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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
七章 北の魔術塔と南の魔術塔
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80話 北の魔術塔

北極点の魔術塔に向かっています。

 コマイナは北極点に向けて、順調に飛行を続けていた。

 ますます激しさを増していく吹雪で、視界は真っ白に染まっていた。と同時に、周りは目映いほどに輝いている。


「なあ、コマイナ。何で視界が真っ白なのに、こんなに明るいんだ?

 ここまで吹雪いていると、普通は薄暗くなるはずなんだけど」

 冬のこの時期、北極に進むに従って昼間の時間が短くなる。すでにコマイナは北極圏に入っているので、本来なら正午を挟んで二時間くらいしか明るくならないはずだ。


『これは、太陽のせいですね。焼滅光線が照らしている時間が、極端に長くなっちゃってるんです。

 照射角度の問題もあるんですが、ほんとめちゃくちゃな状態なんですよ』

 妖精コマイナが、よくわからない説明でこの場を濁しにかかってきた。たぶん、説明するのが面倒くさいんだろうな。


 ここで重要になってくるのは、日本において焼滅光線が午前九時と、午後三時の一日二回照射されていたことだろうか。

 実はそれが、北に進むに従って、少しずつ照射されている時間が延びていたのだけれど。さすがにここまで長くなるとは、想定もしていなかった。

 もっとも、ダンジョンであるコマイナにとっては、何の障害にもならないのだけれど。


『予定ですと明日の午後には、北極点に着きますよ。

 現地の状況は、さっぱりわかりませんが、この調子ですと恐らく氷が全解しているはずなので、海面か海底のどちらかに下りることになりますよ』

 よく考えてみれば、規格外の移動体なのだと、あらためて認識した。絶対にコマイナを戦略兵器にしてはいけない。


「そうか、北極って南極と違って大陸が無いんだもんな。ってことは、北の魔術塔は海底から水面上まで、もの凄い距離の塔が建っているのか」

『そうなりますね。通常であれば五メートル程の氷が張っていますから、氷面近くに入り口があるはずなんです。

 ただ、今は異常事態のまっただ中ですから、現地がどうなっているのかも分からないんですよ』

「うーん、何か面倒な予感がする」

 実際、太陽の焼滅光線で海面が蒸発している可能性もあるから、ほんとに現地で確認しないと駄目なのか。

 それでも、世界的な天変地異、例えば大津波とかが起きていない事を見ると、魔術の源でもあるナナナシアコアが一生懸命、何とかしようとしているようにも感じる。いやなんとなくだけど。



「篤紫、今どんな状態なのかな」

 メルフェレアーナが、西の入り口からコアルームに入ってきた。今日は、懐かしの魔女ルックだ。黒いローブに同じ黒のとんがり帽子姿は、シーオマツモ王国で初めて会ったときの姿だ。


「どうした、レアーナ? その格好は珍しいじゃないか」

「そろそろ北の魔術塔に着くんだよね。この姿が、わたしの正装だからさ、いつ到着してもいいように着たんだよ。

 ねえねえ、もう北の魔術塔は見えてきたのかな?」

「いや、到着は明日の午後らしいよ」

「そうかあ、明日かぁ」

 未だ吹雪で真っ白に染まっているモニターを眺めながら、メルフェレアーナがあからさまに落胆したのがわかった。

 そういえば復活点をオルフェナにしたから、もう北の魔術塔にも南の魔術塔にも、行く機会が無くなったんだっけ?


「その、よかったのか? 復活点、オルフに書き変えて」

「それは問題ないんだけどね、もう二千年近く、復活点として使ってなかったからさ」

 既に二千年という年月が、恐ろしく気が遠いのだけれど……。

 地球で言えば、軽く文明が成熟するほどの年月だ。


「中にいるのはプチデーモン達だけだし、もし死に戻りなんてした日には、みんなでそろって小言を言われるからね。たまったもんじゃないよ」

 そう言いながら、メルフェレアーナは嬉しそうに顔をほころばせた。そのプチデーモン達も、この間の霊樹エル・フラウと同じように、かなり思い入れがあるのだろう。


 とはいえ、それ以上はプライベートな話。雑談程度の話を少ししてから、メルフェレアーナはコアルームを退出していった。


「それじゃ俺も、いくつか雑用を済ませてくるよ。

 また明日の朝には、ここに顔を出すようにする。何かあったら電話でもいいし、お昼や夕飯時にでも話してくれればいいよ」

『はい、わかりました。もう少しで大陸が切れますから、そうそう何かが起きることは無いと思いますよ』

 妖精コマイナに手を振りつつ、西の扉からコアルームを退出した。行き先は、アイアン・ダンジョン。ルルガの魔鉄工房だ。





『お、篤紫。久しぶりだな、元気にしてたか?』

 魔鉄工房は相変わらず閑散としていた。聞けば、やっぱり鍛冶ができるゴブリンがいなかったようだ。


「それだったら、ゴブリン以外から募集すればいいじゃないか」

『それがな、キングに反対されてるんだよ。

 ほら、このダンジョンってさ、あえて階層を種族ごとに区切ってるだろ。多種族が喧嘩しないようにって、キングの配慮なんだよ。

 もし異種族交流したけりゃ、ダンジョンの外に行けってさ。ダンジョン自体が、外と交流ができてるから、問題ないだろうって、一蹴されたんだよ』

「それだったら、やってみるか? 今のごたごたが収束してからだけど」

『篤紫んとこにか? いいぜ、できるならやってくれよ。待ってるからさ。

 実現できたら、オレすごく嬉しいぞ』

「わかった、またちょくちょく顔出すわ」

 桃華に連絡を入れて、ルルガと鍛冶話をしながらお昼を食べた。その後、溶鉱魔炉の魔術文を一部描き変えて、ルルガと別れた。


 アイアン・ダンジョンにはアイアン・ダンジョンの決まり事があって、そのおかげで今までうまくやってこられた。確かにこの平和を乱しちゃ駄目だよな。

 帰り道に、楽しそうに談笑しているゴブリンを見て、種族が違うことの難しさをあらためて感じた。少なくとも、この争いの無いアイアン・ダンジョンは、数少ない成功例だと思った。





『そういうわけで、四列シート配列に改良した。

 桃華のことだ、どうせドライアドもつれて歩くのだろう?』

 珍しく一匹で顔を出したオルフェナに、桃華のことは桃華に聞いてくれ――などとは言えなかった。

 ただ、霊樹エル・フラウの思いを尊重するなら、できるだけ一緒に行動して、世界を見せてあげる必要がある。


『して、篤紫は何をしておるのだ?』

「ああ、ニジイロカネでドライアドの変身魔道具を作ろうと、形を考えていたところだよ」

『ふむ、見たところシャベルとスコップがあるようだが、本人には聞いてみたのか?』

 作業机の上には、大型のシャベルと小型のスコップが乗っていた。


「ドライアドが男の子だったら、この仕掛けに喜んでくれるはずなんだけど」

『ほぉ、これまた面白いな。シャベルの方は日本のあれが元か。

 スコップは完全に男の子向けだな』

 オルフェナの目の前で大型シャベルの柄を畳んで、盾に変化させた。スコップは柄に魔力を流すと、地面を掘る刃の部分が一メートルほど伸びた。


「桃華に連絡して、この後連れてきて貰うことになっているんだ。ドライアドが男の子か、女の子かで、反応が違う気がするんだよな」

『ふむ、かなりデリケートな問題だな』

「だよなぁ……」


 結果としては、ドライアドはどちらかというと、男の子らしい。魔獣の括りからか、特に決まった性別がないのだとか。

 シャベルとスコップには、飛び上がるほど喜んでくれた。


 その場でソウルメモリーを作成してから、使用者登録と帰還登録をして、ミスリルで仕上げ処理までした。鞘は、桃華が手作りすると張り切っていた。

 そして変身した姿は、まさかのミリタリースタイルだった。やばい、これは絶対にオレのイメージのせいだな。


『ちなみにだがな、我はオスであるぞ』

「いや、聞いてないし……」

 日常がこうして過ぎていった。





 北極点は、まさに地獄の様相だった。

 普段は絶対に届かないはずの陽光が、遙か上空を照らし続けていた。その途絶えることの無い陽光――焼滅光線は、上空に生じた氷に乱反射されて、光の雨がむき出しの海底に降り注いでいた。

 氷は瞬時に蒸発するも、普段よりも遙かに低い気温にすぐにまた顕れ、終わることの無い極小の焼滅光雨が、海底を灼熱の地獄に変えていた。

 海水だった水が、上空でレンズと鏡の役割を果たしている。決して雨として、地面に降り落ちることができない。


 その中にあって、北の魔術塔は異様な姿だった。

 海底から真っ直ぐ四千メートル建っているその白い塔は、光の雨に晒されながら、微動だにしていなかった。


 ゆっくりと降下しているコマイナの中から、主要だったいつものメンバーが息をのんで、その勇姿を見つめていた。


『海底に入り口が確認できました。安全を考慮して、コマイナ北門を接続します。

 お昼頃には、仮接続が終わると思います。向こうの反応次第ですが、夕方までには入れるようになるはずですよ』

 妖精コマイナが、真剣な面持ちで告げた。


 相手の反応が無い。


 コマイナからの信号も、メルフェレアーナからの連絡すらも、反応が返ってきていなかった。恐らく、中では非常事態が起きているはず。

 あとは、側面を接続して、魔術塔本体と直接交信するしか無い。


 固唾をのんで見守る中、ゆっくりと近づいていった。


次回、北の魔術塔に接面します。

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