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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
三章 コマイナ都市遺跡
33/88

33話 シオコマ街道

街道を進みます。

おや、誰かが来たようだ……(嘘

 馬車の旅は順調だった。

 荷馬車が先頭を走り、乗用馬車がその後を続いていた。

 先頭の荷馬車はレイドスさんとタカヒロさんが操り、残りのメンバーは乗用馬車に乗ってゆっくり揺られていた。


「本日は、よろしくお願いします。

 この街道は、多少の魔獣は出ますが、割合に安全な街道なのですよ」


 篤紫は御者席に座りながら、隣で巧みに馬を操る御者さんの話を聞いていた。

 レイドスさんと同じ、竜人の男性だった。

 レッドドラゴン系の竜人なのだろうか、首元の鱗は燃えるような赤色をしている。


「街道と言いますと、この先にはなにか町か都市があるのですか?」

「いいえ、この先にはダンジョン以外には何もありませんよ。

 今は同志のスワーレイド湖国民が避難していますが、コマイナ都市遺跡と呼ばれているダンジョンが、大昔に一番南にあった都市ですよ」


 魔獣がいるからだろうか。

 人間族にしても魔族にしても、実際に居住している範囲はかなり狭いようだ。

 今まで訪れた、スワーレイド湖国にしても、シーオマツモ王国にしても、国の周りを高い壁で囲っていた。その中を安全地帯として、魔獣の生息域と分けているようだった。


「では、なぜ未だに街道として整備されているのですか?」

 道は、思いの外なめらかに作られていた。お尻に感じる振動が、驚くほど少ない。

 道幅も、馬車が2台余裕ですれ違えるだけの幅が確保されている。


「この街道は、冒険者がよく使いますからね。シーオマツモ王国の国策として、定期的に整地されているようですよ。


 ダンジョンとしては、コマイナ都市遺跡が有名ですが、実はここから南には他にも、大小たくさんのダンジョンがあるのですよ。

 人が住んでいない地域なので、魔力溜りができやすいのでしょうね」


 馬車の進む速度は、早歩き程度だろう。

 始めて馬車に乗ったけれど、オルフェナと比べるとやっぱり速度が遅く感じてしまう。

 自動車の発明は本当に世界を変えたのだろうな。

 こんな移動も悪くないけれど。




「ゆったり安心して、乗っていてくださいね。万が一、魔獣や野獣が襲ってきても、私が倒しますから。

 旦那様から、戦闘が得意ではない、学者様だと伺っています。

 先日の大避難でも、かなり活躍されたと聞いていますよ」

 この辺はレイドスさんと打ち合わせしてあったとおりだった。


 あのときは、実際に収納袋を配ったのはオルフェナだったのだけど、篤紫が魔道具職人で、急遽配ったということになっている。

 もっとも、大図書館できっちり資料を漁って、原理原則や仕組みなどはしっかり把握できている。今なら問題なく作れる。


「そうですね。短時間で避難ができて、あのときはほっとしました。

 これでも魔道具作りはまだ駆け出しなのですよ。

 もし良ければですが、なにか魔道具をお作りしますよ。ちなみにこの馬車は魔道具ですか?」

「いいえ、普通の馬車ですよ。

 旦那様も馬車にはこだわっておられましたが、さすがに魔道具の馬車までいくと、白金貨がたくさん飛んでいくようで、断念されたそうです。

 軽量化だけでも白金貨1枚だとか」

「それなら、休憩の時にでもレイドスさんに提案してみますね。

 今回もお世話になっているので」

「ぜひお願いします。旦那様も喜ぶと思います」

 雪景色を見ながら、馬車の旅は続く。





「それはありがたい申し出ですが、たまたま目的地が一緒というだけですよ。

 魔道具化に見合うほどのことはできていないと思いますが」

 休憩の時間にレイドスさんに提案したところ、逆に恐縮されてしまった。

 今は街道の脇で馬車から馬が外され、思い思いに休憩している。


「魔道具職人として、まだ経験が浅いので、それ程凄いことはできないと思います。ご迷惑でなければ、ぜひ」

「分かりました。

 それではお言葉に甘えて、馬車の魔道具化をお願いしたいと思います。

 コマイナ都市遺跡に着いて、設備の準備ができたらまたご連絡いただければ、対応させてもらいます」

「えっ、すぐにできるので大丈夫ですよ」

「はっ? すぐにと言いますと……ここでですか?」

「ええ、そうですが……」

「……なっ、…………はへ?」

 思いっきり驚かれてしまった。それに凄い顔。

 もしかして……やってしまったのか?





 通常、魔道具製作には一ヶ月ほどかかるらしい。

 専用の道具である魔導ペンで、一文字一文字魔力を込めながら書き込むため、熟練の職人でも一日10文字が限界なのだとか。


 篤紫は冷や汗を流した。

 自分が使っている収納鞄の魔道具、何文字書いたか憶えていないけど、確か10分くらいで作ったぞ……。

 まあ、いいか。やっちゃえ。



 魔導化するものが大地と触れないように、魔導台の代わりに魔道具化した魔導布を地面に敷き、その上に荷馬車を移動してもらった。

 魔導ペンを取り出し、御者台の足下に魔術を刻む。

 今回は軽量化と、耐久性能アップだけの簡単なお仕事です。


Reduce the weight of the horse-drawn car by half, doubling the durability performance,


 込める魔力は一万くらいでいいかな?

 淡く輝く魔方陣を描き、周りに文字を刻み込んでいく。刻む端から輝く文字に、周りからは感嘆のため息が聞こえた。

 文字を刻み、最後のピリオドを書き込むと、荷馬車が光り輝き、周りからも驚きの声が上がる。


 光が消えると、馬車は同じ所にあって、外見上は変わったように見えなかった。御者台の足下に魔方陣が淡く輝いている。

 やっぱり、10分くらいで終わったな。


「……終わったのでしょうか?」

「ええ、終わりました」

 レイドスさんがおそるおそる尋ねてきた。


 効果はてきめんだった。

 先ほどは男4人がかりで何とか動かせた荷馬車が、二人で軽々と移動させられた。魔術は凄い。

 そのまま、乗用馬車にも同じ魔術を刻み込んだ。


 乗用馬車の魔道具化が終わったところで、篤紫は動きを止めた。

 ……あ、やばい。荷馬車の荷物を下ろしてもらうのを忘れていた。

 まあいっか、中のものも軽くて丈夫になっただけだな。

 それに魔石を設置するところもないけど、たぶん何とかなるか。


 休憩の後は、心なしか馬の動きが軽やかだった。

 駆け足レベルまで速度が上がっている。軽量化恐るべし。

 隣の御者さんも嬉しそうだった。





 行程の8割程度が消化できた頃、急に前の荷馬車が減速した。何かあったのだろうか?

 御者席からタカヒロさんが駆けてきた。


「前方で冒険者の方が魔獣と戦闘をしているようです。

 劣勢のようなので、少し援護に行ってきます。


 荷馬車はレイドスさんだけで大丈夫と言っていましたが、念のためフォルテさんも前に控えていたください。

 アツシさんは、念のためシズカさんに声をかけておいてください」

「あ、はい」


 隣の御者――フォルテさんは、御者席の椅子下から槍を取り出すと、タカヒロさんと一緒に荷馬車の方に駆けていった。

 相変わらず、名前知らなかったよ。御者さんは、フォルテさんって言うんだね。


 戦力外の篤紫は、背中の小窓を開けると、中のシズカさんを召喚した……。




「ありがとうございます、まさかオークが10体も出るとは想定外でした。

 お礼としてはなんですが、倒したオークは全頭お渡しします」

「いえ、お気になさらず。

 命があっての物種といいますから、また今度は別の誰かを助けてあげてください。こういうときは助け合いですよ」


 冒険者のリーダーがタカヒロさんに頭を下げた。


 遠目に見ても彼らの動きは悪くなかった。

 5人パーティのバランスのいい、ベテランパーティのようだ。

 ただ、さすがに10匹ものオークを同時に相手をするには、後衛を守りながらだとどうしても本領を発揮できない。


 魔法使いの女性が怪我をし、傷を治すはずの治癒士と分断されていたのも致命的だった。

 完全に劣勢だった。


 参戦したタカヒロさんが、青い炎を纏いながら一瞬にして半数のオークを屠ったのには、さすがにびっくりしたけれど。

 ていうか、タカヒロさんが戦うのを初めて見た。



 ちなみにうちの女性陣は、篤紫の後ろの乗用馬車に乗っていて、御者席に来たシズカさんに守られていた。オルフェナも中にいるため、ほぼ敵なしの状態だ。

 篤紫は、完全に戦力外だったが。





 冒険者達は何度もお礼を言いながら、シーオマツモ王国へと歩み去って行った。結局、オークは10体全部置いていった。

 食料として、豚肉と同じように食べられるらしい。

 なぜ、こんなところでオークが、それも多数出たのか――それぞれ情報として持ち帰ることになった。


 倒したオークをオルフェナに収納してもらう。


 一行は一路、コマイナ都市遺跡へ走り出した。


次回、コマイナ都市遺跡に到着します。


今回は順調です。決して、ブルーオークのねぐらに向かおうとなんてしていませんよ(ぇ

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