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72話 ウッド・エルフの集落

美男美女のエルフに案内されて、エルフの集落に向かいます。

 エルフの集落は、想像していたものと違っていた。

 迎えに着たエルフ達に案内されて、深い森を抜けた。その視界の先には、夜闇に光の帯が浮いていた。

 近づいていくと、光の帯に見えていたのは、外を照らす魔道具の明かりだった。


「メルフェレアーナ様をお連れしました。門を開けてください」

 門番のエルフは頷くと、梯子で門の反対側に移動した。そして、中からかんぬきを外して門を開け始めた。

 木でできた重厚な門が、ゆっくりと開いていく。


 集落の周りは、丸太を隙間無く立てた柵で囲まれていた。柵の高さも見上げるほどで、木製の柵としては、かなり大がかりな物だ。

 その柵の上には光の魔道具が等間隔で並べられていて、集落の外側を明るく照らしていた。

 柵は集落の周りを一周囲っているようで、左右を見ただけでも、見える範囲の切れ目まで、かなりの距離がありそうだった。

 その威容は言わば、木製の城塞といったところか。


 ……ここ、集落なんだよな?

 ちょっと規模がおかしい気がする。


 柵より外側、森の方に目を向けると、広い範囲の木が、全て切り株だけになっていた。

 森を抜けてから十五分くらい歩いたので、柵から一キロ範囲の広い空間が、柵に沿って一周、拓かれていることになる。


 今までずっと深い森を進んできたので、そのぽっかりと空けた空間には、もの凄い違和感を感じた。

 見上げると、集落の上だけ丸く開けていて、遙か上のダンジョン壁まで見ることができた。そこは空を模した天井になっていて、今は夜空に星が瞬いていた。


「あれから、ずいぶんと周りの木を切ったんだね」

「はい。ここ十年くらい、シャドウ・エイプによる襲撃が増えていまして、その対策として、集落の周りの木を切り倒しました。

 シャドウ・エイプは強靱な体躯で、大樹の影を伝った影飛びをしますから、集落の近くに木があると、影を伝って簡単に内部に侵入してくるのです。柵の上にある明かりで、暗がりができないように対策しています。

 メルフェレアーナ様は、ここに来るまでに、シャドウ・エイプに遭遇しませんでしたか?」

「それって大きな猿? うん確か、会った気がするよ」


 リーダー格のエルフとメルフェレアーナを先頭に、門を抜けてエルフの集落に足を踏み入れた。

 エルフ達も、周りで光球を浮かべてくれている。篤紫は、隣を歩いている女性のエルフに声をかけた。


「俺たちも一緒に集落に入って、問題ないのか?」

「ご心配なさらなくても、大丈夫ですよ。

 メルフェレアーナ様とご一緒にいらした方々ならば、我々にとっては大切な賓客です。丁重におもてなしさせて頂きます」

「あー、はい。ありがとうございます。

 ……確かにこれは、きついな……」

 エルフ達の腰の低さに、篤紫は苦笑いを浮かべた。過去にメルフェレアーナは、一体何をしたのだろうか?


 暗闇の中、多数の光球を浮かべながら、遠くに見える集落の明かりへ向かって、歩みを進める。

 門をくぐってすぐ、柵の内側には畑があった。光の玉を畑の上まで飛ばすと、色とりどりの野菜が育てられているのがわかった。


 未だ遠くに見える集落の明かりと、光る柵の間に広がっている暗闇から察するに、かなり広大な耕作地が広がっている様に見える。

 エルフが農業をしている。そんな姿をイメージして、思わず首を傾げた。エルフって、農業をするのか? 


「既にシャドウ・エイプに、遭遇されていたのですか?

 よ、よくぞ、ご無事で……」

 メルフェレアーナを案内しているエルフが、目を見開いて驚いていた。大きく安堵の息も漏らしている。


 もしかして、シャドウ・エイプって、みんなで一気に倒した、あの大きな猿のことかな?

 夏梛の光魔法でひるんでいた隙に、簡単に倒せたから、まったく脅威に感じていなかったのだけれど。


「奴らは影伝いが得意ですから、光が少ない森の中は特に危険なのですよ。影が濃いほど、闇が深いほど、動きが速くなります。

 気配を断って、影に潜って移動しながら、死角から攻撃してくるのです。ですから、常に影を作らないように、気をつける必要があります」

「そうなんだ、じゃあ逆に光に弱いのかな?」

「いえ、そんなことはありません。影を上手に使うことが、できるに過ぎません。

 例え影を使えなくても、地の能力が高いので油断できないのですよ。

 素早い動きで攪乱してきますし、何よりも体表が硬くて、生半可な攻撃は通りませんから」

「えぇ、弱かったけどな……」

 エルフの説明に、メルフェレアーナが首を横に傾げていた。


 確かに、弱かったよね。でもニジイロカネの魔道具で全員変身していて、能力がかなり底上げされているから、弱く感じただけかもよ。

 エルフの今の説明から、普段の状態で遭遇していたら、瞬殺される自身があるし。




 農耕地を抜けて、集落の居住地に入った。

 まだ夜になって間もないからか、家々の窓からは明かりが外に漏れている。時間的にちょうど、就寝前の明かりかもしれない。

 反対に大通りは闇に沈んでいた。エルフも魔族で、普通に魔法が使えるからか、街灯は一つも設置されていないようだ。

 今も自分たちの周りには、魔法で多数の光球を浮かべている。


 窓の明かりを頼りに、大通り沿いの住宅を数えると、片側だけでも三十軒以上立ち並んでいた。その全てが庭付き二階建ての住宅で、生活基準の高さが覗えた。

 てか、メルフェレアーナが集落って言うから、ずっと集落って言っていたけど、これはどう見ても町の規模じゃないかな?


 篤紫は上を見上げた。夜空が真ん丸く開いているから、恐らくこの街は円形に展開しているのだろう。

 となると、この大通りの両端だけでも、九十軒の住居がある。全体の住居をざっと計算しても五百軒位にはなるか。

 ……集落じゃないな、これは。


 よし、今からエルフの町に呼び方を変えよう。


「族長の家はこの先、青の大樹の横にあります。先に伝令を飛ばしてありますので、歓待の準備は整っているかと思います。

 お連れの方々も、ぜひおくつろぎください」

「あのね、だからそう仰々しいのはやめてって、お願いしているよね?」

 メルフェレアーナはかなりの人望が厚いみたいだ。道中一緒にいたエルフ達も、男女問わず熱い眼差しを注いでいたし。

 家の明かりを眺めながら、エルフの街を奥へと進んでいく。




 歩みを進めていると、光球の明かりに照らされて、エルフが青の大樹と呼んでいた樹の全容が、だんだんと見えてきた。


 それは確かに、青い色の大樹だった。

 透き通るように青い葉が、風に吹かれて揺れていた。


 その青の大樹に寄り添うように、一軒の大きな家が建っていた。その家は、周りの家とは違い、青の大樹と同じ青い木材で建てられている。

 その青い家から、青の大樹を挟んで反対側には、深紅の鳥居が建っていて、その奥にうろが暗い口を開けていた。あれが恐らく、次の階層に下りるための入り口なのだろう。


 篤紫たちは、エルフ達に案内されて、青い家にお邪魔することにした。



「メルフェレアーナ様、わざわざエル・フラウの、ウッド・エルフ集落にお越しいただき、ありがとうございます。

 大したおもてなしはできませんが、ゆっくりとおくつろぎください」

 エルフに案内されて大広間に向かうと、族長が両手を大きく広げて迎えてくれた。顔には、満面の笑みを浮かべている。

 族長はエルフの女性だった。ウッド・エルフ――ここのエルフの種族名らしい――特有の緑色の髪の隙間から、長い耳が伸びていた。族長の衣装なのか、青い巫女服を着ている。


 まるっきし慌てた様子が見られず、さすがのメルフェレアーナも、一瞬に大口を開けて固まっていた。しばらくして、ハッと我に返ったようだ。


「待って、待って、そうじゃないよ。今はそんな場合じゃないんでしょ?

 霊樹エル・フラウが焼滅の危機だって、樹の再生が間に合わないみたいだったから、慌てて来たのに」

 既に夜の十一時、午後の焼滅光線から七時間近く経過している。あと十時間程度しか時間的な猶予はないはず。

 ここから下層のダンジョンを攻略して、ダンジョンコアの支配権を奪取するために、少しでも早く動きたいのに。


「あの……何の話でしょうか?」

 今度は逆に、エルフの族長が固まっていた。


 ……いったい、どうなっているのだろう?


集落ではなく、町の規模だったようです。


おや、風向きがまたおかしい?

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