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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
三章 コマイナ都市遺跡
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34話 コマイナ都市遺跡

コマイナ都市遺跡に着いたよ

 シオコマ街道の終点は静かだった。

 馬車の停留と拠点の敷設のために、円形の大きな広場が確保されている。

 そこには、篤紫たちの馬車以外に何も停まっていなかった。


 予定よりも1時間ほど早く到着できたので、周りはまだ明るかった。

 馬車の軽量化は、想定以上の効果をもたらしたらしい。


「これが……コマイナ都市遺跡の入り口」

 巨大な黒曜石の正方形ブロックが広場の真ん中に鎮座していた。

 一辺が十メートルあって、横の四面にはそれぞれ大きな鉄の門が据え付けられていた。

 門は、全てが閉まっている。


「あそこに螺旋階段があるでしょ? あれでてっぺんに登ると、コマイナ都市遺跡の全貌を見ることができるのよ」

 シズカさんの説明に門から視線をずらすと、ちょうど角の部分に、螺旋階段が据え付けられていた。

 どうやら都市遺跡の上面に上れるらしい。


「でも上から全貌を覗くと、下からも人が見ているのよ。

 昔、この遺跡に探索に出ていたときに、空を見上げたら巨人がいたの。

 あのときはびっくりしたわ。

 後から、上に登った冒険者だったと分かったときには、おなかを抱えて笑っちゃったもの」

 深淵を覗くと、深淵もこちらをのぞいている、という迷言を思い出した。

 なんか深淵っていう文字だけでワクワクする自分がいる。って桃華と夏梛に言ったら、白い目で見られたのはいい思い出……。

 

 つまり、都市遺跡の外からは全貌が見えるけど、中から見上げると空の部分に天井があると言うことなのか。

 空間が圧縮されているのだろうか、かなり高度な魔術式が使われているように感じた。


「この遺跡は、どういった遺跡だったのですか?」

「ここの都市遺跡は、不死系のモンスターが湧く遺跡よ。倒すと平均してCランクの魔石が取れるから、魔石工場とも呼ばれているのよ。


 中の様子は上に昇って見れば分かるはずだけど、かなり広い空間になっているわよ。

 南の門から入って北の門まで、馬車で15日はかかるって言う話だから」


 つまり、10メートル四方の都市遺跡の中は、ざっと500キロ四方の空間になっていると言うことか……すげぇ。

 でも何かしら問題もあるのだろうな。




 しかし、門が開いていない。どうやって入るのだろうか。

 門を調べていた、タカヒロさんとレイドスさんが戻ってきた。


「困りましたね、現状ではコマイナ都市遺跡の中に入ることができませんね」

「押しても引いても、動く気配がなかったので、恐らくこの間の避難から閉まっている可能性が高いでしょう」


 幸い、夕暮れまでにはまだ時間がある。

 夜になるまでに分からなければ、都市遺跡の外で一泊するしかないが……。


「ここはもうしばらく私とレイドスさんで調べてみます。

 馬車はフォルテさんがいれば大丈夫ですから、コマイナ都市遺跡の上へ行ってみてはいかがですか?」

「……そうですね、せっかくなので行ってみます」

「サラティさんも連れて行ってもらえるとありがたいです。

 魔王として長い間、スワーレイド湖国で籠もっていたので、いい気晴らしになるかと思います」

「あ、タカヒロひどいな。私が籠もっていたなんて、人聞き悪いよ」

「ほぼ、事実ですよ」


 ぷっくりふくれたサラティさんを、タカヒロさんが軽く流していた。

 確かに魔力の強さで選ばれた魔王とはいえ、それなりに公務があるはず。壁の外は危険地域だし、ここまで気軽に観光に来ることは叶わないのかもしれない。


 下のことを三人に任せて、篤紫たちは螺旋階段を上っていった。






「うわぁ、すっごく綺麗ね、カレラちゃん」

「カナちゃん見て、あそこに何か動いているように見えない?」

「あの山の上にいるの、ドラゴンかな? 骨だけだけど」

「でも、ちっちゃすぎて蟻さんにも見える」


 まさに圧巻の一言に尽きる。

 周囲の縁に1メートルほどの通路がある以外は、開けた天井から遙か下に、航空写真でも見ているかのような景色が展開されていた。


 四角く囲まれた壁の内側は、一面の海だった。

 真ん中に大きな島があって、壁にある扉のそれぞれに半円状の小島がある。真ん中の島と扉の小島の間には、目算で100キロはあるだろう橋が架けられていた。

 目をこらしてみても、建物ですら砂粒にしか見えない。


 これは確かに、問題だらけかもしれない。

 恐る恐る手を伸ばしてみると、足下の床続きで透明な床になっていた。


「大丈夫ですよアツシさん。乗っても落ちることはありませんから。

 あの小島のどれかに、スワーレイド湖国の一時拠点があるはずです」

「ねえシズカさん、真ん中にあるのがコマイナ都市遺跡の本体なのかな」

「お魚とか釣れるのかしら?」


 大きな島のちょうど真ん中に、大規模な都市があるのが確認できた。

 その周りは高い山々に囲まれていて、ちょうどそれぞれの小島から続いている道の範囲だけ、峡谷になっている。


 しゃがみ込んで見下ろしてみても、どの小島が拠点なのか全く分からなかった。

 小島は恐らく半径で10キロ前後か、確かに一時拠点としては使えるだろうけれど、国民の数からしてほぼ満員の状態だと思う。


 寒い風が吹いてくる。

 天井縁の手すりから下を覗くと、タカヒロさんとレイドスさんが北側の扉を調べているところだった。

 と、街道の奥になにやら砂煙が見える。

 なにか……いやな予感がする。


「タカヒロさん! レイドスさん! 街道から何かこっちに向かっています!」

 慌てて大声で声を掛ける。

 徐々に、遠目に姿が見えてきた。――オークだ! それも大量の!


「オークだ! 取りあえずこっちに逃げてきてください!」

「わかりました! フォルテさんに急いで声を掛けます!」

 二人は、慌てて馬車の方に駆けていく。


 篤紫も急いで螺旋階段まで走った。

 声を掛けようとすると、ちょうどフォルテさんが馬を南へ逃がすところだった。馬車は…………あれ? 肝心の馬車がない?


 見ているうちに、フォルテさんは螺旋階段で二人と合流し、階段を駆け上がっていた。

 後ろから、白い塊も着いてきている。

 オルフェナか、姿が見えないと思ったら、馬車で番をしていたのか。お得意の無限収納で馬車を収納したのだろう。ありがたい。






 螺旋階段がキシキシと音を立てている。

 どこから湧いて出たのか、大量のオークがコマイナ都市遺跡の周りを囲んでいた。

 昼間も遭遇したけど、体高はたしか3メートルほど、横幅も人間の2倍はあったはず。必然的に螺旋階段が上れずに入り口で引っかかってしまったようだ。


「これは、まずいですね」

「スタンピード……では無さそうですね。隊長、どうしましょう」

「さすがに、この数を倒すとなると、時間を考えるときついと思うわ……」

 タカヒロさんとレイドスさんが苦い顔をしている。さすがにこの数は想定外なのだろう、シズカさんも大きなため息をついていた。


「あ、オルフェナ馬車を仕舞ってくれたんだよね、ありがとう」

 階段から遅れて上がってきたオルフェナが、篤紫の元に駆けてきた。


『3人の避難を優先したからな、馬車は何とかなったが、馬は逃がしてもらったよ。

 オークどもの餌にならねばよいが』

 オルフェナが目を細めた……ような気がした。

 まん丸の目のままだから、そんな空気だっただけなのだけどね。


『殲滅しても良いのか? 食用にするならば、頭だけ飛ばしてくるが』

「えっ? いや、すごい数だよ? さすがのオルフも……」

 そこで思い出した。


 魔力ブースとしてたとはいえ、つい数日前に億の数で押し寄せてきた魔物を、文字通り殲滅してたっけ。

 普通にチート羊だったのを思い出した。


「できるの?」

『オーク程度が何匹来ても、所詮はオークであろう?

 篤紫たちがここにいるなら、すぐに倒してこれる。待っておれ』


 颯爽と螺旋階段を下りていくオルフェナ。

「「「なっ、なんだってー!」」」

 下を覗いて苦い顔をしていた3人が同時に叫んだ。


 光線で頭を打ち抜く橋から、オークの死体が消えていく。

 コマイナ都市遺跡を囲んでいたオークが、ものの10分の間に一掃されていなくなった。


『キサマラ、オトナシク、メスヲヨコ――――』

 6メートルはあろうひときわ大きな、青いオークも喋っている間に瞬殺されていた。

 まさに、チート羊。主人公級の強さだった。

 これが小説だったら、オルフェナ無双~最強の羊は全てを滅ぼす~、とかいうタイトルで書かれているだろう。


 呆然と大口を開けている一行をよそに、全てを始末したオルフェナが螺旋階段で戻ってきた。


『篤紫の解体の練習にちょうどいいであろう。

 拠点ができて、安定したら肉屋でも開けるぞ。オークは肉質が柔らかくて、味も濃いのであろう? 大図書館の資料にも載っておったぞ』

「あ、はい……」


 白崎篤紫、異世界でお肉屋さんを開けるようです……。


安定のオルフェナ無双

でも、まだ遺跡に入れません……おかしいな

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