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51話 コアの記憶

光に包まれて、場面が飛んだみたいです。

 優しい音色が鳴り続いていた。

 鈴のようなその音は、心の奥にある記憶を呼び覚ます。



「あつしくん、おはよう。難しい顔してどうしたの?」

 この子は誰だろう。

 おかっぱ頭に、クリクリの瞳。無邪気な笑顔で、篤紫の顔を覗き込んできた。視界には、沢山の杉の木が空に向かって伸びていた。

 ここは……どこだ?


「あー、待ち合わせに遅れたの、そんなに怒ってるんだ。

 今日はたまたま、あつしくんの方が早かっただけじゃん。いつもはそこに座って待ってるの、あたしなんだからね」

 篤紫はベンチに横になっていたみたいだ。スッと起き上がる。

 なんだろう、視界がやけに低い。自分の手を見ると、子どもの手だった。


 周りを見回す。

 そこは神社の境内だった。朱色の鳥居がまだ新しい。

 同じように真新しい社が、周囲の景色から浮いていた。

 この神社は記憶にある。幼少期に住んでいた街に、その神社はあったはず。


 社が新築という以外は、ありふれた神社だったと思う。

 街おこしかなんかで、みんなでお金出し合って、長らく寂れていた社と鳥居を新しくした。

 跡継ぎがいなく、長い間歴史に埋もれていた神社を復活させたのが、自分の父親だった。自身を魔法学者とか語っていて、同級生の笑いのネタにされていたっけ。


「んもう、聞いてる? あつしくんってば」


 女の子が頬を膨らませている。

 これは、過去の自分の追憶なのか?


「ごめん、ももかちゃんのこと考えていた」

 意図せずに、口から声が出た。

 ……ももか? 桃華なのか?





 鈴が鳴る。

 静謐だった境内の空気が、少し温かく柔らかくなる。


「そっか、このとき既に出会っていたんだね。篤紫さん」

 声色が急に変わった。いつも聞き慣れている声。ふわっと微笑む少女の顔には、桃華の面影がしっかりと感じられた。


「桃華? いつから、気づいていたんだ?」

「最初から……かな? 喋れたのは、今よ。

 ここ、懐かしいわね。

 篤紫さんのお父さんと、私のお父さんが一生懸命、みんなを説得して再生させた神社よね」

「ああ、境内は広いのに社が小さかったんだっけか。

 神社は、あの後どうなったんだ?」

「篤紫さんが引っ越していってすぐに、土地自体が国に接収されたわ。

 高速鉄道が通るとかで、もうかなり前から決まっていたみたい。

 みんな分かってて、再生させたのだと思うわ」

「そっか、この神社があったから、桃華に渡す贈り物が、ランクアップしたんだっけ」

「ふふふ、そうね。とっても嬉しかったわ」


 明るかった境内が急に暗くなった。

「そう、あの時も確かこんな感じだったよな」

「ええ。紫電なんて、初めて見たもの」


 ジジジ……ジジ……ジジジジジ――。


 鳥居が紫電を纏い始めた。遅れて、社にも紫電が纏わり付いた。

 徐々に紫電は勢いを増し、鳥居と社の間を、紫色の雷が乱れて飛び交う。

 薄暗かった境内が、白紫色に染まった。


 篤紫は、ズボンのポケットから丸い水晶を取りだした。

 そして前に掲げる。

 周りを飛び交っていた紫電は、篤紫の手元にある水晶に向かってゆっくりと収束していった。水晶が濃い紫に染まる。


「桃華に、思い出にプレゼントを渡そうとして、こんな風に掲げたときだったかな。こんな風にいきなり紫電が発生して、水晶に吸い込まれていったよな。

 さすがに自分も何が起きているか分からなくて、固まっていたっけ」

「そうね。目の前で紫に染まっていく水晶、綺麗で、神秘的で、思わず見とれていたわ」

 紫電が全て、水晶に吸い込まれた。

 周りに明るさが戻ってきた。篤紫は紫に染まった丸い水晶を、桃華に手渡した。


「ありがとう、あの時も今と一緒。とっても嬉しかったわ。

 でもあのあと、引っ越しをするって聞いて、すぐ悲しくなっちゃったけど」

「ごめん。自分の宝物を手渡すことで精一杯だった」

「もらった水晶ね、大切に箱に入れて、抱きかかえて寝たの。

 でも何故か次の日には、箱の中から無くなってて、一週間くらい探しては泣いての繰り返しだったわ。

 結局、最後まで見つからなかったけど……」

「そんなことがあったのか、こんどは無くさないようにな」

 桃華は頷くと、いつものキャリーバッグを呼び出して、中に収納した。


 ……まて、なんでそのキャリーバッグはここまで来るんだ? 恐らく、ここは記憶の中なんだろ?

 もしかしたら夢の中かもしれない。


 さすがに、桃華のキャリーバッグは規格外が過ぎないか。

 篤紫は、子どもの姿のまま頭を抱えた。





 再び、鈴が鳴る。

 一緒にシャンシャンと、神楽鈴の音も合わさる。

 霧が出てきて、視界が真っ白に染まっていった。


 篤紫は、慌てて桃華の手を握った。引き寄せて、抱きしめた。

 桃華もそっと腕を回してくる。


「これって、記憶の中なのよね?」

「だと思う。夏梛やオルフ、レアーナやシャーレの姿が見えないのが、少し心配だけれど」

「夏梛にはオルフがついているから、大丈夫よ」


 濃く纏わり付いていた霧が、徐々に薄くなっていった。

 霧が晴れると、景色が変わっていた。


 荘厳華麗な社の前に、立っていた。さっきの神社よりも遙かに大きく、そして煌びやかな場所に転移されていた。

 お互いそっと、腕を解いた。


「こりゃまた、立派な社だな」

「ええ、篤紫さんと全国の神社寺社巡りをしたけれど、ここまで立派な場所は見たことなかいわね」


 広大な敷地は、白い玉石が敷き詰められていた。

 四方を囲む白壁には、金と朱を使った精緻な模様が描かれていて、視界に沈みそうになる白壁を際立たせていた。


「あ、ねえ。体が戻っているわ」

 子どもだった体は、いつもの大人の体に戻っていた。服装も、レイドスさんのところで買った街服に戻っている。

 魔法を使うと、光の玉が手のひらに浮かんだ。大丈夫、世界は変わっていないな、ちゃんと生活魔法は使える。


「これは、社に入るしかないのか」

「そうみたいね。周りの壁には扉がないし、きっとここでも何かを為さないと、次に進めないんじゃないかしら」

「よし、覚悟を決めるか」

 篤紫と桃華は、うなずき合うと社の扉をゆっくりと開け放った。





 鈴がゆっくりと鳴り響く。合わせるように神楽鈴がリズムを刻む。

 笛の音色も、かすかに聞こえてくる。


 扉を開けた先は、帳で仕切られていた。帳の合い目から、ゆっくりと中に入った。

 空気が張り詰めている。篤紫はそっと、桃華の手を取った。お互いに目配せをすると、奥へ進んでいく。


 幾重にも重ねられている帳を縫い、奥へ進んでいくと、突然視界が開けた。


 たくさんの人が、奥の舞台に向かって座っていた。

 雅楽がゆったりと流れている。

 

 中心の舞台では、巫女服のリメンシャーレが舞っていた。神楽のリズムに合わせて、神楽鈴を揺らしている。

 舞台の縁には、メルフェレアーナと、オルフェナを抱えた夏梛が佇んでいた。


「(おとうさん! おかあさん!)」

 目を見開いた夏梛が、口を動かすのが分かった。

 夏梛はゆっくりと舞台の脇に下りると、静かに駆け寄ってきた。


「ねえ夏梛。もしかしてここは、ソウルコアの記憶かしら?」

「え、おかあさん。いきなりナニ?」

 桃華が、夏梛を固めた。


「ここには、シーオマツモ王国の歴代の王や女王が座しているようね。この厳かな空気は、継承の義かしら?

 見て、遠い方の人から光の粒になって天に昇っていくわ。一部がシャーレさんに吸い込まれているみたいね」

 篤紫も固まった。桃華が起動した。

 さすがに、現在進行形で儀式が進行しているなんて、完全に想定外だ。

 ほら、オルフェナですら目をまん丸にしてるよ。


 儀式は厳かに進んでいった。

 桃華が言うように、外縁から徐々に光粒化していく。雅楽が終わる頃には、舞台の周りは誰もいなくなっていた。


「終わったみたいだな」

「そうね、行きましょう」

 静かに余韻を待っている舞台に、ゆっくりと近づいていった。





「シーオマツモ王国の女王継承の義が終わりました。ありがとうございます」

「こんなやり方があったんだね。ソウルコアにダンジョンコアを混ぜると、すっごい化学反応を起こしたよ」

 メルフェレアーナのテンションが異様に高い。


 ちなみにリメンシャーレは巫女服のままだ。


 あの後、最初からこの舞台に出たらしい。

 いつの間にか巫女服を着ていたリメンシャーレは、メルフェレアーナに煽られるまま、舞台で舞を披露したようだ。

 メルフェレアーナなにやってんのさ。


 結果的にシーオマツモ王国のソウルコア継承の義だったわけで、リメンシャーレは正当な継承権を得たと。


「それはいいんだけど、何かが違うのか?」

「たぶんね、シャーレはマナヒューマンやめちゃったんだと思うんだ」


 は? ここで爆弾投下ですか?


 メルフェレアーナの横で佇むリメンシャーレの顔を見た。

 赤かった瞳が、黒に変わっていた。


次回、シーオマツモ王国が再生するとか、しないとか?

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