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52話 シーオマツモ王国再生

コアの世界から戻ってきました。

朝まで時間が無いけれど……おや?

 コアの世界に移ったときのように、再び原始の音に包まれると、魔導城の最上階に戻っていた。

 部屋の真ん中には、コアが二つ並んでいた。

 ソウルコアもダンジョンコアも、いまは白く柔らかな光を放っている。見比べてみると、全く同じで見極めが難しかった。


 何とか全員無事に戻って来られた。お互いに顔を見合わせて、思わず笑みが漏れた。

 コアの世界では服が変わっていたリメンシャーレも、今は元の軽装に戻っている。巫女服、似合っていたのにもったいない。

 しかし長い間、コアの世界にいた気がする。


「さっきの話だけれど、継承の義と、シャーレがマナヒューマンやめた件。説明してくれないか――じゃない、時間無いじゃん!」

 途中まで言って、篤紫はその場で飛び上がった。


 そもそもが、時間が無い。明日になれば、また太陽が焼滅の光をまき散らしてくるじゃないか。

 今夜中に ダンジョンを掌握して城門を開けて、コマイナに魔導城を移さないといけない。

 朝までの時間は、正直ギリギリじゃないかと思う。


 コア同士の干渉で作られた世界は、一瞬のことだったのだろう。慌ててスマートフォンを取りだして時間を見ると、全く時間は進んでいなかった。


「レアーナ、急いで城門を開けたいんだけど、どうすればいいんだ?」

「えっ、城門は普通に開くと思うよ」

「えっ、なんで普通に開くのさ」

「えっえっ、だってここ魔導城だよ?」


 沈黙が流れた。一瞬頭が回らなかった。

 そうか、ここは魔導城。そもそもダンジョン側じゃないんだった。


「だったら、何とかなるな――」

 駆け出そうとした篤紫の服の裾を、桃華が掴んだ。勢い余って、その場に転んだ。したたか顔を打ち付けて、そのまま床にうずくまった。

 い、痛い……。


「あのね篤紫さん。シャーレさんが大事なお話があるって。

 さっきから声を掛けてるのに、一人で暴走するのは駄目ですよ。いつもならいいれど、今だけは駄目よ」

「ご、ごめんなさい。もしかしたらシーオマツモを再生することができるのではないかと、思っているのです」

 リメンシャーレが申し訳なさそうに、眉をひそめていた。

 オルフェナがスッと、夏梛の腕から抜け出してきた。蹲っている篤紫の顔をじっと覗き込んだ。


『のぉ、篤紫はもう少し人の話を聞いた方が良いぞ。

 どうも篤紫は勘違いしておるようだが、ここはあくまでも他国だ。コマイナであれば、篤紫と桃華の権限で大抵のことは赦されるだろう。

 だが、この魔導城の主はメルフェレアーナであり、リメンシャーレなのだぞ。正規の手続きなしに、好き勝手に事を起こしてはならん』


 ハッとした。いやそれは、確かに自分が間違っているな。

 篤紫は、両頬を叩いて起き上がり、その場で正座した。

「ごめんなさい」

 そして、ちゃんと謝った。


「いえっ、そ、そこまでしていただかなくても――」

「あー、オルフェナちゃん言い過ぎだよ!」

 メルフェレアーナとリメンシャーレが慌てて、篤紫を止めにかかった。

 結果的に場の空気が変わった。


 でも確かに、出しゃばりすぎちゃ駄目だよな。

 それでも優しい城主たちに、頭が下がる思いだった。






 おとうさんが、やっと大人しくなった。今回は、しっかりと反省しているみたい。

 でも気持ちは分かるよ。ずっとあたし達を引っ張ってきてくれたから、今回も何とかしなきゃって。一生懸命に考えているのは知ってた。

 でも、オルフの言うことも分かるんだよね。


 桃華がいつものようにキャリーバッグから、テーブルとソファーを取り出した。お皿を並べて、モンブランケーキを乗せる。

 ティーカップも取り出し、いつものように紅茶を淹れた。今日は爽やかな花の薫りが漂っている。


 いつも思うけど、こういう時のおかあさんって、手際がすごくいい。

 みんなも、ほっとするのかな。自然とソファーに座っていく。


 夏梛はみんなが席に着くのを見ながら、オルフェナを抱え上げた。

 そして、そっと篤紫の隣に座った。


『シャーレには、何かいい案があるのだな』

「ええ、ここにあるソウルコアとダンジョンコアが、共鳴しています。

 感覚的にダンジョンコアの効果が、国壁まで広がったようなのです。今なら、国民も避難しているので、都市を丸ごと再生できます」

『ふむ、となると――』

 オルフェナが、メルフェレアーナに目配せをした。


「うん。いいんじゃないかな、シャーレならできると思うよ。

 両方のコアに触れながら、国のあるべき姿をイメージすれば、大丈夫じゃ無いかな?

 問題は、魔力が足りるかどうかだけど」

「母上、それならば問題ありません。

 継承の義で、魔力が一億超えて、種族もマナヒューマンからメタヒューマンに変わりました。今から始めれば、朝には国壁と魔導バリアまでならば修復可能です」

 リメンシャーレは、しっかりと頷いた。

 それを見た桃華が、おもむろにキャリーバッグを喚びだし、中から巫女服を取りだす。

「シャーレさん、はい。勝負服をどうぞ」

 全員の動きが止まった。






「ね、ねぇ桃華? それ、コアの世界でシャーレが着ていた服よね?」

 メルフェレアーナが眉間を揉んでいる。無理も無い、あの世界から物を持ち出すなんて、桃華ぐらいしかできない。

 当然のように、巫女服を受け取ったリメンシャーレは、エレベーターに乗って自室に着替えに行った。心なしか、後ろ姿が嬉しそうだ。


「ええ、そうよ。さっき近くにいた人に聞いたら、控え室にいっぱいあるから、持って行ってもいいって言っていたの。

 いっぱいあったから、百着ぐらい持ってきたかしら?

 ほら、神楽鈴もあるわよ」

 なんとも、いつもながら行動が読めない。 しかし桃華はいつの間に、巫女服を取りに行っていたのだろ う?


「それからこれ、今のうちにレアーナちゃんの魔力を込めておいて」

 桃華はキャリーバッグから、篤紫にもらった紫水晶を取りだした。びっくりして、目を見開いているメルフェレアーナに手渡した。


「きっと、今ここで必要なものだと思うの。篤紫さん、いいかしら?」

「ああ。コアの世界から持ってきた物なら、ここで使うのが筋だと思うよ。

 きっと、意味があるはずだし」

 それに桃華に渡した物だ。紫色の魔晶石なら、また二人で作ればいい。ちょっと生活魔法を暴走させるだけだし。


「ええっ? ちょっ、待ってよ。これ、神晶石じゃない!

 紫色の魔晶石って、そもそもこの世に存在していないんだよ? 初めて見た、これすっごい物じゃない。あなたたちなんて物、持っているのよ」

 メルフェレアーナが興奮しながらも、手渡された神晶石に魔力を込めていく。心なしか、手が震えているようだ。

 神晶石は貪欲に、魔力を吸っている。メルフェレアーナの額に汗が滲んできた。


「あら、それ神晶石って言うのね。でも、レアーナちゃんはもう前に見ているわよ?

 ほら、妖精コマイナちゃん、あの子の中にも入っているのよ」

 ああ、そう言えばダンジョンコアに入れていたっけ。

 今のコマイナが空を飛べるのも、そのおかげだもんな。


「はえっ? そ、そんなの聞いていないよ。

 どうりで、コマイナのダンジョンコアが高性能化していたわけだ……」

 目を見開いたメルフェレアーナは、驚きのため息をついた。





「こ、これが伝説の神晶石……」

 巫女服に着替えて戻ってきたリメンシャーレは、手渡された神晶石を見て感嘆の声を漏らした。恐らく、それほどの価値があるものなのだろう。

 作った本人たちには、全く感動は無かったけれど。また、作れそうだし。


「シャーレ。それに魔力を込めながら、ソウルコアとダンジョンコアの間に持って行くといいよ。たぶん、あるべき姿に変化するはずだよ」

「はい、母上」

 リメンシャーレが、両手で神晶石を持ちながら、ゆっくりとコアの間に歩いて行った。

 間にかざすと、ゆっくりと浮き上がり淡く輝き出す。


 そして、弾けるように広がった。


 それは、紫色の蔦だった。ソウルコアとダンジョンコアを包み込むように、籠状に変化しながら、下からコアを支える形に編み上がる。

 蔦はそのまま、下にある土台に巻き付きながらその外側に、二つのコアを囲むように鳥籠状のガゼボに組み上がった。

 神秘的な、紫色のガゼボだ。


「うわぁ、すごいね……」

『ふむ、びっくりだな。ここまでの変化をするものなのか』

「あら、これって、西洋のお庭によくある東屋よね? 私のイメージが反映されちゃったのかしら」

「ああ、桃華って洋風の建物が好きだったからね……」


 ガゼボの中で、リメンシャーレが、両手をそれぞれのコアにかざして、魔力を注ぎ始めた。

 徐々に、ソウルコアとダンジョンコアの輝きが強くなっていく。

 合わせるように、紫色の蔦も一緒に輝き始める。


 魔導城が変化を始めた。


 屋根を支える柱だけを残して、周りの壁が消えていく。部屋から漏れる光が、暗くなった夜の闇に染みるように溶け込んでいった。

 徐々に魔導城が、光り輝き始めた。夜の暗闇を明るく照らし出す。


 光はそのまま地面を波紋のように伝播していき、崩れていた城壁を激しい輝きとともに立ち戻らせた。

 さらに光は広がっていく。

 市街地と穀倉地を伝播、破壊された国壁に辿り着くと、輝きながらゆっくりと、ゆっくりと国壁がせり上がっていく。

 それは、揺るぎなき再生の力。


 動き出したコアは、リメンシャーレが魔力を注ぐのをやめても、輝き続けた。それを見たメルフェレアーナが、ニヤッと笑った。

「これはね、キャッスルコアって命名しようかな」


 自立稼働を始めたため、桃華が取りだした布団を床に敷いて、みんなぐっすりと寝ていた。

 朝からハードだったから、無理も無い。


 光の波紋は、夜通しで流され続けた。

 朝日が昇る頃には、国壁が元の形に戻っていた。


 そして太陽が、焼滅光線を照射しはじめた。


新生シーオマツモ王国ですね。

次話は、避難した人たちが戻ってきます。

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