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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
三章 コマイナ都市遺跡
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39話 ダンジョンコア

おや、シリアスさんが……

 海面は波もなく穏やかだった。


「うわああぁぁぁ、くっそ楽しいぞおおぉぉ!」

 ダンジョン内の海は、多少の海流はあるものの、構造的には人工の海だと言える。水も塩水ではなく淡水のようだ。


 その水面を凍らせながら、オルフェナが爆走していた。

 篤紫は、助手席に座って子どものようにはしゃいでいる。


 ちなみにハンドルも、ペダルすらもなくなっている運転席では、夏梛が意味もなく腕を組んで、ニヒルな笑みを浮かべてふんぞり返っていた。

 事態は出発直前に遡る。





「ね、あたし運転手よ。いいでしょ?」

 いつも通り運転席に乗り込もうとしていた篤紫は、夏梛に服を引っ張られて砂浜にすっころんだ。

 スライドドアを開けて乗り込もうとしていた桃華も、思わず動きを止める。


「なっ、はっ? アツシさんは……」

「か、カナちゃん……?」

 見送りに来ていたシズカさんとカレラちゃんも、突然のことに声を失った。


「いててて。砂浜って、転けるとけっこう痛いんだな」

「もう運転席に乗ったから、今日はおとうさんが助手席だよ。ここはあたしの席だよ」

 運転席にきちんとジュニアシートを乗せて、シートベルトも締めてスタンバイした夏梛は、自慢げに篤紫を見下ろした。

 立ち上がり、身体に付いた砂を払って、篤紫は思った。



 これは――素晴らしいじゃないか。

 いつも運転席で、寝る間も惜しんで運転していた。

 隣で寝る夏梛と、後ろで寝る桃華のいびき合唱を聴きながら、来る日も来る日も睡魔との熾烈な争いを続けてきた。

 だが、今のオルフェナにはハンドルがない。それどころか、アクセルペダルやブレーキペダルすらも無いじゃないか。

 これは……なんて画期的なことなんだ。もはやストレスフリーじゃないか!


 篤紫は、夏梛の肩に手を置いた。

「よし、本日のキャプテンは夏梛。君だ。本艦の全権を君に委ねる。

 オルフェナを操り、我々を栄光に導いてくれたまえ」

「は、おとうさま。あたくし夏梛は、キャプテンをハイメイいたしました。

 必ずや、栄光を掴んで見せます。どうか、お側で見守っていたください!」

「「「…………」」」

 盛り上がる二人を見つめる外野の視線は冷たかった。

 見送りのシリアスだった空気は、完全に空の彼方へ飛んでいった。





 無事中央島の砂浜に上陸したオルフェナは、そのまま森を抜けて、橋から続く道路に躍り出た。

 少し走ると、途端に何かの魔法か、辺りが暗闇に閉ざされた。


 前照灯を点灯させる。

 そこにはおびただしい数のアンデッドが、光に照らされ、瞬間に粉微塵になって、光をまき散らしながら、昇天していった。


『ふむ、魔石取り放題のボーナスステージだな』

「何を言っているのかな、オルフさんや」


 残った魔石は、走りながらオルフェナが次々に回収していく。

 進む先に現れた砦のような建物も、減速して一周。

 周りにひしめいていたアンデッドを全て消滅させて、予定通りコマイナ都市遺跡中枢に向けて、加速、爆走していく。

 車内では、3人がいびきの合唱をしていた。





『ヨクゾ、ドウドウト、ワガマエニ――』ドゴオォォンッ!

 やぐらに乗って進んでいた何かを、オルフェナが光線で貫く。

「ん……ねえオルフ、なにかいたの?」

『夏梛か、よく寝れたようだな。すっきりした顔をしておるな。

 やぐらに何か乗っていたが、取りあえず貫いておいたぞ』

「さすがだね。そんで、今どこら変なの?」

『出発してから2時間だな。あと1時間くらいで着くだろう』

 寝ていた2人も目を覚ました。


 オルフェナは山間の谷間を走っていた。

 目指しているコマイナ都市遺跡中枢は、島の中心で高い山に囲まれている。東西南北から繋がる道は真っ直ぐに、地形の起伏はあるものの全て中央で交わっていた。


 森を抜け、砂漠を駆け抜け、溶岩地帯を抜けた。粉雪が舞うなだらかな山道を登って、最後に谷を抜ければ目的地にたどり着く、のだけど……全員寝ていて森からの記憶がなかった。


『ザコヲ、タオシタテイドデ、カッタナドト――キシャアアァァ』

 谷間の道、なぜか道の真ん中にあった玉座を、前照灯の光量を上げて消滅させる。

 途端に暗闇が晴れていく。

 周りにいたアンデッドが日の光を浴びて次々に崩れていった。


 そして、コマイナ都市中枢を見下ろす峠にたどり着いた。





「あそこが、コマイナ都市遺跡……」

 都市を見下ろす丘の上で、車から降りて背伸びをした。

 丸い湖の周りに、三日月型の都市がある。


 その真ん中に、ドーム型の建物が見えた。あそこが、目指す中枢。ダンジョンボスとダンジョンコアが鎮座しているはず。


「よし、目標はダンジョンコア。おそらくあのドームの中にあるはず」

「いよいよね、寝ていたから大変だった実感がないのだけれど」

『疲れていたのだな、車内に振動を伝えずに高速走行する、いい練習になったぞ』

「あたし、ちゃんとオルフの運転してきたよ」

「ありがとな、初めてだよ。娘の運転で走れるなんて、夢のようだった」

「えへへへへ」


 いざ、決戦の地。

「じゃあ、行きますか」

「ええ」「うん」『そうだな』







 アンデッドの襲撃が全く無くなっていた。

 南側の市街地の門から、あっさりと中に入れた。


『魔物の反応がないな、どういうことだ?

 ここが敵の本拠地なのだが、アンデッドの反応が全くない。隠れているわけでは無さそうだが……不思議なこともあるのだな』

 羊の姿に戻ったオルフェナが、索敵をしながら呟いた。


 どこか懐かしい風景だった。

 よくテレビに白黒映像で流れていた、大正時代から昭和初期に見られていた風景。日本の建物と西洋のレンガ仕様の建物が混ざった、昔の都市が再現されていた。

 ここはダンジョン、恐らくこれは誰かのイメージを再現した造形だろうと推測できるけど……。



「すごいわね。これこそ、異世界に移動したみたいな感じ」

 桃華が足下を見ながら感嘆の声を上げる。


 路面にはレンガが敷き詰められ、路面電車の線路が中央に敷かれていた。

 建物の壁は橙色のレンガで作られているのに、屋根は日本の瓦屋根。西洋風のとんがり屋根も多い。

 風景だけ見るならば、すごく綺麗な景色だった。



 進みながらオルフェナが索敵を続けるも、危惧していたアンデッドもいない、完全に無人の街が広がっていた。

 夜になれば湧いてくるのだろうか……まだ日が落ちるまで3時間ほどの余裕がある。


「静かすぎるよな」

 中央のドームに向かいながら、篤紫が呟いた。

「オルフのレーダーには、なにも引っかからないのかしら?」

『建物の中も探査しておるが、いっさい引っかからんな』

「えっ、建物の中までわかるの?」

『うむ、音波と電波、それに魔力波まで飛ばしておるよ。

 魔物には必ず魔石がある。夏梛ですら、魔力波で補足できるんだが、他に一切の反応がないのだよ』

「すごいね、オルフ」


 結局、何の動きもないまま、中央のドームまでたどり着いてしまった。

 ドームは東京ドームほどの大きさの建物だった。

 東西南北、それぞれから延びてきた道が、この建物の四方にある入り口に繋がっていた。





 光の魔法で明かりを灯した。

 中は、だだっ広い空間が広がってた。真ん中にレンガ造りの四角い建造物があるだけ、それ以外はむき出しの地面になっている。

 そして、誰もいない。


「なあ、オルフ。本当にここにダンジョンコアがあるのか?」

『魔力反応は、あの真ん中の建物だけだな。恐らくだが、あの下にあるのがダンジョンコアであろう』

「でも……ボスがいないのは何でなんだ?」

「あたしわかった、あの真ん中の部屋で寝てるんだよ、夜にならないと起きないんだと思う」

『ふむ、着眼点は良いのだが、この建物の中が夜と同じ条件だったから居ないというのはただの怠慢であろう』

「……それは違うと思うわよ、オルフ」


 慎重に歩みを進める。

 よく見ると、地面には何かの骨が散らばっている。

「きゃっ――」

 桃華が口に手を当てて悲鳴を飲み込んだ。

 全員じっと動きを止めた……なにも起きないか。


「これってスケルトンの元なんだよな?」

『であろうが、魔力反応は無いな』

「飾りかな、遊園地のお化け屋敷にもおんなじの見た」

 そう言いながら、夏梛が何かの骨を拾い上げた。


「これって牙かな?」

「ドラゴンの牙だったりしてな」

『鑑定ができれば良いが、ゲームのようにはいかぬな。魔力を通して中に魔石を錬成できれば、蘇るかもしれぬが』

「わかった、持って行くね」

 おもむろに、ポーチに放り込んだ。


 建物は入り口が無かった。

 一周まわっても、スイッチも仕掛けもない。




「魔力込めると、動いたりするのかしらね」

 桃華が、何の気なしに建物に魔力を込めた。

『ゴゴゴゴ――――』

 振動音とともに、建物が垂直に持ち上がる。4角を柱で支えられ、中の空間が顕わになった。


 ダイアモンドカットされた紫色の石が、金の台座にはまっていた。

 これが――ダンジョンコア――。


『所有者の魔力を探査――所有者の魔力消滅を確認しました。

 新規魔力登録を受け付けました。所有者を更新しました』


「あら、なにか手に入ったみたいね」

「えっ?」「お、おかあさん?」『ふむ、さすがだな』


 アナウンスとともに、ダンジョンコアが淡く輝き始めた。


 篤紫は思う。結局自分の出番は――ないのか。


……予定と違うんですけど

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