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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
六章 エル・フラウ島

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74話 青いリンゴ(無毒)

霊の青いリンゴが再登場です。


 桃華と一緒に応接室に戻ると、メルフェレアーナとエルフの族長は、いまだに苦い顔のまま、頭を抱えて話をしていた。

 桃華は小さなため息をつくと、メルフェレアーナの側まで行って、肩を叩いた。


「あ、桃華。どうかしたの?」

「はい、これ。族長さんに渡して。エルフ達の症状が回復すると思うわ」

 肩を叩かれるまで、全く気づかなかったメルフェレアーナは、桃華に手渡された青いリンゴを見て、眉をひそめた。


「これって、この間桃華が食べていたリンゴだよね?

 確か中が真っ赤だっけ。さすがにこの色だと、食べてもらえないんじゃないかな」

 そう言いながら、メルフェレアーナはエルフの族長の前に、青いリンゴを置いた。


「えっ。あの……これは……?」

 目の前に置かれた青いリンゴを見て、エルフの族長は目を見開いた。

 いい加減、名前で呼んであげたいのだけど……今さら名前を聞きづらいんだよね。あとでメルフェレアーナに聞くしかないか。


「あー、見た目は悪いけど、味はいいらしいよ。わたしは食べたことないんだけどね。彼女、わたしの家族の、桃華が持ってきてくれたんだよ」

「初めまして族長さん、白崎桃華です。

 篤紫さんから聞いた症状だと、エルフの皆さんにはこの青いリンゴが一番、治療効果が高いと思うのよね」

「こちらこそ初めまして、桃華様。

 私はこのエルフの集落で、現在族長を担っています、ティルナイアと申します。ナイアとお呼びください。

 ところでこのリンゴですが、どこで手に入れたのでしょうか……?」

 エルフの族長はティルナイアっていうのか。さすが桃華だな、話の掴みがうまい。

 ティルナイアはどうやら、青いリンゴの出どこが気になるようだった。机に置かれた青いリンゴを、大事そうに手で包み込んでいる。


「これ? うちのダンジョンの中にある、ダンジョンの中で、ゴブリンさんのお店で売っていた物よ。

 リンゴ自体は、下層の果樹園階層産らしいわ。そこでメディ・アップルっていう樹人族の人たちが、専門で作っているんだってね」

 ややこしい場所だな。それになんの話だか、さっぱりわからない。

 この間のメルフェレアーナ主催、ダンジョンツアーでの出来事だと思うけど、ルルガと工房に籠もっている間に何があったのか。


「それです。メディ・アップル。そのリンゴの名前です」

「あら、まあ」

「失礼かと思いますが、これ以外にお持ちでは無いですか?」

 机から身を乗り出して、必死の形相のティルナイアに、桃華は柔らかい微笑みを返した。


「ナイアさんは、このリンゴ――メディ・アップルって言うのね。

 それでメディ・アップルの価値を知っているのかしら」

「はい。ウッド・エルフに伝承として伝わっていますから、しっかりと存じ上げています。

 これは神の奇跡とも言われている、幻の果実です。実際に現物を見るのは、これが初めてです。

 この実は、全ての果物の頂点と言われていまして、万病をも治す、文字通り奇跡の果実だそうです。真っ青な外皮に、血のように真っ赤な果肉をしていて、食べると甘酸っぱいのが特徴だと伝わっています」

『ふむ。聞いたことがあるな。

 そもそもが、メディ・アップルは樹の魔獣だな。基本的に森の奥深くに、ひっそりと生えている、不動の魔獣だ。

 確か、数千年に一度実を付けて、そのまま枯れてしまうはずだが』

 篤紫は突然の声に、慌てて下を見た。足下でオルフェナが見上げていた。

 気がついたメルフェレアーナが椅子から下りて、オルフェナを抱き上げた。顔がにやけている。抱っこしたかったのか。

 しかしオルフェナは、いつの間にここにいたんだ? 


「あら、そうなの? メディ・アップル族の皆さんは、普通に木を栽培しているみたいよ」

『それは興味深いな。メディ・アップルの樹が樹人になっているのか?

 本来、ただの樹の魔獣であったはずだ。樹人なら、木を枯らすこと無く結実させ事ができるのかもしれんな』

 桃華が首を傾げて、記憶を辿って思い出していた。樹人っているんだ、今度見に行ってみようかな。


 話を聞いていたティルナイアが身を乗り出してきた。


「それでは、桃華さんのダンジョンまでいけば、手に入れることができるのですね?」

「可能かと言えば可能だけれど、患者の数にもよるわよ。

 このエルフの町に、いったい何人のエルフがいるのかしら?」

「集落の全体数は七千人ほど、患者も恐らく同数かと……」

 桃華は思わず首を横に振った。


「無理だわ、そんなに数がないわよ。

 果樹園と言っても、メディ・アップルばっかり作っているわけじゃないのよ。確か樹は十本ほどって言っていたから、到底足りないわ」

「そんな……」

 ティルナイアは肩を落とした。あからさまに落胆しているのがわかる。


 桃華が、篤紫に振り返って、パチッとウインクしてきた。

 ……出番だと言うことか?


 今やらなければいけない事は、メディ・アップルを増やすことか。

 とはいえ、さすがに単純に増やすことは難しい。メディ・アップルに魔術を描き込んだ時点で、メディ・アップルではなく、別の魔道具に変わってしまう。

 本当は、植物を使って増やせればいいのだけれど、実は生き物や植物に対しては、直接魔術が描き込めない。

 とすると、ダンジョン自体に働きかけるしかないか。

 とはいえ、魔術を使った結果、ダンジョン全体に影響があると、今度はダンジョンの魔力が枯渇する恐れがある。

 なかなか、難しいな。賭けるとすれば、あの青い大樹か。


「ナイアさん、外にあった青い樹は、植物ですか?」

「いえ、あれはダンジョンの下層に向かうための、ゲートです。

 一見植物に見えますが、実際には鉱物に近いです。叩くと甲高い音がしますから。

 どちらかというと、ダンジョンの一部じゃないでしょうか」

 よし。それなら、何とかなるな。

 篤紫はティルナイアにお礼を言うと、家の外に向かった。


 それじゃ、いっちょう派手にいきますか。




 夜もだいぶ更けてきているにもかかわらず、たくさんのエルフが集まってきていた。

 ざっと見ても、千人はいるだろうか。さすがにこの人数のエルフは、見たことがなかった。

 並んだ顔が美形だらけで、眼福ではあるけれど。


 遠巻きに囲んだ先頭には、ティルナイアと、森に迎えに来てくれたエルフ達が、心配そうな顔で見ていた。

 ティルナイアの隣には、メルフェレアーナが並んでいた。少し離れたところに、白崎家とタナカ家の面々が並んでいる。

 顔を向けたら、年少三人が手を振ってきたので、手を振り返した。



 青い樹の前に立ち、篤紫は虹色魔道ペンを取り出した。

 今回は、魔方陣一個を線で繋げるだけの、簡易術式で行こう。幸いなことに、ダンジョンの入り口自体は、半分地下になっているので、魔方陣から一筆書きで幹を一周繋げられる。

 念のため、落ちないように入り口の上に板を渡してもらった。


「あの、いったい何をなさるのでしょうか?」

「大丈夫だよ、ナイア。魔術に関しては、篤紫に任せておけば、まったく問題ないよ」

 メルフェレアーナの全幅の信頼は、何なのだろうか。さすがに背中がくすぐったい。

 青い樹に、小型の虹色スコップでくぼみを作って、そこにメディ・アップルを乗せた。



 今回は、一回だけの発動にしないとまずい。

 青い樹にメディ・アップルを取り込んでもらって、それを文字と同時に込めた億の魔力を使って、大量にメディ・アップルを実らせてもらわないといけない。


 そんなわけで、魔術文字文はこんな感じになった。 


One time activation, take in a blue apple, and let the branches bear many apples.


「よし、魔術式起動――」

 青い樹に描き込んだ魔術文に、魔力を一文字百五十万。合計で一億くらい魔力を込めながら、最後のピリオドを打つ。

 樹の幹を一回り繋いだ魔術文が、光り始め輝きを増していく。くぼみに乗せたメディ・アップルが、すっと青い樹に吸い込まれていった。


 魔術文からあふれ出た光は、木の幹を上って葉先の方へと伝わっていく。樹が青く輝き始めた。見物していたエルフ達から、大きな歓声が上がる。

 光は、先々で蕾に変わり、真っ赤な花を咲かせた。そのまま花が落ちて、青い実が膨らんでいく。

 樹の枝いっぱいに、メディ・アップルの実が結実した。


 最後に残った光は、葉先から粒になって、空中に消えていった――。



 あまりの衝撃に、その場にいたエルフが全員固まった。

 溢れんばかりの歓声が上がる。

 そして全員がその場で篤紫に跪いた。族長であるティルナイアですらも、震えながら跪いていた。


「うわあ……待って、みなさん、頭を上げてください」

 突然のエルフの行動に、篤紫サイドも慌て始めた。


 正直、やり過ぎだったと思う。

 メディ・アップルはウッドエルフにとって、もとはお伽話の果物だったとは言え、神聖な物だった。

 それを一気に、大量に実らせれば、畏敬の対象にもなるよね。


 エルフのみんなと協力して、青い樹からメディ・アップルを収穫して、夜遅くなんて関係ない勢いで、全戸に配った。

 作業は朝方までかかったけれど、何とかエルフの町の全員にメディ・アップルを配ることができた。



 メディ・アップルを配り終えて、そのまま倒れるように寝てしまった。

 当然朝になって、エルフの不調回復に目処が立って、みんなで一安心していたけれど、肝心なことを忘れていた。


 九時過ぎ、焼滅光線の時間が過ぎていた。

「なあ、桃華。ビタミンCだけなら、ミカンとかでよかったんじゃないか?」

「だめよ、メディ・アップルを広められないじゃない」

「あ、そうですか」

 桃華は、どうしてもメディ・アップルを流行らせたいらしい……。

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