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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
一章 スワーレイド湖国
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5話 切実な問題

スワーレイド湖国には入れたけど、どうやら問題が発生したようだ……

 入国審査を無事終えて、正式にスワーレイド湖国の街に入ることができた。

 既に、時刻は夕方になろうとしていた。

 辺りが徐々にオレンジ色に染まっていく。


 北門から続く大通りが遙か向こうの西門までまっすぐ伸びている。

 道幅は車が四台くらいは並んで走れるだろうか、左右には様々な商店街が軒を連ねていた。

 左から馬車が速度を落として大通りを横切っていく。

 この世界の運送の主力は馬車なのだろう。


 街頭に明かりが灯る。

 あれは魔法の力なのだろうか?

 よく見ると、ガラスの中にある石が発光していた。

 夜が近づいてきていた。



「おとうさん、おなかすいたよ……」

 夕飯の買い物客が賑わう街並みを、三人は手をつないで歩いていた。

 夏梛のおなかが空腹を訴えて『く~』と鳴った。


 朝から車で移動していたため、おやつ程度しか、持っていなかった。午前中にコンビニで調達した食べ物も、お昼に全部食べてしまっている。

 まさか、こんな異界の地に辿り着くなんて、想像すらもしていなかった。

 桃華が鞄の中にあった飴を夏梛に渡していた。



 さらに、切実な問題に直面していた。


 お金が無い。


 遊びに行くために財布には、昨日のうちから紙幣をたくさん用意してあった。

 しかしここは見た目は日本の土地だが、どう見ても日本では無い。

 少し前に屋台を覗いたときに、使われていたのが鉄色と銅色の硬貨だった。

 その後、他の商店を覗いても紙幣は使われていないことが確認できた。

 どうやら通貨としては、硬貨が使われているようだ。

 つまるところ手持ちの紙幣など、まさに紙くずというわけで……。



「篤紫さん、百円玉と十円玉があるけど使えるかしら?」

 噴水がある公園のベンチに腰掛けて、それぞれの財布を覗いていた。


「おとうさん。わたしも、細かいお金持ってるよ」

「見た感じ、使えたとしても銅色の十円玉位じゃないかな。百円は鉄じゃ無いから、すぐに分かると思う」

「え、そうなの? それは知らなかったわ」

 篤紫の指摘に、桃華ががっくりと肩を落とした。


 全員の所持金を見て、使えそうな気がするのは、銅色の十円玉だけ。

 当然ながら本来一番価値のあるはずの紙幣は全滅だし、他の貨幣はみんな合金だ。

 手持ちの十円玉は三十枚あったが、それが実際にどのくらいの価値があるのか分からない。

 そもそも、日本のお金が通用するのだろうか?


 ここは地球型の異世界、もしくは並行世界であることは確定している。

 そして、家族三人が生活する基盤が全くない状態だった。


 元の世界であれば、持ち家に仕事もある。貯金もある。

 でもここでは何もない。

 この時点で無職かつ、所持金無しに等しい。

 篤紫はまた頭を抱えた。すでに今日、何回頭を抱えたか分からない。





「大丈夫ですよ、せっかくの縁ですから」

 結局、北門の衛兵詰め所に戻ったところ、ちょうど仕事を終えたユリネさんが声をかけてくれた。

 よほど、困った顔をしていたのだろうな。


 事情を話したところ、今夜泊めてもらえることになった。

 もし篤紫一人だけだったら、どこかの公園で、一晩過ごしたかもしれない。ただ、家族が居る状態では、ままならなかった。


 ユリネさんの同僚の人たちも、何か困ったことがあったら気軽に声を掛けてくれよ――と、去り際に声を掛けてくれた。

 たしか、ヘルウルフから助けてくれた人たちだ。

 みんなの優しさに、少し涙が出てきた。




 ユリネさんの自宅は北門から一時間ほど歩いた郊外にあった。

 明かりを持つユリネさんに先導されて、三人は手を繋いで歩いていた。


 都市計画で盤の目に作られた城下町とは違って、適度に残された自然と、のどかな風景が見られますよ……と、ユリネさんが説明してくれた。

 とはいえ既に夜、当然ながら薦められた景色は望めなかった。


 さすがに郊外ともなると、道中には街灯もかった。

 家の明かりも、距離が離れている。雰囲気が日本の田舎に似ていた。

 ユリネさんの手元にある、魔石ランタンだけが、進む先を照らしていた。


 冷たい風が吹いている。

 世界が違っても、季節は一緒みたいだ。




 ユリネさんの家に着くと、リビングではユリネさんの家族が、夕食の準備をしているところだった。

 恐縮する白崎家の三人を、暖かく迎えてくれた。


「お世話になります、篤紫と言います。こっちが妻の桃華、娘の夏梛です」

「あらためて自己紹介をしますね。わたしはユリネ、周辺警備隊の第三部隊長をしています。

 わたしの家族ですが、こちらが夫のタカヒロ、そして娘のカレラに母のシズカです」

「初めましてタカヒロです。タナカ家へようこそ、歓迎しますよ。

 妻と義母の手料理です、是非召し上がってください」


 夕食の机を囲んで、ユリネさんが簡単に経緯を説明してくれた。

 ヘルウルフに襲われていたこと。資金がなく、困っていたこと。家へ誘ってくれたのも、篤紫たちが家族だったことが、大きかったそうだ。

 もし一人なら、詰め所で一晩位なら泊められたのだとか。


 いずれにしても、ありがたい話だった。



 急な来客にもかかわらず、食卓にはたくさんの料理が並んでいた。

 それはよく知った日本の家庭料理だった。


 肉じゃがに唐揚げ、カボチャの煮物、ひじきの煮物、鳥と牛蒡の煮物。

 極めつけは、豚汁……味噌汁に、白いご飯がでてきた。


 気がつけば篤紫は涙を流していた。

 横を見ると、桃華と夏梛も涙を流している。

 こんなの反則だよな。気がつけば3人とも声を上げて泣いていた。


 後から考えたらすごく恥ずかしいことなのだけれど、緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 突然のことに、タナカ家の面々に心配されながらも、流れる涙を止めることができなかった。





 食事の後、夏梛とカレラちゃんは 歳が同じ十歳ということで、すぐに意気投合したようだ。

  カレラちゃんの部屋へ二人で遊びに行っていた。



 篤紫と桃華は、最初は気まずかったものの、自分たちか把握している現状を 、朝からの経緯を交えながら、正直に話をした。

 自分たちがおそらくこの世界の住人では無いこと、住む場所も無く、世界が違うため、お金をもっていないこと……。

 


「お話によると、篤紫さんたちは人間族では無く、我々と同じ魔族であるとのことですが?」

「ええ、どうやらそのようです」

 篤紫の答えにタカヒロさんは何回かうなずいた。


「魔族であれば、スワーレイド湖国の移民政策で、住居と初期資金の援助が受けられますよ。

 現状として人間族の国では、魔族があまりいい扱いを受けていません。

 なので、魔族に対しては、国策で移民の受け入れをしています」

 それは、とってもありがたい話だった。

 いずれにしても、住む場所と、生活のための仕事を探さないといけない。


「人間族の国の中には、魔族に理解をしてくれる国もあります。

 近いところでは、シーオマツモ王国が、我が国と同盟を結んでいます。


 ですが、ウエトー・コモザク共和国やコーフザイア帝国などは、明らかに敵対していますね。彼の国にとって、 魔族は魔獣などと同列に捉えている節があります」

 それで最初、北から来た自分たちを、異様に警戒していたのか。

 ソウルメモリーを作ることで、出自も分かり、敵ではないと確認してもらえた。本当に薄氷を踏んでいた状態だったのか。


「妻の話で、ソウルメモリーの登録も済んでるようですから、明日にでも申請手続きに王城に向かいませんか?」

「いいのかしら? タカヒロさんには、お仕事もあるでしょう」

 桃華が申し訳なさそうに応えた。

 願っても居ない提案だけど、これ以上甘えるのも、さすがに悪い気がする。


「いいえ、大丈夫ですよ。こう見えて、政務事務の仕事をしていますから。

 むしろ、王城に勤めているのですよ。移民受け入れの手続きは、本職の仕事でもあります」

「そう言ってもらえると、助かります。明日もよろしくお願いします」

 篤紫は、深く頭を下げた。


「魔族は出生率が低いので、国民が増えることはとても大切にな事なのですよ。こちらこそ、よろしくお願いします。


 今日はいろいろあって疲れているでしょう。客間の布団ですが、ゆっくり休んでください」

 タカヒロの言葉に、篤紫と桃華は深く頭を下げた。





 案内された客間は、何と畳敷きだった。

 既にユリネさんの心遣いで布団が三枚敷かれていた。


 リビングや廊下は外から入って靴のまま。それぞれの部屋の入り口で、靴を脱ぐスタイルは、とても斬新に思えた。

 日本では、ホテルなどで似たようなスタイルがあるけど、大抵の一般家庭では玄関で靴を脱ぐのが普通だったはず。


 ともあれ、畳の部屋は日本人として、段違いの安心感を感じた。

 篤紫と桃華は、お互いに顔を見合わせて、ほっと一息ついた。


 何故、この世界に来たのか分からない。

 もとの日本、もとい地球に帰れるのかすら、分からない。

 でも、家族が居る以上、まず生活基盤を整えることが優先されると思う。


 これは、普通の異世界転移より、遙かに敷居が高いな――。




「おとうさん、おかあさん! みてみてっ」

 カレラちゃんの部屋に行っていた夏梛がふすまを開けて飛び込んできた。

 後ろからニコニコ顔のカレラちゃんも着いてきていた。


「どうしたの、夏梛……えっ……?」

「……は?」

 篤紫と桃華はその場で固まった。


「見て魔法使えるようになったよ、光の玉を作れるようになったよ!」

 カレラちゃんと二人で客間を飛び回っている、夏梛の手のひらには、確かに光の玉がフワフワと浮かんでいた。


 夏梛は魔法使いになったようだ。


ま、魔法少女だ(ぇ

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