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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
五章 空の旅とコマイナ
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63話 溶鉱魔炉と魔鉄

いわゆる、古代の鍛冶工房に向かいます。

 細かい話は、新スワーレイド湖国の代表と直接話をすることになった。

 このあと、タカヒロさんとユリネさんはスワーレイド城に、メルフェレアーナとキングは白亜城に行って、会談の準備をするそうだ。

 篤紫がスマートフォンで妖精コマイナに連絡して、会談のために白亜城の一室を改築してもらうことになっている。

 まずは顔合わせ、と言ったところなのだろう。


 その後は、ここのダンジョンまで街道を延ばして、簡素な防護壁で囲う話になりそうだった。安定した交易ができるように、最大限配慮する事になるのだとか。

 これもまた、不思議な縁だなと思う。


「それでは私たちは、サラティに話をしてきますね。勤め納めには、ちょうどいい案件ですから」

「私も付いていきます。お母さんカレラのこと、よろしくお願いします」

 タカヒロさんとユリネさんが、話をまとめるためにダンジョンの出口の方に歩いて行った。


「ほら、キングも行くよ。妖精コマイナちゃんに話してこなきゃだから」

『はあ? 何だよそれ、メルフェレアーナが勝手に行けや。なんでわざわざオレが、しょうねえから行くが、出向かにゃいかんのだよ』

「相手はコマイナのダンコアだから、顔見せしておかなきゃ。そもそも、サブマスターとか設定していないんだよね?」

 メルフェレアーナとキングも、なんだか楽しそうにダンジョンから出ていく。でも……顔が整っているとはいえ、ゴブリンキングのツンデレはいらないよ……。


『うるせえな、コボルトとオークしかサブマスいらねってんだから、もう頼まれても他の奴らにはやらねぇよ。

 だいたいあいつら、サブマスやったのに全然管理しねぇんだぞ? 何でオレばっか忙しいんだよ。ふざけんなよ』

「あー、結構うまくやってるんだね……」

『はぁっ? んなわけねぇだろ。一階ずつやるから、いちいち喧嘩するんじゃねえって、追い出しただけだぞ?

 馬鹿じゃねぇのか、頭なんか下げてきたら、はっ倒すぞ』

「はいはい、わかったよ」

 口とは裏腹に、思った以上にキングは面倒見が良くて優しいのか。ほんとうに、ゴブリンに対する価値観が変わる気がする。


「それじゃ、篤紫さん。私たちは観光に行ってきますね」

「ああ、いってらっしゃい」

 ここが安全なダンジョンだと分かったからか、残った五人は再び街に繰り出すようだ。桃華とシズカさんが真ん中に入って、夏梛、ナナ、カレラちゃんと手を繋いで出かけていった。

 こうして篤紫は、ゴブリンのルルガと二人っきりになった――。





「あらためて、初めましてかな。篤紫です」

『おう、ルルガだ。そんなに硬くならなくていいからさ、気軽に喋ってよ。

 メルフェレアーナさんにはいっぱいお世話になったから、そのお友達なら大歓迎だよ』

 ルルガが笑顔で片手を伸ばしてきた。篤紫は少し屈むと、その手を握り返した。

 ごつごつした、少しひんやりとした手だった。握る強さに、何とも言えない優しさが感じられた。

 ルルガは満足げに頷くと、手招きして家の奥に歩き始めた。


『あんたも、オレのこと怖がらないんだな。

 人間の奴らが、稀に一階に迷い込んできてたけど、大抵が顔を見ただけで、敵意丸出しだったんだよな。

 そういう奴らに限って、オレが普通に声をかけただけで、飛び上がって逃げていったよ。失礼しちゃうよな』

 家の奥、おそらく工房に続いている扉に手をかけながら、ルルガが肩をすくめた。


『オレはよっぽど、人間の方が怖いと思うよ』

「ああ、確かにそれは言えるかもな」

 そういえば、この世界に来てから人間族と会話する機会がほとんど無かったな。スワーレイド湖国で襲ってきた騎士団と、シーオマツモ王国の冒険者キルドの受付以外に、ほとんど喋った記憶が無い。


『ほら、あそこが工房だよ。ドワーフが使っていた頃は、共同で使っていたんじゃないかな。

 見ての通り丸い建物なんだけど、たくさん入り口が付いているんだ』


 建ち並ぶ家の形に沿って、四角く空いた空間の真ん中に、巨大な円柱の建物が建っていた。

 周りの三面にはそれぞれ十軒ずつ家が建ち並び、左に見える一面には倉庫と思われる四角い大きな建物が建っていた。倉庫から工房には、高所を太いパイプで接続されていた。

 ここが工房か。もの凄い規模だ。


 円柱の工房の天辺には、一本だけ大きな煙突が立っている。

 周りを囲んでる家には出口が付いていて、それぞれの家からレンガ敷きの道が、円柱の工房まで延びていた。


「これはまたすごいな。共同の鍛冶工房なのか?」

『いま使っているのは、オレだけだけどな。

 たぶん、溶鉱魔炉を効率よく、安定して使うために考えられた形じゃないかと思うよ。地下一階に管理室があって、そこに魔石を入れる扉があったからさ』

 扉を開けると、個々の工房自体は隔離されていた。

 ルルガが作りかけだったのか、農耕具やノコギリのパーツがたくさん転がっている。


「これは全部ルルガが一人で?」

『ああ、下の奴らから注文が入るんだけど、色々めんどくさいんだよ。

 文句や苦情はないんだけど、壊れた道具を持ってきてって頼んでも、全然持ってこないんだよ。

 おかげでいつまで経っても、道具の改良ができないんだ』

「ああ、それは結構致命的かも」

『だろう? かといって、鍛冶向きの種族がいないから、人員を補充できないんだよな。悩みどころは、キングと一緒かも』

 思わず二人で、大声で笑ってしまった。





 個室の奥にある扉を抜けると、そこには大きな高炉が建っていた。これが、溶鉱魔炉なのか。

 イメージに反して、部屋はひんやりとしていた。


「これは、熱くないのか?」

『ドワーフの最高傑作らしいよ、熱をかけるんじゃなくて、魔力で鉄を柔らかくする魔道具なんだ。今は調子が悪くて、硬いのしか出てこないんだよね。

 オレには、魔術がうまく作用していないくらいしか、分からないんだ』

 ルルガががっくりと項垂れた。


 改めて近くに寄って、巨大溶鉱魔炉を見上げてみる。その側面には、びっしりと魔術文字が書き込まれていた。

 はしごを借りて、見えるところまで登ってみて、篤紫は頭を抱えた。


This wall will never break.


 びっしりと、上から下まで隙間無く、同じ文が刻まれていた。

 もしもに備えるにしても、これはやり過ぎだ。一文だけなら大した魔力がいらないだろうけど、これだけ大量に書き込まれていると、途端に魔力効率が悪くなる。


「なあ、ルルガ? いまこの溶鉱魔炉は稼働しているのか?」

『いや、しばらく前から止まったままだよ。魔石がすぐに空になっちゃうから、いまは止めたままなんだよ』

「それなら、この魔術文を一旦消去しても大丈夫だな」

『えっ、そんなことができるのか? 前に魔術が得意な奴に見てもらった時は、上から下まで見ただけで、横に首を振っていたぞ』


 普通なら、地面に設置している時点で魔術が通らないもんな。

 篤紫は腰元から紫の魔道ペンを取り出すと、溶鉱魔炉だけをイメージして魔術文字を描き込んだ。


For a moment only, erase all the text on the wall.


 ピリオドを打つと、溶鉱魔炉が一瞬光り輝いた。そして、描き込んだ魔術文字とともに側面に書かれていた文が一瞬にして消え去った。

 はしごを下りると、ルルガが大口を開けて固まっていた。


『な、なあ。今何をしたんだ? 魔術って接地してると、描き込みができないんじゃなかったか? てか、何でみんな消えたんだ?』

 確かにそれが、世の中の常識だったかな。そうか、オルフェナが魔術は最強だと言っていたのが、少し分かった気がする。


「接地していると、いまでも描き込みはできないと思うよ。

 とりあえず、ここの処理を終わらせるよ」

 腰元のスマートフォンを取りだして、翻訳アプリで長文を作り上げた。

 さて、描き込みますか。


Limited to magic furnaces, the color is red, and will not be degraded or damaged in the future.


 魔術文を描き込み、最後にピリオドを打つと、溶鉱魔炉が淡く輝き全体が綺麗な赤に染まった。

 やっぱり、赤はカッコいいな。これなら魔術がかかった範囲が一目で分かる。


 ルルガを見ると、もう完全に絶句していた。






「ルルガ、これはなに?」

 改めて溶鉱魔炉を直すために、地下に案内してもらう途中で、不思議なものを見つけた。

 作業台の上に、鉄色をした粘土状の物体が乗っていた。


『ああ、これ? これが溶鉱魔炉から出てきた状態の魔鉄だよ』

「ん? これって、粘土じゃないのか?」

『柔らかいから、触ってみてもいいよ。溶鉱魔炉がちゃんと動いていたときの残りかな』

「さわっても大丈夫なのか?」

『篤紫は心配性だな。触っても生暖かいだけだし、最後に仕上げ打ちをするまでは、どんな形にでも作り替えられるんだよ』

「ま、まじか……」


 恐る恐る触ってみる。指で押すと、粘土を押したときのように表面がへこんだ。温かくも冷たくもない、もしかして体温と一緒なのか。

 ルルガを見ると、笑顔で頷いてくれたので、少しちぎってみる。


「す、すげぇ……」

 思わず感嘆の声が漏れた。

 手でこねた感触は、まさに粘土だった。これが魔鉄。


『百年くらい前に作った、最後の魔鉄だよ。それ以後は、硬くてすぐにボロボロになっちゃうから、駄目だったんだよ』

 百年経ってもこの柔らかさなのか。

 確かにこの技術は、争いの種になる。メルフェレアーナがダンジョンごと隔離したのも、頷ける話だ。



 篤紫は魔鉄を戻すと、ルルガに付いて溶鉱魔炉の管理室に足を進めた。


まさに夢の金属ですね。

魔法世界ならではの技術です。


実は、失われた超技術の一つなのですが……。


ナナナシアの普通の鍛冶屋は、今まで通り鉄は加熱しています。

加熱だけなら、魔法で何とかできますからね。

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