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70話 枯れていく魔力

エル・フラウ島に上陸しました。

 木々が炭結晶化した森の中を、オルフェナが暴走していた。

 まっすぐ、ただひたすら霊樹エル・フラウに向かうオルフェナにとって、立ち焼けて結晶化している木々は、ただの障害物でしかなかった。

 体当たりで粉砕しながら、生き物がなにも居ない、死の森を駆けていた。


『我も、多少は進化しておるのだぞ。

 運転の必要が無いから、前列もベンチシートにして、九人座れるようにしたのだ。もちろん、走行中に車内に振動が伝わらぬように、魔法で振動遮断もしてある。

 地形走査も完璧だ。現地の状況に合わせて、マップも随時更新しておる』

 そんなオルフェナの説明は、誰も聞いていなかった。


 出発の間際に気づいたが、今回の乗員は全部で九人だった。

 正直、オルフェナが前席を改造していなかったら、娘の誰かを抱っこして乗るしかなかった。オルフェナのファインプレーだ。

 前席に陣取った娘三人は、前の景色に大はしゃぎしていた。


 ドアも前席までスライドドアになった。運転席と助手席が、前方にスライドすることで出入りしやすくなっていた。

 もちろん、後席スライドドアも間口が広げられ、三列目にもそのまま乗り込めるように配慮されている。まさに、進化そのものだった。


「レアーナちゃんの髪の毛が真っ白だと、なんか不思議な感じね」

「桃華だって、髪の毛真っ赤だし、女王様姿。似合いすぎだよ」

 ただ車内は異様な状態だった。


 現場で慌てて変身しなくてもいいように、変身した姿のまま乗り込んだ――まではよかった。

 前席は装飾やフリフリが派手な、魔法少女三人。

 二列目は、アメリカンポリスに女王様、冴えない黒のロングコート。

 三列目に至っては、刀持ちの羽織袴姿をした三人衆……まさに、コスプレ会場の移動車だった。どうしてこうなった。


「オルフ、あとどれくらいで着くの?」

『まて、夏梛。まだ出発して一時間も経っておらんぞ』

 途中の地形なども考慮して、最短で四時間の予想だったはず。それも、立ち焼けた木々を粉砕して進んだ時間で、だ。



 左右の遠くに見えていた茶色い山が、進むにつれて大きくなっていく。前は粉砕される立木で、ほとんど見えない。

『飛ぶぞ』

 視界が開けた。

 深い峡谷が、行く手を横切っていた。対岸まで、軽く見ても一キロメートル程ありそうだ。そこを、そのままジャンプするのか……。


「えっ、嘘っ――」

 タイヤ伝いに、オルフェナが地魔法を大地に流す。前方の地面を斜めに変形させ、ギリギリまで延長させてジャンプ台にした。

 

 そこをさらに加速させて、走り抜ける。


 地面が途切れたのを見計らって、下から風魔法でさらに持ち上げた。

 車体が宙を舞う。


「きゃああああぁ……って、あれ?」

 浮遊感も、衝撃すらもなく、弾丸の様に宙を舞い、対岸に着地した。そのまま、再び立木を粉砕しつつ駆け抜ける。

 メルフェレアーナが首を傾げた。


「なにこれ、まるで映画を見ているみたいだよ。

 これ、全部オルフェナちゃんが制御しているんだよね?」

『うむ、そうだな。魔法があるから、中の乗員を完璧に守ることができる。

 ただ外の状況が見えないと、さすがに危険だからな。あえて臨場感を出してある』

「すごいな、絶対に安全なんだ」

『最短で走るだけならば、左右に見えている根っこの部分を駆け抜けるのが一番なんだが、途中で飛び降りないとならないからな。

 さすがに高所からの落下は、制御が難しいだろうから諦めたがな』


 左右の茶色い山が嵩を上げながら、徐々に近づいてきている。あれは、山脈じゃなくて根っこだったのか。

 考えてみれば霊樹エル・フラウは大樹。四方八方にしっかりした根を張っていなければ、倒れてしまう。完全にスケールが違っていた。


 つまり、根っこの山脈の根元にある、入り口に到達するまで、四時間かかるのか。霊樹エル・フラウのダンジョンはすごいところなんだな。


 オルフェナがヘッドライトを点灯させた。太陽が、根っこ山脈に沈んでいく。

 夜の帳が、ゆっくりと下りてきていた。




「ここが、霊樹エル・フラウの入り口なのか」

 木の幹に、人が一人くらいしか通れないような、小さな扉が付いていた。扉はメルフェレアーナが知っていなかったら、あっさりと見落としてしまうほど、見事に周りの幹に溶け込んでいた。

 そもそも、この大樹を見て中にダンジョンがあるなんて、誰が想像できるのだろうか。


 遠目に見て、途中までしか再生していなかった幹も、下から見上げると遙か彼方にかすんでいて、切れ目は見えなかった。普段は葉が覆い繁っている空間には、満天の星空が覗いていた。


「レアーナは、よくこんな小さな入り口を見つけられたね」

 年少組の三人が、楽しそうに走り回っている。長いドライブだったから、体を動かしたい気持ちも分かる気がした。


「もとはね、こんな大きな木じゃなかったんだよ。

 もっと小さな樹で、樹のうろが入り口になった、植物型のダンジョンだったんだよ。それでも直径十メートルはある樹だったんだけどね」

「それがこんなに大きな樹になったのね。はい、レアーナちゃんの分の水筒よ」

 メルフェレアーナは桃華が手渡した水筒から、冷たいお茶を飲んだ。

 扉に付いているノブそっと回すと、奥に押し込んだ。中から光が漏れてきて、辺りを照らし出す。

 明るくなったのを確認してか、オルフェナが車から羊に戻った。


「エルフたちが入植して、ダンジョンコアに安定して魔力が供給されるようになると、百年ほどかけて今の大きさにまでなったの」

 メルフェレアーナに付いて中に入ると、そこは緑が眩しい森だった。鳥の鳴き声が聞こえる。

 見上げれば、青い空が広がっていた。


 全員が霊樹エル・フラウに入ると、扉がゆっくりと閉まっていった。

 不思議なダンジョンだと思う。本来ダンジョンは、外から生き物が侵入するために、大口を開けて待ち構えていないとおかしい。

 侵入者があって、魔法を使ったり内部で力尽きて、魔力を補充する仕組みのはず。


「レアーナ、ここの他に入り口はあるのか?」

「ないよ、その扉が唯一の入り口だよ」

 やっぱり、ダンジョンマスターの性格なりが、ダンジョンに反映されているのだろうか。


 ダンジョン壁に近づいて、手を触れてみる。

 何だろ……なにか、悲しい感じの壁だな。壁は外と同じ、木の壁だった。ひんやりとした感触が伝わってくる。

 変身しているからか、魔力の流れがなんとなく分かる。


 流れが弱い。

 確かに、魔力が枯渇しかけている。


 篤紫は、青銀魔道ペンを取り出すと、壁に走らせてみた。さすがにダンジョン壁、傷一つ付かなかった。オルフェナに書き込めたのは、描き込み受け入れてくれていたからだったのか。

 紫魔道ペンを取り出し、壁に走らせる。今度は描き込みはできたけど、瞬く間に傷が修復された。コマイナのダンジョン壁に書き込めたのも、妖精コマイナが許可してくれていたからか。


 虹色魔道ペンを取り出す。ここからが本命だ。

「ねえ、さっきから篤紫は何をやっているの?」

 メルフェレアーナが手元を覗き込んできた。他のみんなも近づいてきていた。


「このままだと、ダンジョンの魔力が完全に枯渇しちゃうからさ、少し細工してから行こうと思って」

「えー、先にエルフの集落を目指すんじゃないの?」

 メルフェレアーナが首を傾げた。エルフの集落って、近くじゃないのだろうか。


「ちなみに、その集落までどのくらいかかるんだ?」

「歩いて一時間くらいかな。二階層の入り口を守るって言う約束で、やっとここに入植できたんだよ。

 だから、まだここから森をかき分けて歩かないとなんだよ」

 やっぱり、時間が間に合わないじゃないか。


『レアーナよ、さすがに時間的に厳しいのではないか。そこからさらに、ダンジョンの下層を目指すのだろう?

 ちなみに、このエル・フラウのダンジョンは何階層まであるんだ』

「知らないよ? この下の二階層から、植物系の罠を使う魔獣がたくさん出てくるから、誰も下層に行けてないんだよ」

「待ってください、それじゃそもそも無理じゃないですか。

 さすがにそれでは、明日の朝までにダンジョン攻略できませんよ」

 オルフェナとタカヒロさんが、渋い顔をした。


 まあ、メルフェレアーナの行動パターンは、いつもこんな感じだよね。

 篤紫は、入り口の扉近く、ダンジョン壁に虹色魔道ペンを走らせた。


If you apply magic to the gem, it will be directly replenished to the core.


 四角く枠を描いて、内側に魔術文字を描く。

 鞄から取り出した緑色の魔石を、枠の真ん中に押し込みながら、ピリオドを打った。


 魔石が淡く輝く。

 枠内が黄色い木肌に変色して、魔石を半分まで飲み込んだ。

 これで、一時的にダンジョンコアに魔力が補充できるはず。


「みんな、体感で自分が持っている魔力の半分でいい。この緑色の魔石に、魔力を流してくれないか」

 言いながら、篤紫は魔石に魔力を流し込んだ。

 壁の魔石が、流れ込む魔力に合わせて光り輝く。


 地面が、揺れ始めた。恐らく、多少の魔力は補充できているはず。

 ここからだと見えないけれど、幹が伸び、枝を張り、葉を茂らせる再生が始まっているのだと思う。

 程なくして、揺れが収まった。


 魔石から手を離して、篤紫が離れると、みんな魔力を流し始めた。

 心なしか、ダンジョン壁につやが出た気もする。


 魔力を注いだとしても、やっぱり一時的な物かもしれない。

 それでもみんな、満足そうな顔をしていた。



 少し休憩してから、メルフェレアーナを先頭に、エルフ達の集落へ向けて森を進み始めた。


あの……魔力供給するのはいいですが、供給過多では?

次回、エルフの集落に向かいます。

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