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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
三章 コマイナ都市遺跡
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37話 コマイナ攻防戦

夜が訪れる……

 夜の帳が下りてきた。あちらこちらで、魔石灯の明かりが灯る。

 この後、アンデッドの襲撃が本格的に始まるという。

 辺りに張られているテントの中は戦々恐々としているようで、日が落ちたばかりなのにひっそりと静まり返っていた。


 篤紫の視線の先には、中央の島まで100キロ続いていると言われている長い橋が、まっすぐに伸びていた。

 道幅は20メートル程。綺麗に舗装されている。

 辺りが薄暗いため、島はうっすらと見える程度で闇に沈んでいた。


「アツシさん、ここにいたのですか。

 襲撃が始まると、ここは最前線になります。危険ですよ」

 タカヒロさんが声を掛けてきた。


 周りでは、スワーレイド城で仕事をしていた職員が、思い思いに休憩を取っていた。身体には胸当てなどの軽鎧を纏っている。

 ダンジョンの中は暖かいからか、鎧の下は薄手の着衣の者が多かった。



 スワーレイド湖国には、明確な騎士団は存在していない。タカヒロさんが説明してくれた。

 基本的にスワーレイド城の職員と、国の出先機関の職員が有事に騎士として出動する仕組みになっているようだ。


 元々が、魔族は小さい頃から魔法の訓練をする。日頃から外敵から自分たちの身を守るため、最低限の戦う心構えを学ぶそうだ。

 その中でも保有魔力が多く、有事に国を守る覚悟がある者が、国の職員として採用されているのだという。


「本当にアンデッドが襲って来るのでしょうか?」

 空を見上げる。不思議なもので、空に散らばっている星はコマイナ都市遺跡の外で見ていた星空と、全く同じだった。


「騎士団長の話だと、あと一刻程で見えてくるはずだ、と。

 昨日も日暮れと同時に橋を渡ってきたようですから――」

「タカヒロさんは、怖くないのですか?」

 篤紫の質問に、タカヒロさんが首を横に振る。


「もちろん、私も戦闘は毎回怖いですよ。でも、背中には守るべき家族がいる。

 だから退けません。負けるわけにはいかないのですよ。


 ――もしここに、我が国のソウルコアがあれば、確実に安全地帯を構築できるのですが、先の争いで失われましたので」

「ソウルコア……?」

 あのとき、ソウルコアはどうなっただろう?

 最後までスワーレイド城の上にあったはずだ。

 確かオルフェナに乗ったままで、誰も回収していなかったかもしれない。



 あの日、屋上の城で見たソウルコアは、球体で直径が1メートルもあった。重さもかなりのものだろう。持ち出そうとして、持ち出せるものじゃない。

 ここはなんとしてでも守り切らないといけないのか。

 魔力だけはあるけれど、攻撃魔法が使えない自分は、何ができるのだろうか……。



 哀愁に浸っていると、オルフェナが篤紫とタカヒロさんの前に歩いてきて、見上げてきた。

『篤紫よ、ソウルコアがいるのか?

 水のソウルコアと、風のソウルコア。どっちがいるのだ?

 ちゃんと城から回収してきておる。そもそも、あの奇天烈な帝国軍になぞ渡す気はないぞ』

「「えっ……?」」

 二人の声が完全に重なった。


『何を驚いておるのだ?』

「なんて言うか、さすがオルフだと思って」

『当然であろう。サラティ殿に借りると宣言したのだ、ちゃんと返すのが筋というものではないか?』

「それは……確かにそうだね」

「オルフェナさん、ありがとうございます」

『では急ぐぞ。時間がないのだろう』

 篤紫はオルフェナを抱え上げると、タカヒロさんと拠点へ駆け出した。




 緑色の魔力がサラティさんの手のひらからほとばしる。風のソウルコアに、サラティさんの魔力が流れ込んでいく。

 台座に乗せられたソウルコアが輝きだし、不可視の障壁が島全体を覆う。

 これで、国民登録が済んでいる者だけが、島に入ることができる。


 キャンプが賑わい始めた。

 長年スワーレイド湖国を守ってきたソウルコアは、それだけ信頼されているのだろう。

 こういう場面を見ると、魔術の可能性はすごいと感じる。


 魔法は結局、個の力だった。イメージ次第でどんな現象も起こせるけれど、反面思いの強さが確実に反映される。

 自分が殺傷力の高い魔法が使えないのは、自分が殺生を望んでいないからなのは分かっていた。


 だけど魔術なら、一度にたくさんの人を守ることができる。危険な場面でとっさに反撃できれば、この危険な世界で生き残ることができる。

 目の前のソウルコアも魔術がなせる技だ。

 魔術を極めてみよう。


 いつの間にか顔を出した月が、周りを照らしていた。

 みんな疲れて寝たのか、辺りが静かになっていた。






 橋が見える浜辺で、次議に襲って来るアンデッドを眺めていた。

 絶対の安全地帯。

 障壁の威力を目の当たりにしていた。


 おびただしい数の骸が橋を渡ってくるだけでなく、海中からも湧き出てきていた。

 勢いよく走り込んでくる骸は、障壁にぶつかった途端に自重で粉々に砕け散り、魔石だけがそのままの勢いで障壁の中に転がった。

 武器は全てはじき返し、近くにいたスワーレイド湖国の騎士が魔法で魔石を狙い撃ちにして倒している。


 橋を渡ってきた骸は障壁で身動きが取れなくなったまま、中からの魔法で破壊されていった。

 障壁は敵の侵入を許さない、絶対の防御だった。



 篤紫はしゃがみ込んで、飛んできた魔石を拾い上げた。

 黄色い魔石は、手の中でゆっくりと光を失っていく。


「なあオルフ、ひとつ聞きたいんだけどいいか?」

 隣にオルフェナが歩み寄ってきた。


『どうした篤紫。なにか悩み事か』

「オルフって本気出せば、世界征服とかできるんじゃないのか?」

 スワーレイド湖での防衛を思い出す。

 億にものぼる魔物の群れを、この小さな羊が殲滅したのはつい数日前だ。

 あれは魔法と魔術を併用した、恐ろしいほどに強力な複合魔法だった。思い出すと、いまでも胸が震える。


 オルフェナは首を傾げると、しゃがみ込んでいる篤紫の正面に回り込んだ。


『ふむ、なにか勘違いしておるようだが言っておくぞ。

 前の地球でも、いまのナナナシアでも、我の所有者は篤紫。お主だけだ。

 我は篤紫、桃華、夏梛。この3人を乗せて、守り、望む場所へ移動することが使命である』

「うん」

 確かに車検証の名義は白崎篤紫だ。まだ有効なんだな。


『そこに、他者の財産を不当に侵し、奪い、蹂躙することは含まれておらんし、当然ながら創造主によって禁忌とされている。

 敵は殲滅する。だがあくまでも大切な3人を守るためだけだ』

「そっか」

『世界などいらん。我には何の価値もない。

 だからこれからも、篤紫たちは弱いままでもいいのだ。なんの問題もない。

 だがな、自分で前へ進もうとするならば、我は力になるぞ。それが我の本懐であり存在意義なのだよ』

「ごめん」

 思いっきり勘違いしていた。

 今までもずっと、オルフェナの魔法は守るためにしか使われていなかった。ずっと守ってもらっていた……。


『この世界に来て、篤紫がずっと悩んでいることは知っている。

 篤紫には、作りたいものがあるのだろう? 大抵の材料は持っておるから遠慮せずに言うがいい。


 我は嬉しいのだ。ずっと篤紫と話がしたかったのだからな。

 ずっと我を、大切にしてくれてありがとう』

「……」

 涙が、溢れてきた。

 この言葉だけで、この世界に来られて良かったと心から思えた。





 一進も一退もしないまま、攻防は朝方まで続いた。

 ここまでの数の襲撃は、この日が初めてだったそうだ。間一髪助かったという状態なのだろう。

 昼頃になって、サラティさんのソウルメモリーにメッセージが入った。

 風のソウルコアが復活したことで、先遣隊と連絡が付いたらしい。


 それにより、スワーレイド湖国の職員を中心に動きが慌ただしくなった。

 

 まもなく、詳細が発表された。


 先遣隊は、最初の拠点を確保することができた。だが同時に、もの凄い数のアンデッドに囲まれて動きが取れなくなっている。

 救援は危険なので、送らないで欲しい。必ず生きて帰る。




 サラティさんが読み上げると、辺りは騒然となった。

 拠点までおよそ100キロ。時刻は昼を回ったところだ。

 騎馬で急行してもこれからだと到底たどり着けない。たどり着く前に騎馬が息絶えてしまう。


 事態は、最悪に近い状態だった。


この世界のアンデッドはダンジョンにしか出現しません。

ダンジョンコアがアンデッドを生み出しているのです。

魔石はありますが、魂はありません。

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