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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
七章 北の魔術塔と南の魔術塔
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81話 プチデーモン

北の魔術塔です。

少し、雰囲気が怪しいです。

 灼熱に沸き立つ海底に一旦下りたコマイナは、北の魔術塔の入り口に合わせて、慎重に水平移動していた。灼熱の海底から、五メートル程上に、入り口が固く口を閉ざしていた。


「なあ、メルフェレアーナ。この魔術塔の中は、ダンジョンなのか?」

「半分はダンジョンだけど、特性としてはオルフェナちゃんと同じだって考えて欲しいかな」

「とすると……あの扉を開けるには、かなりのリスクがあるのか」

「うん、扉を開けると外の環境と一緒になるから、中に誰かがいると危ないかな」

 モニターを睨みながら、篤紫は顔をしかめた。


 もし完全なダンジョンだったなら、扉を開けても外気が遮断されているため、中の環境が変化することが無い。これが半分ダンジョンだと、車状態のオルフェナと一緒になる。

 窓を開ければ外気が侵入し、ドアを開ければ風が通り抜ける。

 つまり、魔術塔の扉を開けるには、向こう側の状態を完全に把握していなければならない。


『距離二キロを切りました。いまだ内部は応答ありませんので、ゼロ距離でくっつけないと駄目みたいです』

 前方のモニターにしがみついていた妖精コマイナが、がっくりと肩を落とした。たぶん、しがみつく意味は無かったと思う。それだけ、状況が緊迫していると言うことか。


「レアーナちゃん、参考までに中がどうなっているのか教えてもらえるかしら?」

「扉は、氷面に合わせて位置が変わるようにしてあるんだよ。あの高さにあるのは、あそこが一番下の設定ってだけかな。

 でもあれだって、本当は海底から十メートル上に設定したはずなんだよ」

 せわしなく歩き回っていたメルフェレアーナは、妖精コマイナが見ているモニターを一瞥すると、桃華の向かいのソファーに腰を下ろした。


「扉の中には予備の部屋があって、奥にもう一つ扉があるんだ。その部屋で、内部の環境に空気を調整してから、入る仕組みになっているよ。

 でも外にあるあの扉は、それ以外の時は常に開いているはずなんだ」

「扉、閉まっているわね。つまり……」

「うん、中に誰かいるか。もしくは、ほんとに異常事態が起きているか、どっちかかな。

 この塔は、プチデーモン達と共同で作った物だけど、塔自体はプチデーモンの技術なんだよ。わたしは魔術の技術供与と、この塔に星の石を接続しただけなんだ」


 海底を基盤に、四千メートルもの塔を建てる技術。いくらこの世界に魔法があっても、簡単に作れる代物じゃない。

 そのプチデーモン達に何か起きた可能性がある。ただ、外見上は太陽の焼滅光線ですら傷を付けられないほど、強固なものだ。


『塔にコマイナをくっつけます』

 徐々に近づいていき、大きくなっていく魔術塔の扉が、複数のモニターを使って、北側の壁いっぱいに映された。

 扉には、傷一つ無い。


『接面成功。魔術塔に接続します――失敗。

 モード二に移行します。魔力回路に接続――成功。簡易支配のため、塔に魔力を流します』

 塔が徐々に光り始めた。表面に不思議な模様が現れて、塔全体にゆっくりと広がっていく。


「なにこれ、なにしてるの?」

「モード二は、魔術塔が完全に沈黙している場合に、こっちから魔力を流して強制的に起動させるプロセスなんだよ。

 昨日のうちにコマイナと相談して、いくつかのパターンを考えてあるんだ。ただこの場合、ダンジョンコアに相当する部分が損傷していると、失敗する――」

『魔力回路の断絶を確認。ダンジョンコア相当の存在が確認できませんでした。

 モード三に移行の許可をお願いします』

 塔に現れていた模様が、急速に光を失っていく。

「モード三は許可できない。

 ダンジョンコアに接続できなかった場合は、モードゼロ、直接突入するしか……ない」

 コアルームに、沈黙が訪れた。




「あの、みんなにお願いがあるんだよ」

 しばらくして、メルフェレアーナが顔を上げて、遠慮がちにみんなの顔を見回した。


「わたしと一緒に、魔術塔に行ってもらえないかな。

 危険なのはわかってる。でも、みんなの魔力が必要になると思うんだ。

 どのみち、星の動きを修正するために、魔力を注がないとならなくなる。もしかしたら、星の魔力がしっかりと届いていない可能性があるんだよ」

「どうして、星の魔力が関係あるのですか?」

 ずっと黙ってていたタカヒロが、目を細めながら尋ねた。


「この魔術塔の役割はいくつかあるんだけど、一番大切な役割がソウルコア、ソウルタブレット、それにソウルメモリーの制御なんだよ。北と南、二本の塔で、全世界を網羅しているんだ。

 だから魔力が切れないように直接、星とリンクさせてある。常に星のコアから魔力が供給されているはずなんだよ」

「つまり、塔の維持のためのサブコアも、星の魔力が供給されているのですね」

 メルフェレアーナはしっかりと頷くと、言葉を続けた。


「わたしたちが持っているソウルメモリーがまだ動いているから、星の石は辛うじて、まだ魔力を受けていると思うんだ。

 その星の石で、星のコアに働きかけるときに、大量の魔力が必要になるから、できれば手伝って欲しいかな」

 それだけ言うと、メルフェレアーナ視線を落とした。


 この星の異常が、もしかしたら魔術塔のせいかもしれない。

 もし一緒に行ってもらえるなら、このあと北門に来て欲しい。


 最後にそれだけ告げると、メルフェレアーナはコアルームを退出していった。




「まあ、いくけどな」

 篤紫が立ち上がって、虹色の魔道ペンに魔力を流す。髪が漆黒になり、黒のロングコート姿に変身した。


「娘のレアーナが行くんだから、私も行かなきゃね」

 桃華がネックレスに触って、真っ赤なドレス姿に変身する。


「レアーナおねえちゃんに続くよ、カレラちゃん、ナナちゃん。

 魔法少女隊出動だよ」

「「おおおっ!」」

 夏梛、カレラ、ナナも魔女っ娘ワンドを片手に、揃ってフリフリドレス姿に変身した。


「拙者も向かうでごさりますよ」

「お、お母さん、似合ってるけど言葉遣い変よ……」

「うむ、某も向かいますよ」

「た、タカヒロさんまで……」

 シズカ、ユリネ、タカヒロも、羽織袴姿に変身した。三人は顔を見合わせて、思わず吹き出した。

「やっぱり、普段通りで行きましょう」

「はい」「ええ」


『今回の我の抱っこ係は、ドライアドなのだな』

『あの……オルフェナさん、お手柔らかにお願いします……』

『なに、心配はいらんよ。お主も含めて、無敵集団だからな』

『うんっ』

 迷彩服姿に変身したドライアドは、オルフェナをギュッと抱きしめた。


「みんな、お願いね。

 私はみんなが無事に帰ってくるのを、風のソウルコアにお祈りしてるよ」

 サラティに見送られて、一行は北門に向けて歩みを進めた。





 全員の顔を見て、涙目になったメルフェレアーナと合流して、魔術塔に足を踏み入れた。

 扉を強引に開けた部屋の中は、焦げ臭い匂いが充満していた。


「なにこれ、みんな焦げてる……」

 見える範囲全ての壁一面が、真っ黒に煤けていた。何かの肉が焼けたような匂いに、全員が顔をしかめた。

 外側の扉を閉めて少し待ってみるも、空気の入れ換えが始まらなかった。やっぱり、塔の機能が完全に落ちている。


 篤紫は次の扉に手をかけて、力を入れて押した。しばらく何かに引っかかって動かなかった扉が、急に勢いよく開いた。


 扉の先は、だだっ広い空間だった。

 開いた扉の向こうには、黒い何かが折り重なるように倒れていた。辛うじてわかる頭部には、巻角が見えた。もしかして、プチデーモン?

「えっ、嘘。なんでなんで! どうしてこんな――」

 メルフェレアーナが転がるようにして、黒い塊に駆け寄っていった。


「なんで、なんでみんな死んでるのよ――」

 黒い塊は、触れただけで細かく砂のように崩れていった。角がコトリと、床に転がった。

 それは、真っ黒に焼け焦げた、プチデーモンの遺骸だった。


 広い空間は、やっぱり全てが黒く煤けていた。倉庫だったのか、長方形に奥に長い。床には、燃えなかった金属が無造作に積み重なって転がっている。

 胃の中がきりきりと痛む。


 巻角のを抱え込んだメルフェレアーナが、大声を上げて泣いていた。

 死に戻るたびに、いつも叱られていた声が、笑い合っていた笑顔が、全て焼けて無くなっていた。

 自分はいつでも蘇れる。でもこの子達は――。


 泣きじゃくるメルフェレアーナを、桃華とシズカがそっと抱きしめた。


 誰も、言葉が出なかった。


コアが力を失ったダンジョンは、ダンジョンの機能を失います。


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