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69話 驚異の魔法少女

ま、魔法少女だと……?

 取りあえず説明のために、篤紫の作業部屋、魔道具研究室に移動して貰った。

 メルフェレアーナは、何故か桃華に手を引かれながら、しきりに首をひねっていた。確かに意味分からないよね、魔法少女。

 いや、俺だって意味分からないんだもの。


 徹夜して娘っ子三人のために、ニジイロカネを使って魔法ワンドは作ったよ。それだって、素材にしたニジイロカネの性能が良かったから、魔法補助用の魔道具を作っただけなのだけれど。


 自分で娘たちに手渡す前に、妖精コマイナに呼ばれたから、性能的な物は何も確認できていない。

 あの場には、気絶していたオルフェナもいたし、自分がいない間に魔法ワンドについて、何かしらの検証が済んでいる可能性はあるけれど……。



 全員分のお茶を淹れた桃華が、奥の作業机まで歩いて行って、篤紫の作業椅子に座った。さっと腰元のスマートフォンをたぐり寄せる。


「あ、シズカさん? うんうん、そう。篤紫さんの研究室は分かる?

 ええ、そこで間違いないわ。四人で来て欲しいの。待っているわ。

 ふふふ、カレラちゃん、きっと驚くわよ」

 桃華がスマートフォンを耳に当てて、シズカさんと連絡を取っているように見える。あれ、何で通話できるの?

 シズカさんのソウルメモリーを、スマートフォンにアップグレードしたのだろうか。確か黒曜石板には、そこまでの機能はなかったはず。


 メルフェレアーナの入れ知恵かな? 問題は起きないとは思うけれど、この世界の技術レベルを考えると、あまり広めない方がいいと思う。

 通話を終えて戻ってくる桃華を見ながら、篤紫は眉をひそめた。 

 

「それで、魔法少女って何のことなんだ?」

「そうよそうよ、いくら何でも、あのドライアドに敵いっこないよ」

 篤紫は、全員がソファーに座ったことを確認して、桃華に尋ねかけた。頬を膨らませたメルフェレアーナも追随してくる。

 全員の視線が桃華に集中した。


「あら、篤紫さんが作ったワンド。あれで変身できるのよ」

「……はっ?」

 全く、意味がわからないんですけど。

 桃華が、夏梛とナナに目配せした。二人は頷くと、部屋の広くなっている場所まで移動した。

 何をするのだろうか……。


「お義父さん、見ててくださいね」

「よし、いくよ。魔法少女。変身するよっ」


 夏梛とナナが、ワンドを上に掲げた。

 魔力が流れ始めたのか、周囲に光の粒が舞う。先端に付けた虹色の球体が、柔らかい光を発しながら回り始めた。

 ……待て、何で回るんだ? そんなギミック付けてないぞ?


 球体から溢れだした光が、夏梛とナナの身体を包み込んだ。夏梛には桃色の、ナナには紫色の光がヒラヒラとした衣装に変わっていく。

 髪の色も夏梛が桃色に変わり、肩から腰まで一気に伸びた。ナナも暗めの紫色だった髪が、明るい紫に変わり、もともと腰まであった髪が自然に編み上がった。


「えっ? ま、マジですか……」

  そこには、アニメの中にいる、魔法少女がいた。何ですかこれ?

 文字通り、夏梛とナナが変身した。


 篤紫とメルフェレアーナが大口を開けて固まっていると、今度は桃華が動き始める。


「今度は、私の番ね。いくわよ」

 両手で胸元の星のペンダントを包む。桃華の手から光が溢れだし、溢れだした光は一本の長い杖に変化した。先端には、篤紫が作った星がキラキラと瞬いている。

 その星から、真っ赤な光が溢れだした。光は流れるように桃華を包み込むと、煌びやかな赤いドレスに変化した。動きやすいように、スリットも入っている。

 黒かった髪が真っ赤に染まり、サイドポニーテールに変化した。

 それは、女王の出で立ちだった。


 言葉が出ないとは、このことかもしれない。

 いや待って、何が起きているんだよこれは?


「どうかしら、無敵の魔法少女よ」

「んな、バカなーーーーーー!」

 篤紫は大声を上げて、その場に倒れ込んだ。





「これは、すごいね。魔力を変質させて、全身を隙間なく覆っている状態なんだね。魔闘衣とでも名付ければいいのかな。素材の基本は、このニジイロカネ自体なのか。

 確かにこの姿は、昔アニメで見た魔法少女そのものだね。篤紫は何で、こんなすごいものを隠していたのさ」

「いや、まって、ごめん。俺も知らないんだよ」

 検証の結果、恐ろしく強靱な鎧だということがわかった。全身を覆っているのは、あのニジイロカネそのもの。破壊不能金属素材だ。

 さらに纏った状態でも魔力消費が少ない、まさに夢のアイテム。


『だから言ったであろう。ニジイロカネは幻級の素材なのだ。

 加工すら不可能だから、本来は美術的な価値しか持っておらんのだが、それでも国が動くほどの価格で取引される。

 加工さえできれば、星からの加護を最大限に受けることができる。

 篤紫が持っているそれは、完全に規格外な素材なのだよ』

 これは、ニジイロカネの永久封印決定だな。自分が管理している間はいいけど、世間に出たら間違いなく危険な素材だ。

 早いうちにルルガの工房に行って、二度と作れないように、元の設定を変えてこないといけないな。


「それでね篤紫さん。レアーナちゃんと、あとシズカさんとユリネさん、タカヒロさんの分も作ってね」

「あ、はい」

 ニッコリと顔を覗き込んできた桃華に、篤紫は力なく頷いた。

 まあ、危険なダンジョンに挑むのならば、最低でも同行メンバーの分くらいは、用意しないといけないのか。みんなの話を聞いて、それぞれに好きな造形で作ればいいよね。



 その後、メルフェレアーナ用に、二丁拳銃を新しく作り直す事になった、ニジイロカネで。時間もないのに。

 イメージカラーは白。

 メルフェレアーナが変身すると、真っ白なアメリカンポリス姿になった。格好からわかるように、腰の二丁拳銃はそのままだった。

 あの、魔法少女はどこに行ったのさ……。

 もちろん、使用者登録と帰還登録は済ませた。



 そうこうしているうちに、タナカさん一家が到着した。当然、またお披露目会が始まり、部屋は大騒ぎになる。

 変身する白崎家の面々に、タナカ家一同、目をキラキラさせていた。

 タナカさんたちは、三人とも刀を希望したので、ちゃちゃっと造形した。時間がないので刀に併せて、ニジイロカネで鞘も急造する。


 色の注文はシズカさんは白、ユリネさんは青、タカヒロさんは赤だった。

 それぞれが、自身の得意な魔法のイメージカラーだ。

 そして――変身した姿は、三人とも羽織袴姿。確かに、腰に刀を下げたら羽織袴姿はぴったりだけれど、絶対に何かが違う。


 もちろん、夏梛やナナとお揃いのワンドを渡されたカレラちゃんは、大喜びだった。

 唯一、救いだったのは、変身した姿が、夏梛やナナと一緒だったことか。

 緑色の魔法少女姿は、すごく似合ってていた。




 そして、午後三時過ぎ。激しい大雨の後に、今日二回目の太陽による焼滅光線の時間が始まった。

 せっかく茂った霊樹エル・フラウは、瞬く間に燃え上がり、激しく音を立てて崩れていった。全員が、コアルームで息をのむ中、あっけなく崩れ落ちた。


 そして、霊樹エル・フラウは、幹半ばで再生が止まった。

 恐らく、魔力が底をついて再生がままならなくなったのだろう。


 再び降り始めた大雨に、冷やされた大地から大量の蒸気が立ち上っていった。

 大量の雨水は、攫うもののない大地を流れて、海に戻っていく。



 雨の止むのを見計らって、車化したオルフェナに乗り込んだ。

 目指すは霊樹エル・フラウ。全速で走って恐らく四時間の道のりだとか。現地でダンジョンに潜る時間を考えると、次の焼滅光線まで、殆ど時間がない。


 早い夕暮れの中、一行は全速で走り始めた――。


 




 さて、篤紫の分の、変身用ニジイロカネ魔道具はどうなったか。

 どうも知らないうちに、作っていたらしい。

 既に作ったニジイロカネの魔道ペンが、変身用具の役目を果たしていた。


 変身は、本人の持つイメージがそのまま顕れる。


 篤紫が変身した姿は、黒のロングコートを羽織っただけだった。普段着の上に、本当の意味で羽織っただけ。

 むしろ、一番地味だ。


 腰のホルスターにダンジョンコア製の銃と、三種の魔道ペンを刺し、普段も長めのコートを羽織っているから、殆ど姿が変わらなかった。

 やっぱり、シンプルが一番でしょ?



 ちなみに、あれだけ苦労して作った十丁の銃型魔道具は、全てお蔵入りになった。ニジイロカネの変身魔道具は、全ての能力を底上げしてくれるため、攻防ともに余分な得物が不要になった。

 元が想定外の産物と言え、銃型魔道具が太刀打ちできる物じゃなかった。


 いまは、篤紫の鞄の中で静かに眠っている……。ちくしょう。


完全に、収拾がつかない模様です。

次回、オルフェナが爆走します。

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