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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
五章 空の旅とコマイナ
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64話 修理失敗?

管理室にいって修理しますが……

 魔石灯が照らす階段を下った先は、だだっ広い部屋だった。

 部屋の真ん中には、溶鉱魔炉の下部分が天井から床に抜けて建っていた。


『こっちだよ、篤紫。ここの板に溶鉱魔炉を動かす魔術が書かれているんだけど、何書いてあるかさっぱり分からないんだ』

 ルルガに案内された先は、溶鉱魔炉から少し離れた場所だった。地面から伸びた太い柱の上に、大きな鉄の板が斜めに乗っている。

 これは溶鉱魔炉の一部なのだろう、柱が綺麗に赤く染まっていた。


「この部屋が管理室なのか?」

『そうだよ、管理って言っても魔石がけっこう早くなくなるから、普段は魔石を持ってきて溶鉱魔炉に入れる管理だけだよ。

 あとは起動と停止のレバーがあるだけかな?』

 ルルガは溶鉱魔炉まで行くと、側面にある蓋を開けた。

 とすると、蓋の横にあるレバーだけで起動と停止を制御しているのか。


 篤紫は一旦、溶鉱魔炉に近づいて周りを一周見てみる。特に、魔術文字が書かれている様子はなかった。

 念のため、魔石を投入する蓋、さらに中も覗いて見るも、何も書かれていない。


「つまり、問題が発生したのは、鉄の板がある方か」

『そうだと思うよ。オレは詳しくないから、ちらっと見ただけでそこは触っていないんだ。

 それにここには誰も来ないし』


 本体は問題ないとして、鉄の板を見てみることにした。

 





「んー、えらい錆びているな……」

 何故ここを鉄にしたのだろうか。ドワーフは先のことまで考えていなかったんじゃないか?

 最初、柱と一緒に鉄の板も赤く染まったのだと思っていた。でも実際には、ただただ赤錆びで表面が覆われていただけだった。


「なぁ、ルルガ。これっていつから錆びてるんだ?」

『篤紫ちょっと待って、そもそもサビって何なのさ?』

 あー、なるほど。

 この世界では、鉄が錆びるという認識がないのか。ただ、これがゴブリンのルルガだから、なのかは分からない。


 少なくとも、錆びて文字が消えかかっているのが、一番の原因のようだ。

 篤紫は、ため息をついた。


「錆を取るには、クリーンの魔法でいけるのだろうか」

『何となくだけど、磨けばいいんじゃないか? 上に行って道具を取ってこようか』

「いや、とりあえず魔法で試してみるよ」

 鉄の板に魔法をかけると、一瞬輝いた後に、流れるように錆が落ちていった。錆は床に落ちる前に、光の粒になって消えていった。

 久しぶりに魔法を使った気がする。


 自宅として使っている白亜城には、妖精コマイナに頼んでお風呂を設置してもらったから、クリーンもしばらく使っていない。

 他にも魔導水道に魔導コンロ、魔石灯……魔道具の方が、気楽に使える。

 魔法は使えるけど、習慣がないからどうしても魔道具に頼ってしまうわけで、だからいつまで経ってもまともに魔法が使えないのかもしれない。


『その魔法すごいな、篤紫が編み出したのか』

「これは、生活魔法の魔道具を使って憶えたんだよ。ルルガ達は、普段の生活で魔法を使わないのか?」

『オレはさっきの、ドワーフが使っていた家に色々魔道具があるから、ほとんど魔法使ってないな。

 他のゴブリンも、水は湖から汲んできてるみたいだし、薪も地下二階のコボルト達から買っているよ。

 服が汚れたら洗えばいいし、体だって水浴びすれば済むかな。

 魔法は、外敵から身を守るためにしか使っていないな』


「なんか、そういうのいいな」

 あるものを使って、その範囲で生活していく。当たり前のことだけれど、何か羨ましいと思ってしまった。

 それにここのダンジョンは、異種族で本来なら縄張り争いで敵対する相手であっても、仲良く手を取り合って暮らしている。

 地球だったら考えられない関係だ。


『グギャ? そうでもないぞ、けっこう不便だし』

 唇を突き出して眉をひそめているルルガを見たら、思わず吹き出してしまった。






 錆が取れた鉄の板は、滑らかに磨かれた表面が光り輝いて見えた。

 板の真ん中には、溶鉱魔炉の図面が描かれていて、それぞれの部位から引かれた線の先に魔術文字が描かれていた。

 一番下に箇条書きされているのが、全体の制御をするための魔術文なのだろう。


 思わず感嘆のため息が漏れる。

 魔術にこんな使い方があるなんて、想像すらしていなかった。

 接続されていれば、図面指定でも魔術が発動するのか。確かに、魔法現象を起こすのがナナナシア星のコアだから、コアが理解できる状態になっていれば問題ないのかもしれない。


「これは、かなり効率が悪い術式だな」

『グギャ? 篤紫には何が書いてあるのか分かるのか?』

「ああ、基本的に英語の単語が羅列されているだけだからな。おそらく、もっと具体的に記述すれば、かなり動作が改善されるはずだよ」

『エイゴ? 篤紫はたまに知らない言葉使うよな。やっぱりメルフェレアーナさんが認めるだけのことはあるんだな』

「あー、ははは」

 しまった、つい癖で英語って言ってしまった。魔術言語だな。

 気を取り直して、左手にスマートフォン、右手に紫の魔道ペンを握ると、溶鉱魔炉の改良にとりかかった。



「ここの、魔力付加値って、変更してもいいのかな?」

『それをオレに聞くか? さっき篤紫が捏ねた魔鉄ができれば、問題ないぞ』

「そういうことなら、この数値は原材料によって変わるようにしないと駄目だな。素材の性能が安定しないと、いい物が作れないぞ?

 ここは、元の材料によって性能にばらつきが出ないように、自動判別にしておくな」

『そういうもんなのか。それで頼むわ』



「この、魔力伝導効率ってのは?」

『あ、それならオレも分かるぞ、かなり重要だな。

 捏ねて形成するときの、イメージの再現性に影響があるぞ。細かい造形を作るためには、少しでも高い方がいいかな。

 あとは、単純に仕上がりの強度も変わってくるよ。魔鉄の純度が違ってくるんだと思うんだ。

 でも魔鉄なんて、せいぜい五パーセント位しか伝導率ないんじゃないかな。有名なミスリル銀でさえ、三十パーセントだって言うし』

「わかった、これも自動判別にしておく」

『もしかして、伝導率百パーセントの魔鉄ができたりしてな』

「はははは、まさか」



「この魔力保存値は、俺にも分かるぞ」

『なんだよ、オレにはわからないぞ? 説明頼むよ』

「文字通り、素材に魔力を貯めることができる容量値かな。

 例えば、この収納鞄とかがいい例だね。空間拡張の維持のために、魔術で魔力を貯めるようにしてあるんだ。そうしないと、魔力が切れた途端に袋が破裂しちゃうんだとか。

 その点、素材自体に魔力が貯められるなら、魔剣が打てるぞ」

『いいな、魔剣! 確かに伝説の魔剣が、そんな希少素材使ってるらしいぞ。それがお手軽にできるなら、世界が変わるなんてもんじゃない』

「よし、これも自動判別な」

『いいねいいね、やっちゃえ篤紫』



「あとは、追加のプレートで、色々な数値を手動入力できるようにして、完成かな?」

『すげえな、ほんとうに直ったのか。考えられないよ』

「これは後で上の壁面に付けるよ。手元で細かい数値を操作できた方が、何かと使いやすいはずだからな。

 それから、魔石が少なくなったときも、このプレートに表示されるよ」

『それはありがたいな、いつも突然動かなくなって、慌てて魔石入れに行っていたからさ』





 溶鉱魔炉に魔石を入れる様子を見ながら、大昔のドワーフが持っていた技術力に今さらながら感動していた。

 今は下の部分しか見えないけど、本体のどこにも継ぎ目がない精緻な作りだ。そもそも、この大きさの物を作れる技術力は、素直にすごいと思う。


 鉄は溶かしてゴミを分離した鉄を、加熱して初めて加工できる。

 それが、ここには必要ない。


 硬かった鉄が、魔力で粘土状に柔らかくなる。

 それを好きな形に形成して、仕上げにミスリルのハンマーで叩くと、一瞬で硬化するのだとか。まさに、魔法の神秘だ。


 それをここまで大きくして、作業効率を上げた。

 この設備が争いの種になるのは、当然のことかもしれない。それに、素材の原鉄がダンジョンから採れるわけだ。


『篤紫、準備できたよ』

 ルルガが笑顔で手を振ってきた。

 手元の第一起動スイッチを入れて、手を振り返す。それをうけてルルガが、第二起動レバーを動かした


 キイイィィィン――――――。


 甲高い音とともに、溶鉱魔炉が起動した。音とともに本体が淡く輝く。


「よし、ちゃんと動いたな」

『上に行って、精製できているか確認しよう!』

 作業場に戻ると、赤い溶鉱魔炉が淡く輝いていた。

 ルルガが鍛冶場からトレーを持ってきて、排出口の下に置いた。そして、ゆっくりと開閉レバーを操作した。


『グギャッ?』

「なん……だと……?」


 排出されて出てきたのは、虹色に輝く謎の金属だった。


謎金属が生成されましたが……。

すこし、やり過ぎたようです。

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