塔の中心に向けて緩やかに曲がっているのがわかった。流れ落ちた血の跡も、階段に沿って下まで続いているようだ。


「タカヒロさん、メルフェレアーナをお願いしてもいいかな」

「連れて行くのですか?」

 メルフェレアーナは未だ、桃華とシズカの手で床に敷いた布団……何で布団があるの? に、寝かされていた。

 篤紫は目を見開きつつ、タカヒロに頷き返した。


「どのみち、全員下に下りなきゃ駄目だからさ。

 日没からけっこう時間が経っている。このままここに残っても、太陽が昇ってくれば、決して安全とはいえない。

 それに、タナカさんたちと、ナナ、ドライアドは、一つしか命が無い」

 それが大前提の、現実だった。

 メタヒューマンである、メルフェレアーナと白崎家の三人は、何度でも蘇ることができる。死ぬ気は毛頭無いけれど。


「わかりました。レアーナさんを背負って、殿を下りていきます」

「お願いする。早く何とかしてあげたい」

 全員の顔を見回して、篤紫は階段を下っていった。




 階段の終点は広い空間が広がっていた。

 部屋に入る前に、篤紫は光の玉を複数創り出して、部屋の中に飛ばした。


 広い部屋だ。

 足下にある血の跡は、そのまま部屋の真ん中に向かっていた。その十メートル四方の部屋の真ん中に、何人もの人の姿を捉えた。

 じっと、目をこらしてみてみる。


「生きてるっ! みんな、急いで――」

 篤紫は駆けだした。

 同時に、部屋全体が明るくなるように、さらに沢山の光の玉を飛ばした。



 そばまで駆け寄ると、少年少女が全員円形になって、真ん中にある星形の石に両手をかざしていた。

 篤紫は慌てて近くの少年を抱え上げようとして、思わず手を止めた。


 星の形の石――もしかして、これがメルフェレアーナの言っていた星の石か?

 少年少女も、見れば頭部に立派な巻角が生えている。この子達が、メルフェレアーナが言っていた、プチデーモンに間違いない。よく見ると全員、体に少なくない傷を負っていた。

 意識が朦朧としているのか、薄目を開けたまま、浅い呼吸をしている。

 そんな状態でも必死に、星の石に魔力を注いで――魔力?


「夏梛、急いで星の石に手分けして魔力を注いで。

 桃華、それからシズカさんは、夏梛達が魔力を注ぎ始めたら、この子達を助けてほしい」

 慌ただしく、動き始めた。


 幼少組がプチデーモン達の隙間をぬって、星の石に手を付けて魔力を流し始める。桃華とシズカがプチデーモンを運び始めると、開いたところにタカヒロとユリネ、オルフェナが入ってさらに魔力を流し始めた。

 布団に寝かせたプチデーモンには、桃華が真っ赤なポーションを飲ませ始めた。


 篤紫は、沢山の魔石とルルガに分けてもらった魔鉄を取りだした。

 今はとりあえず、星の石が魔力を取り込んでくれるように、アンテナを作らないといけない。

 イメージは塔。底を広げて安定させ、高く伸ばした塔の本体に沢山の魔石を埋め込んでいく。魔石を埋め込みながら、ダンジョンコア魔道ペンで、魔力受信のための魔術を同時に書き込んでいく。


 最後に、ミスリルのペンで硬化処理を施すと、娘達の間を縫って、慎重に星の石の真ん中に運び入れて、作ったばかりの受信塔を乗せた。

 最後に、塔の頂上に起動を促す魔力を流す。


 塔に填められた魔石が輝き始めた。


「みんな、ありがとう。もう大丈夫だ」

 大きく息を吐きながら、星の石に魔力を込めていたみんなを労った。


 夏梛とナナ、カレラが、ぺたんと座り込んだ。ドライアドはオルフェナを抱え上げた。よほど緊張していたのか、魔法少女三人は、立ち上がって少し離れたところに移動すると、仰向けに横になった。


 桃華とシズカの応援に向かう、タカヒロとユリネを視界の端に見ながら、ふとこの部屋に、ダンジョンコアが見当たらないことに気がついた。

 あらためて一周見回しても、それらしき物が無い。


『うっ……』

 その時、プチデーモンの少女が、うめき声とともに意識を取り戻した。

 少女は周りを見回して、ふと、メルフェレアーナの方を見て動きが止まった。


『あ……え? 鳴海麗奈様……?』


 何故かそこで、懐かしい名前が聞こえた。

 確か、東京にいる桃華の妹、その娘の名前が鳴海麗奈だったか。数年前に忽然と、行方不明になったままだ。

 あの時は桃華と夏梛と、慌てて東京まで飛んでいって、一緒になって行方を捜したけど、一週間探しても痕跡すら掴めなかったんだっけ。

 その妹夫婦も、去年二人とも病気で亡くなっている。


 桃華の方を見ると、桃華が口を大きく開けたまま、その場で固まっていた。


まさかの再会。

次回、緊急事態です。

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