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48話 上下逆さまの世界

篤紫は魔道具を作り始めた。

 テーブルの上には、紅茶が入ったカップが並べられ、苺のショートケーキがお皿に乗せられていた。

 今日は、同じ紅茶でも種類があるのか、ポットか四つ置かれている。


 女性陣が優雅にお茶を楽しんでいるのを見ながら、篤紫は床に広げた魔導布の上で魔道具を作っていた。


「篤紫さん、お茶が冷めちゃうわよ。そのへんで、一休みした方がいいんじゃないかしら」

「そうだよ、おとうさん。苺のケーキ美味しいよ?

 あたしの分が終わっちゃったから、おとうさんの分もらってもいいかな? もらうね、ありがとう」

「こうやって見ると、やっぱり作業が早いよね、篤紫って。ライ○ーベルト、もう一個で全員分を作り終わるよ」

「母上、ライ○ーベルトはあのようなデザインなのですか? お話でしか聞いたことがなかったたのですが……イイですね」

『ふむ。どうやらデザインは元祖を踏襲しておるようだな。

 最近の物だと、ベルトに追加でアイテムを装着することで、変身の属性を変えることができるから大変だ。

 我も、篤紫が流す動画を、車ながら楽しんで見ていたな』


 篤紫は作業の手を止めて、姦しい奴らをにらみ付けた。口元がにやついていて、いまいち迫力がない。


「変身はしないぞ? 重力制御で落ちないようにするだけだぞ?

 そもそも、警戒していてほしいと、頼んだと思うんだけど。みんな気を抜きすぎだと思うが」

『大丈夫だ、先ほどは油断したが、索敵の精度を上げているからな。

 それにこう見えて、みんな警戒しておる。

 レアーナなんぞ、篤紫が作業の間だけ貸した銃型魔道具を、喜んで意味もなく振り回しておるぞ』

「ああぁぁ、危ないから、それだけはやめといて」

 などと、多少のトラブルがあったものの、心配していた敵襲はなかった。


 そうやってみんなで騒いでいるうちに、重力を制御するベルトが完成していく。革のベルトに、小物入れを取り付けた簡素な物だ。

 そうしてできあがった小物入れ付きベルトには、大量の魔術文字が刻み込まれていた。


 その八割くらいは、もしもの時に安全を確保するための術式だ。宙を飛ぶからね、絶対の安全確保は制作者としての義務だ。

 最終確認を念入りにして、みんなにベルトを渡した。オルフェナだけは首輪だったけれど。


「それぞれ腰に装着してベルトに魔力を流すと、重力の影響を無くす事ができるよ。

 いわゆる、無重力の状態になるんだ」

『篤紫よ、どう見ても我のは腰に巻けないと思うのだが』

「オルフは首だよ! 珍しくボケたな」


 全員が装着したことを確認すると、篤紫は自分のベルトに魔力を流した。

 独特の感覚とともに、重力から解放されてフワリと浮いた感じに、体勢が不安定になった。


「あとはこんな風に、風の魔法を進行方向と反対に発動させれば、簡単に移動することができるはずだよ。

 慣れれば、自由自在に動けるんじゃないかな?」

 これなら、生活魔法程度の風でも十分に移動が可能だ。


 銃型魔道具を持って、周りを警戒する。メルフェレアーナは最後まで返すのを渋っていた。どれだけ好きなのよ。

 徐々に慣れていくみんなを見ながら、篤紫は大きく息を吐いた。

 やっぱり、適応力は夏梛が頭一つ出ているな。


 身体に風を纏ったまま、自由自在。楽しそうに踊っている。

 この世界に来て、最初から魔法の扱いは上手かったけど、あそこまで行くと持って生まれた才能だな。

 魔法で飛べるメルフェレアーナですら、方向制御のたびに風を打ち出しているから、本質からして違うのだろう。


 ひとしきり練習して、みんなが慣れたことを確認する。

 全員で頷き合い、床の入り口から逆さ魔導城に足を踏み入れた。






 そこは、まさに逆さまの世界だった。

 一旦、シャンデリアまで下りると、そっと手で押してみる。

 シャンデリアは立ったまま、ゆっくりと振り子運動を始めた。こんな所まで、緻密に作ってあるのか。


「ここまで再現されているのは、ある意味すごいよね」

『今のところ、探査には何も引っかからないな。ダンジョン自体には魔力を感じるから、油断は禁物だが』

 上を見上げると、いつの間にかダンジョンの入り口が閉じていた。

 石碑が動いたのだろうか? 戻るときは、また開ければいいのかな。


 シャンデリアを離れ、周囲を警戒しながらゆっくりと進む。

 あまりにも静かだ。


「レアーナ? こういう場合、ダンジョンコアがある場所は、表の城のソウルコアがあった場所と同じ位置だよな?

 さっきはエレベーターを使ったけど、他のルートはあるのか?」

「えっ、なんで? エレベーター使えばいいじゃん」

「ここはダンジョンだから、さすがにエレベーターは危ないと思うんだ」

 ふくれるメルフェレアーナを、何とか落ち着かせる。


『確かに、ダンジョンマスターが顕れた事から考えると、エレベーターなどは、罠が張ってある可能性がは高い。

 扉なども慎重に調べながら、階段を使って下りていった方がいいだろうな』

「ちぇっ、わかったよ。今回だけだからね、次はちゃんとエレベーター使うんだからね」

「は、母上……」

 リメンシャーレが呆れて絶句する中、ふくれ顔のメルフェレアーナは、謁見の間を指さした。


「一階の謁見の間。それから二階……ここだと地下二階か。執務室の奥に階段があって、次の階に進むことができるよ。

 謁見の間にも、エレベーターあるからね? 使ってもいいからね?」

 距離から考えると、執務室経由の方が次の階に近いように見える。


「ちなみに、魔導城は何階まであるんだ?」

「んとね、確か十階建ての建物だったよ。階段だと大変だったから、エレベーター付けたんだよ。

 ……ねぇ、聞いてる?」

「とすると、ダンジョンコアはここから地下に、あと八階か」


 階段経由だと、意外と厄介なんだな。

 篤紫が地思案していると、誰かが後ろから脇をつついてきた。

 振り返ると、桃華が笑顔で立っていた。


「篤紫さん、天井を見てみて。あそこに避難していた人たちの、血の跡まで再現されているわ」

 仰ぎ見ると、血の跡も、忘れていった布きれまでも天井に張り付けられていた。

 これが逆さまじゃなかったら、あっさりと騙されていたかもしれない。


 ダンジョン、恐るべしだな。





 執務室には、鍵も罠もかかっていなかった。

 世界を転々としていたから罠にも詳しいだろうと、メルフェレアーナに任せたのがそもそもの間違いだった。


「えーいっ!」『ドガゴーーーーン』

 可愛らしいかけ声とともに、扉が蹴り開けられた。


 弾け飛んだ扉は派手な音とともに、その奥に並んでいた机を乱暴にはじき飛ばした。

 散らばる書類は、激しく舞い上がり、天井に向かって落ちていった。そのまま扉は、奥のエレベーターに突き刺さって止まった。



 全員、唖然として、その場にフリーズした。

 扉を調べて、鍵の有無を確認、薄く魔力を流して罠の有無を調べる――そんな流れを想像していた。


「あの……レアーナさん? いったい……なにを、してるのかな……?」

「うん、先手必勝だよ」

「んな馬鹿なーーーーっ!」

 篤紫はその場で頭を抱えた。




 逆さの世界は、物の落ち方も徹底していた。

 全ての物が天井に向かって落ちていく。試しに天井の物を床まで引っ張り下ろすと、手を離した途端に天井に落ちていった。


 もしかしたら、ベルトを外して重力を戻せば、自分たちも天井に向けて落ちるのだろうか?

 気にはなったけど、試す気にはなれなかった。


「オルフ、探査には何も引っかからない?」

『今のところ、何も動きがないな。

 魔力反応も遙か下、最下層から動いておらん』

 夏梛の腕の中で、オルフェナが鼻をヒクヒクさせていた。

 に、匂い……なのか……?


「おとうさん、エレベーターから煙が出ているよ」

 見れば、メルフェレアーナが扉を突き刺したエレベーターから、煙が立ち上っていた。下方向に。


 何だろ? 違和感。


「篤紫さん、階段があるわ。行きましょう」

「ああ、慎重にな」


 違和感の正体が掴めないまま、篤紫は地下三階に足を踏み出した。


おや、何かかが変だぞ?

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