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家族三人で異世界転移? 羊な車と迷走中。  作者: 澤梛セビン
二章 シーオマツモ王国
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28話 魔女っ娘

その頃、桃華達は……

 街の景色を眺めながら、桃華は幸せいっぱいの笑顔を浮かべていた。


 もともとヨーロッパの街並みに憧れていた。

 インターネットサイトで見るたびに、いつか行くと心に決めていたのだ。


 でも、飛行機が怖くて、行くとしたら船なのよね。

 昔、新婚旅行で九州に行ったとき、オランダの街並みを模したテーマパークに寄ったのだけれど、あそこは私の夢の国だったわ。

 わざわざ篤紫さんと二人で衣装を借りて、その国の人になりきったのはいい思い出。


「おかあさん、外人さんがいっぱいだね。あたしああいうレンガのお家に住みたい」

 半日寝られたのが、よかったのかしらね。

 ここ数日は緊張しっぱなしだったし、カレラちゃんと手をつないで緊張でずっと泣きそうだったもんね。


 桃華は、二人の元気な姿に安心した。

 隣の国に逃げてきて、まだ半日。事態は、悪くないだけで何も変わっていない。むしろ、シズカさんも言っていたけど、コマイナ都市遺跡に行くまでが危険なのかもしれない……。


「カナちゃん、オルフ大丈夫かな? 迷子になっていないかな?」

「うん、大丈夫だよ。オルフはおとうさんよりもしっかりしているから、絶対に夜にはモフモフできるよ」

「そうだよね、オルフ可愛いもんね」

「オルフのぬいぐるみ、前のうちにもあったんだよ」

「えー、いいなー」


 夏梛とカレラが手をつないで、たわいのない話をしている。


 怖い思いをさせてしまったと思う。

 でも、私たちがこの世界に来てから使えるようになった魔法は、未だに生活魔法の範囲だけ。

 イメージするだけでいい。シズカさんにレクチャーを受けても、そもそもイメージを具現化できずにいた。


 もちろん、篤紫さんと原因は話し合っている。

 私たちには、覚悟ができていない。

 生き物の命を奪うこと、そして人の命を奪うことに、本能的に怖がっているのよね。だから、生活魔法以上の魔法が使えない。

 それが、この世界で生きていく上で、大きな枷となっていることも気づいている。


 夏梛にも、命を奪う行為をさせたくない。

 親としての、ごく当たり前の願い。でもこのままこの世界で生きていくなら、その願いすら叶いそうもない。


 でも、だから、悪いとは思いつつ、オルフェナに頼り切っている……。






「モモカさん、私のお薦めの洋服屋さんにそろそろ着くわよ。

 さっきまでニコニコしていたのに、なんて顔してるのよ?

 ほら、元気出して。モモカさんらしくない」

 その顔は、反則だな……。


 カレラちゃんの祖母のシズカさん。

 透き通るような肌に、サラサラストレートの黒髪。

 おまけに凄い美人。

 桃華を見つめるその赤い瞳が、全てを理解して、なお前へ進むことを促してくる。


 そっか、考えすぎているわね。

 もう、私たちは、この世界の住人。

 早く慣れなきゃ。

 そういえば篤紫さんが前、嬉しそうに言ってたっけ。確か、こんな感じかしら……。


 わたしも、人間をやめたみたいね。



「シズカさん、私もヨーロッパデビューしなきゃ。

 絶対にあのおしゃれな服買うわよ」

「そうよ、一緒によーろっぱでぶーしなきゃダメよ。来て、こっちよ」

 3人を先導していくシズカさん。

 この人が96歳なんて、とても信じられなかった。





「おや、奇遇ですね。

 まさかここでお会いできるとは、思いも寄りませんでした」


 シズカさんに案内された店は、まさかの高級洋服店だった。

 でも同時に、妙に納得している自分もいる。


 大量生産がないこの世界では、価格を下げるにはどうしても品質を落とさないといけない。

 品質を落とすくらいなら、高い素地の服を買って長く使った方がいいに決まっている。いくら生活魔法で汚れは落とせても、服の傷はそのままなのだから。


「バルザックさんお久しぶりね。こちらには仕入れかしら?」

 店にいたのは、スワーレイド湖国で衣料店を営んでいた、竜人の紳士レイドス・バルザックさんだった。

 手に持っていた布地をカウンターに大事そうに置いて、こちらに振り返る。


「ええ、ここのお店の布材が、非常に品質がいいのですよ。

 まさか、商談で国を留守にしている間に、スタンピードが起こるなんて思いもしませんでした。

 メイルランテ魔王から、ソウルメモリーに直々のメッセージが届くとは思っていませんでしたが。

 モモカさんがここにいらっしゃると言うことは……」

 そこで、レイドスさんはシズカさんに気がついた。


「これは、タナカ隊長。お久しぶりです」

「もう引退して40年よ。でも、そう呼ばれるのも懐かしいわね」

「タナカ隊長はいつまで経っても我らの隊長ですよ。

 では、そちらのお子様がもしや?」

「ユリネとタカヒロの娘よ。カレラよ。私の可愛い孫ね」


 なんか、二人の話を聞いていると時間の感覚がおかしくなってくるわね。

 40年前なんて、私ですら生まれていないじゃない。


「隊長までいるとなると……もしかして、自分らの祖国は……」

「残念だけど、国は壊滅したわ。既に瓦礫だけで何も残っていない。

 でも、国民は全員コマイナ都市遺跡へ避難を完了している。


 サラティとタカヒロが今頃、女王に謁見しているはずだから、ひとまずは何とかなるかしらね。

 落ち着き次第、私たちもコマイナ都市遺跡へ向かうことになるわ」

「明日湖国へ帰る予定でしたが、そういうことでしたら商会で馬車を手配しましょう。

 目的地は一緒ですからね」

「助かるわ。後でタカヒロにも伝えておくわ」  


 レイドスさんは私とシズカさんに黙礼すると、夏梛とカレラちゃんの頭を愛おしそうに撫でて、カウンターに戻っていった。

 宿も、今の宿から私たちが泊まっている宿に変更するそうだ。




 目に飛び込んできた店内は、完全に予想外の光景が広がっていた。

 桃華はびっくりして目を見開いた。


 大量の衣服が、ハンガーに掛けられていた。それも、全てが同じサイズに見える。

 一つの衣服が、同じデザインで5着から10着ずつある。

 広い店内に所狭しと駆けられている様子は、まさに日本でもお馴染みの、衣料の大型店そのものだった。


「おかあさん、すごい量だね。ても、あたしの着れる服が無さそう」

 確かに、私でも着られる服が無さそうね。


 親子二人で困った顔で思案していると、大量の服を抱えたシズカさんとカレラちゃんが近づいてきた。


「モモカさん、このお店は魔道具でフィッティングをしてくれるから、好きな服を持ってくればいいのよ。

 なんなら、カナちゃんとお揃いの服にもできるわよ」

「カナちゃん、可愛い服見つけたの、こっち来て。早く早く」


 夏梛がカレラちゃんに手を引っ張られて、服の中に消えていった。


「前はたくさん服が買えなかったけど、オルフちゃんのおかげでいっぱい持てるようになったから。

 たくさん買うわよ!」

 そっか、オルフが二人にも魔法の鞄プレゼントしてたっけ。


 桃華は、ネックレスを指で弾いて、宿に置いてあったキャリーバッグを喚び出す。

 光とともに足下に出現したキャリーバッグを引きながら、衣服の林に突入していった。




 洋服店にあった伸縮の魔道具は、正直言ってすごかった。

 見た目は、人が立っては入れる箱を横に2つ並べただけの物だった。


 片方が、ファッションセンターによくある試着室のカーテンがない状態の箱で、もう片方は扉付きのガラスケースになっている。

 ガラスケースに服を掛けて、もう片方の部屋に入って壁にあるボタンを押すだけで、ガラスケースの中にある服が、モコモコ蠢いて私の体型に変化した。

 もう、あっという間に。


 もちろん、夏梛が入ってボタンを押しても、夏梛のサイズに変形する。

 お嬢さんが大きくなったら、成長に合わせてまた調整できますよ――店員さんの言葉に、思わず心の中でガッツポーズしていた。

 子供服って、すぐに着れなくなっちゃうのよね。


 支払いに金貨が何枚か飛んでいったけれど、気前よく払うことができた。

 その辺はオルフ様々よね。





 店を出ると、日がかなり傾いていた。

 やっぱり自分もそうだけど、女性の買い物は時間がかかるわね。

 前を夏梛とカレラちゃんが、相変わらず手をつないで楽しそうに歩いている。

 もうじきこの、雪景色がオレンジ色に染まるのだろう。


「あれ? モモカさんキャリーバッグ忘れてきてるじゃない。

 待っててね、取りに行ってくるから」

 シズカさんの声に気づいて振り返ったときには、既にかなり遠く、さっき曲がった街角を曲がるところだった。


 そういえば、お金を払ってカウンターの横に置いたままだったわね。

 説明しておけばよかったな、喚び出せるって。



「きゃああああぁぁぁぁっっ――」

 目を離したのは、そんな一瞬のことだった。

 振り返ると、夏梛とカレラちゃんが数人の男に抱えられて、路地裏に連れ去られていくところだった。


 え、待って。

 待って、待ってってば!

 なんで? 何でこんなことが――。


 歯を食いしばって、桃華は駆け出す。

 路地裏に入って見えたのは、地面に仰向けで押さえつけられて、今まさに、心臓めがけてナイフが振り下ろされる所だった。


 だめ! 絶対にダメ。

 時間、待って! 今すぐ止めて!

 夏梛とカレラちゃんのために、時間待って! 止まれ!


 世界が反転した。


 全ての色が反転した世界は、時間も物も空間すらも止まった。


 間に合った――。

 意識はあるが、動かない体を強引に動かす。

 少しずつ、ほんの少しずつ体が動き始める。


 突然、弾けるように体が動き、仰向けの夏梛とカレラちゃんの前まで転がった。

 ナイフは、心臓まであと1ミリのところで止まっていた。


 男達を蹴飛ばす。

 複数いた男全てが壁まで転がったところで、二人を抱え上げた。

 軽々と持ち上がる。異様に軽い。




『膨大な魔力を感じたから来てみれば、魔法を使ったのはあなただったのね。それも魔術ではなく魔法で。

 二人、助けられてよかったね』


 声を出そうとした。でも声が出なかった。

 敵ではない――とっさに理解して、頭を縦に振った。


 そこには一人の女性が佇んでいた。

 長い黒髪のその少女は、絵本の魔女がよく被っている黒のとんがり帽子に

、黒のローブ。手にはひん曲がった杖を持っていた。

 まさに魔女の装い。テレビでよく見た魔女っ娘そのものだった


『男達は放っておけばいいよ。

 そのままにしておけば、勝手に自滅するはずよ。


 ただ、加速と肉体強化を経ずして時間を止めた代償は、必ず返ってくるから気をつけてね。安全なところまで二人を運ぶことをお薦めするよ。

 と言っても、何もしてあげられないけれど……』

 そう言うと、手を振りながらふわりと浮かび上がる。

 そのまま空の彼方へ飛び去っていった。


 桃華はあらためて、夏梛とカレラちゃんを抱え直し、色の変わった世界を表通りに向けて駆け出した。


時間停止は、ロマンですね

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