表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/88

46話 シーオマツモのダンジョン

コマイナはもう着陸しました。

 雨が降ってきた。

 無事、魔導城の前に着地したところで、激しい雨に見舞われた。


 熱された大地に降り注いだ雨は、瞬く間に霧となって、濃く辺りに立ちこめた。まさにあっという間の出来事だった。

 コマイナダンジョンの西門を開けたまま、一行は立ち尽くしていた。


「ここにきて、初めて雨が降っている……のかな?」

 昼間の時間に外に出ていなかったから、気づかなかっただけなのだろうか。雨は激しく降り続いていた。

 門で空間が隔てられているため音はしない。地面に落ちた雨が次々に霧に変わっていく様は、初めて見る光景だった。


「降っている雨で、大地がある程度冷めるまで、一旦待機ですね。

 魔導城の城門は目と鼻の先ですが、陽光で加熱された大地は、まだしばらく熱いはずです。

 騎士団は受け入れ準備のため、天幕とテントを張ってください。念のため各自、救命魔道具と、魔石、支援物資の確認をお願いします」

 タカヒロさんが、後ろに控えていたスワーレイド騎士団に指示を飛ばしていた。

 街の惨状からすると、避難できていれば魔導城は怪我人が多数いるはず。


 コマイナの西門には、総勢五十人ほどが待機していた。

 メルフェレアーナを先頭に、ダンジョン制御のために白崎家三人。サラティさんとタカヒロさんを筆頭に、スワーレイド騎士団四十人がそれぞれ空間拡張袋を持って西門の先、魔導城の城門が見えるのを今か今かと待っていた。


 午前中の焼滅光線が照射されてから一時間。もし雨が降らなければ、夜まで待つ必要があったはず。

 降り続ける雨を見ながら、検温のためにダンジョンの外に片手だけ出しているメルフェレアーナを見ていた。


「おとうさん、シャーレさんは大丈夫かな?」

 夏梛が、メルフェレアーナを見ながら心配そうにつぶやいた。

 魔導城はシーオマツモ王国の城であると同時に、メルフェレアーナの自宅でもある。非常時は避難施設として、国民を受け入れることになっている。


 メルフェレアーナの話によると、最初に焼滅光線に襲われたとき、時間的な余裕は全くなかったらしい。魔法が得意なメルフェレアーナですら、防御する暇も無かったことを考えると、この国に、どれだけの被害があったのか想像すらできなかった。

 少なくとも、全ての建物が崩れたシーオマツモ王国の市街地に、かつての面影はなかった。


「よし、いけそうかな……」

 ダンジョンの外に出していたメルフェレアーナの手が、真っ赤になっていた。魔法で作り出した水球に手を突っ込んで、手を冷やす。


「季節がまだ冬でよかったよ。思ったよりも冷えるのが早いね。

 いま外の気温が四十度くらいまで下がっている。あとは霧を魔法で吹き飛ばせば、魔導城の城門まで行けるよ。

 わたしが先に行くから、みんなサポートをお願いね」

 振り返って全員が頷くのを見届けて、メルフェレアーナはダンジョンの外に踏み出した。





 篤紫は、騎士団の後から、ゆっくりとダンジョンの外に足を踏み出した。

 途端に、うだるような熱気に包まれる。


「これは……さすがに、暑いな。

 霧を吹き飛ばしたとしても、湿度までは変わらないのか」

 汗が、止めどなく溢れてくる。


 十メートル先の城門では、メルフェレアーナを先頭に、人一人分開けられた隙間から、魔導城に入っていくところだった。


 ちょうど中間点で、篤紫は立ち止まる。

 鞄から魔石を取りだして、溶けてガラス質になっている地面に置いた。

 そして、紫緑の魔術ペンで魔術を描く。


Maintain a temperature of 20 for 5 hours with a radius of 20 meters.


 魔術文字が輝きだし、周囲の気温が一気に下がった。

 これで、次の太陽の焼滅光線までの間、五時間の間は気温を二十度に保てるはず。


「篤紫さん、これは魔術の力なのかしら?」

 横で目をぱちくりさせていた桃華が、篤紫の汗をぬぐいながらたずねた。

 夏梛も服を扇ぎながら、大きく深呼吸をしている。


「ああ、桃華のおかげで、魔術の幅が広がったよ。

 せめて、避難する人がコマイナまで移動しやすいように、って思ってさ」

 魔石を押し込むと、ちゃぷんと言う音とともに、魔方陣に吸い込まれていった。


 城門が徐々に開いていき、中から包帯を巻いた怪我人が、次々と騎士に付き添われてコマイナに向かって歩いてきている。

 いつの間にか雨は止み、見上げた空は青く澄み渡っていた。






 全員の移動が終わったのは、午後の二時半。時間的にはギリギリだった。

 閑散とした城内には、所々血の跡が残っていた。


「ありがとうございます。助かりました」

 リメンシャーレの顔には、疲労の色が濃く出ていた。

 魔導城には圧倒的に物資が不足していたらしい。そもそもが、魔導城の周りにあった城に保管されていたたため、三回目の焼滅光線で全てが壊滅してしまったそうだ。


 まさにギリギリだった。


「何とか間に合ってよかった。あとは、この城自体をコマイナの中に移動させるだけかな」

「城を、移動……ですか?」

 リメンシャーレが少し悲しい顔をする。


「母上から話は聞いていましたが、ご覧の通りこの城はダンジョンになっています。可能なのでしょうか?」

「大丈夫だよ。外壁に少し魔術で細工すれば、オルフが収納移動できるよ。な、オルフ?」

『ふむ、この城程度であれば、何とかなるであろう』


 あとは、地面から少し浮かせることができれば何とかなるか。

 篤紫は、いつの間にか閉じられていた城門に手をかけた。


「あれ? 門が開かないぞ?」

「えっ、開かないって…………ああぁぁぁっ!」

 メルフェレアーナが突然大声で叫んだ。


「シャーレ? ダンジョンのマスターとサブマスターは確か十人登録してあったよね?」

「はい、母上。宰相をはじめ、爵位を持った貴族の方々が登録されています」

「ちなみにシャーレは?」

「私は権限を持っておりません。先王が亡くなったときには、悲しいことに、隣の国にいました。現在は宰相がマスターを継承しています」

「うわ、ここの中に権限を持った人が誰もいないんだ……」

 メルフェレアーナが頭を抱えた。

 何か問題があるのだろうか?


「となると、ダンジョンボスが復活しちゃったかな」

「レアーナ、説明をお願いできるかな?」

 なにやら、聞いてはいけない言葉が聞こえた気がするのだけど。


「あー。簡単に言うとね、ダンジョンボスを倒して、マスター権限を誰かが登録しないと、このダンジョンの中から出られないんだよ。

 権限を持っている全員がコマイナダンジョンに行っちゃったからで、リンクが途絶えて権限がリセットされちゃったんだよ」

「え? だってお隣のダンジョンの中に行っただけじゃないの?」

「空間が断絶されているから、死亡判定になったんだよ」

 確かにダンジョンは亜空間の扱いだったか。魔導城から外に出ただけなら問題ないけど、亜空間まではパスが繋がらない……。


「って、コマイナもやばいのか?」

「あ、あそこは妖精コマイナちゃんがサブマスター権限持っているから、この先ずっと変わりないはずだよ。

 ダンジョンコアが生きているなんて、本当に前代未聞なんだから」


 つまり……。

「このメンバーでシーオマツモのダンジョンを、攻略しないといけないと言うことか」

 篤紫は周りを見回した。

 桃華、夏梛、オルフェナ。メルフェレアーナに、リメンシャーレ。

 ……無理じゃね?


「ちなみに、ダンジョンコアの場所は分かっているの?」

「そこの石碑が入り口だよ。

 元々ここには、石碑とこのエントランスの四隅にある柱が立っていただけだったんだ。

 都合がよかったから、上に城を建てたら、まとめてダンジョン化しちゃったんだよね。ダンジョン本体はその石碑の下にあるよ」

 そう言いながら、メルフェレアーナはエントランスの真ん中にある、案内板になっている石碑に魔力を注ぎ込んだ。


 ゴゴゴゴ――。

 鈍い振動音とともに、石碑が奥にズレていった。


 石碑が動いた後には二メートル四方の穴が開いていた。

 篤紫は穴の縁から中を覗き込む。


 ぽっかりと空いた穴の中には、何故か床からシャンデリアが生えていた。


次回、ダンジョンにもぐります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ