表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/88

68話 エル・フラウ島

次の舞台は、エルフ達がいる島です。


 土砂降りの雨が降っていた。

 ちょうど海岸に近づいたところで、それまでの雨が嘘のように止み、午前中の焼滅光線が差し込んできた。

 海岸線の真上から見たエル・フラウ島は、酷い有様だった。


 ブロッコリーの様に見えていた物は、大きな樹だった。その大樹が、光線に当てられて、激しく炎上していく。メキメキと言う派手な音ともに、焼けただれた枝が、重さに耐えきれずに折れていった。

 海は一瞬で干上がり、海底は結晶化した塩で、一面真っ白に染まる。塩はそのまま熱で茶色く溶けていき、海底の深いところに流れていった。


 その海底も、既に何回も焼滅光線に当てられているからか、表面が溶けて硬化している。考えてみれば、海辺に来たのは初めてだった。

 焼滅光線が照射されるたびに、海の水が一時的に干上がっているのだろうか。来るときは豪雨でしっかり見えなかったけど、焼滅光線が照射する前は、確かにそこに海水があったはず。


『海岸に、コマイナを着陸させますね』

 そう告げながら妖精コマイナは、溶けて滑らかになった砂浜に、ゆっくりと着陸させた。


「海辺ってこんな状況になっているんだね、万年を生きてるけど、初めて見たよ。こんなのひどすぎる……」

 モニター越しに外を見ていたメルフェレアーナが、苦い顔をしながら吐き出すように呟いた。そのまま篤紫の向かいのソファーに座った。


 焼滅光線の時間は、外に出ることができない。


 燃え上がる大樹を見ながら、時間が過ぎるのをただただ、待つしかなかった。地面に生えていた木々は、ある木は炭結晶化し、ある木は燃え尽きて真っ白な灰になっていた。


「レアーナ、ここに本当にエルフがいるのか?」

「いるよ、あの大樹の下がダンジョンになっているんだよ。エルフ達は人間族に特に狙われていたから、ここに隠れて住んでいるんだよね。

 ここまで辺鄙な北方の、夏以外が氷点下になるような場所に、わざわざ住む選択をしなきゃ、エルフは人間族に狩られ放題だったんだから」

 珍しくメルフェレアーナが、感情的になっている感じだった。

 どこまで、人間族は腐っているのだろう。聞いているだけで、腹が立ってくる。


「つまりここは、ダンジョンを基準にした都市なのか。具体的に、どういう感じの都市なんだ?」

「ここは今は、見ての通り炎上している、霊樹エル・フラウの幹が、空洞化したダンジョンになっているんだよ。

 地上に広げた大樹の葉で日光を受けて、それを魔力に変換してダンジョンを維持しているんだ」

「え、葉っぱ、燃えて無くなってるよ?」

 霊樹エル・フラウは、篤紫が見ている前で灰になって、地面すれすれの幹を残して全て焼滅してしまった。

 恐ろしく巨大な樹なんだな、幹だけで島の半分を占めている。炭化結晶化した木々の隙間から、ぽっかりと空いた空間が見える。


「見てて、霊樹が復活するよ」

 消滅光線の時間が終わり、ぽつりぽつりと降り出した雨は、瞬く間に豪雨に変わった。嵐のように降り突ける雨は、結晶化した地面を伝って、海へと流れ込んでいった。


 モニターが揺れている。

 正確には、映っている島が揺れていた。幹が淡く光を放ち、徐々に上に向かって伸びていく。エル・フラウ島に響く音だけが、コアルームに響き渡る。

 百メートル近く伸びた幹から、たくさんの枝が伸びていく。枝は雨に打たれながら、次々に細分化していき、たくさんの葉を広げた。

 雨が止む頃には、元の大樹、霊樹エル・フラウがそこに立ち戻っていた。


「すごい。でも、これじゃ……」

「うん、昼間のうちはまだ失った魔力を、ある程度補充することができると思う。でも、一日二回焼き尽くされて、どんどん魔力のストックが無くなっていってる。

 いずれは、ダンジョンが維持できなくなるよね……」

 篤紫は口を開けて、次の句が継げなかった。

 太陽の消滅光線が始まってから、結構長い時間が経過している。この大樹は、その間ずっと、燃やされては再生してを繰り返してきたのか。

 これは確かに、いつまで魔力が持つのかわからない。


「それでごめん、篤紫たちはここで待ってて貰ってもいいかな?」

 立ち上がったメルフェレアーナの言葉に、篤紫は目を見開いた。


「いや、待てよ。俺も行くよ、補充する魔力がいるだろう?」

「あー、そなんだけどね。篤紫たちって、飛べないよね」

「空をか? そりゃ無理だけど……」

「エル・フラウの入り口まで、飛んでいっても三時間はかかるんだよ。

 もし徒歩で行ったとしたら、間違いなく途中で、次の消滅光線に焼かれちゃうよ。それを分かっていて、一緒に行ってなんて言えないよ」

 メルフェレアーナは泣きそうな顔で、無理矢理笑っていた。

 ふつふつと、怒りが湧いてきた。


 ここまで来て、指をくわえて待っていろと?

 確かに、自分たちは非力かもしれない。でも、魔力だけなら膨大な量を秘めている。絶対に無駄にはならないはず。


「いや、連れて行けよ。っていうか、行くからな」

「駄目だよ。篤紫たちを危険に晒せない――」


『話は聞かせて貰ったぞ』


 篤紫とメルフェレアーナの動きが止まった。

 開け放たれた南の扉から、夏梛に抱きかかえられたオルフェナが入ってきた。続いて、桃華とナナも部屋に入って来る。


「はい、これ朝ご飯よ。まだ食べていないのでしょう?」

「お、お義父さん。可愛い杖、ありがとうございます……」

 徹夜で作った杖を、ナナが大事そうに抱えていた。そういえば起きたら渡すように、桃華に頼んであったんだ。

 ナナのはにかむ様な笑顔に癒やされて、篤紫は少しだけ落ち着きを取り戻した。


『外に出るなら、我に乗ってゆけばいいだろう?

 レアーナが飛ぶよりは遅いかもしれんが、消滅光線程度ならば、余裕で防げるぞ』

「そうだよ、レアーナお姉ちゃん。一人だけ格好付けようとしても、駄目なんだからね」

 桃華に広げて貰った朝食をありがたく頂きながら、篤紫はメルフェレアーナを見上げた。

 さっきサンドイッチを食べたなんて、言えるわけないじゃないか。


「ほらな、絶対に付いていくからな」

「篤紫さん、ご飯食べながら喋るのは、マナー違反ですよ」

 桃華に怒られた……。

 コップに、温かいお茶が注がれる。


『今から急いで行っても、それほど事態が急転するわけではない。これからしばらく日に照らされるだろうから、霊樹には魔力が補充される。

 だが、急いで行こうとするに、何か他に理由があるのだろう?

 さしずめ、ダンジョンマスターの問題か』

「うん、オルフェナちゃんの言う通りかな。

 あの霊樹エル・フラウのダンジョンは、エルフがダンジョンマスターじゃないんだよ」

 ソファーに座り直したメルフェレアーナは、両手で顔を覆った。


 篤紫は切り分けた目玉焼きをハムに巻いて、口に運んだ。トーストされた食パンには、たっぷりと蜂蜜が塗られていた。

 

「とりあえず、みんなで行けばいいわね。

 シズカさんにユリネさん、タカヒロさんとカレラちゃんも呼びましょうか。みんなで行けば何とかなるわよ」

 桃華の言葉に、メルフェレアーナがバッと顔を上げた。


「駄目だよ、ここのダンジョンはいままでの緩いダンジョンじゃ無いんだよ?

 昔ここにエルフ達を連れてきたとき、やっとの思いで一階層だけ入植することができたんだよ。たぶん今でも、不干渉を続けているはず。

 そうでなきゃ、わざわざ救援要請が来るわけないよ」

 メルフェレアーナは立ち上がって、腕を大きく広げた。


「相手はドライアド、強力な樹の魔獣だよ。

 今までみたいに、話し合いで済む相手じゃないんだから――」

「大丈夫よ、何とかなるわ」

 桃華は両手でそっと、メルフェレアーナの顔を包み込んだ。


「こっちには魔法少女がいるんだもん、絶対に負けないわ」


 メルフェレアーナが、口をパクパクとさせたまま、その場に固まっていた。


 まあ、当然だけど、意味が分からないよね……。

 篤紫は、大きなため息をついた。


魔法少女……何の話でしょう?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ